この映像はどこかおかしい1
今頃は教会でユーナとダリアが会見をやっているのだろう。
この世界にもマスコミみたいな職ってあるのか?
まあ、無いなら会見なんてしないし恐らくあるのだろう。
「そういえば、欽治。さっきの事なんだが」
「え、さっきの事って?」
「いや、お前が美人になっていることなんだが」
「び、美人だなんて! そんな! 女神様の方が!」
いや、本当に可愛さが増している。
ホスピリパの教会で別れた後、何があったのだろう?
少しの間でこんなに変わることはないし。
「なんかよく見ると背も少し伸びてないか?」
「えっ? あ……リュージさんには話しておきますね」
「何かあるのか?」
「ダリア先輩の能力を覚えていますか?」
「トラベラーだっけ? 距離や時間にとらわれないチート移動なんだよな」
「チートって何ですか?」
「あ、すまない。気にせず続けてくれ」
「は、はい。実はそのホスピリパの教会で別れた後に元の世界に帰れました」
うらやましい。
しかし、これでダリアの力が本物だってことはわかった。
欽治が嘘を付くはず無いからな。
俺もダリアに頼んで何とか帰らせてもらえないか聞かないと。
「僕は帰った後に学校へ行ったり、お父さんに修業を付けてもらったりしていました」
「普通じゃないか、何年も行方不明になっていればな。親御さんも心配していただろう?」
「いえ、ダリア先輩の計らいで僕の消えた1時間後の世界に戻らせてくれたんです」
そりゃ、凄いな。
俺もそうしてもらえると親や友人に心配されないし、学校の授業の進行も何の問題も無い。
しかし、ここで何年も過ごすことになると学校の内容忘れてしまうな。
忘れない程度には復習をしておくか。
あ、でも教科書や問題集が無いし……諦めよう。
「良かったじゃないか。親御さんにも余計な心配をかけずに済んで」
「ええ、それは良かったのですが。女神様とダリア先輩が……」
「……何かしでかしたか?」
「ユニットを組んで人気を出すには早い方が良いと、あっちの世界で先にデビューしちゃいました」
「は? そんな数時間で人気が出るものなのか?」
「ダリア先輩はもともとソロ活動で人気があったのですが、女神様はまだまだ新人なわけで……」
「あっちでみっちりアイドルの修業をしたとかか」
「はい。女神様は魔法のパフォーマンスで人気が出るのにそれほど時間はかかりませんでしたが、1年ほど……」
「1年向こうでアイドル活動をしていたのか。それで欽治も大人っぽくなっているわけだな」
「は、はい」
ダリア、もはやとんでもない存在だ。
時間も関係無しだからあっちで2年でもこっちでは数時間ってか。
完全にチートじゃねぇか。
ユーナも美人になっているのか?
まあ、もともと見た目は悪くないし。
「雪ちゃんはユーナのおじさんの家に置いたままか?」
「ええ、うっかり忘れていました」
うっかり忘れるなよ。
お前の妹だろう。
「じゃ、向こうで雪ちゃんのいない生活だったわけか。親父さんも心配していたんじゃ無いのか?」
「雪は能力的に将来を約束されているので、お父さんも特に心配はしていなかったです」
「そうか、良かったじゃないか」
「ふふっ」
「ん、どうかしたか?」
「いえ、雪のことを心配してくれるリュージさんは優しい人だなって改めて思いました。これからもお願いしますね!」
か、可愛えええ!
そんな男を誘惑するような目で見つめるな!
たった1年とはいえ、大人っぽくなったせいで色んな所に磨きがかかっている。
胸は相変わらず断崖絶……ゴホン!
「あ、家が見えてきました」
今日はなんだかんだと長い一日だったな。
一日に起きる出来事としてはもうお腹いっぱいだ。
これ以上は明日にしてくれって神様にお願いしたい。
「おじさん、遅くなりました」
「おお、お帰り。おや、ユーナはどうしたんだい?」
「欽治、ユーナたちも一度ここに戻って来たんじゃないのか?」
「いいえ、僕だけです。女神様は町でいろいろとやることがあるって言って」
「そうか、まだ町にいるのかい。まったく、子どもがこんな夜更けに」
すでに15歳になって成人しましたなんて言いにくいなぁ。
あいつ自身で説明したほうがいいだろう。
ピピピ
ピピピ
「ん、何の音だい?」
「俺のスマホです。すみません」
「すまほ?」
画面に最新ニュース速報って表示されている。
こんな時間だ。
おそらく、ユーナたちのことだろう。
記者会見の内容を生配信っていう項目がある。
いったいどういう魔法なんだ、これは?
「えっと、ホスピリパの町の教会で配布している情報を得るための道具です」
「ほう、面白そうな道具だね。あそこの町は昔から革新的な事をして有名だからね」
そうなのか?
まあ、今までの町では最も発展しているよな。
「あ、おじさん。ユーナが町でやっていることが見れますよ」
「ほほう、それは面白そうだ。見せて貰おうかな」
「あ、リュージさん。僕も見て良いですか」
「それじゃ、横画面にして机に置きますね」
記者会見の動画を見る。
ふむ、さすがに通信速度は優れていないのか。
すぐには映像が映し出されない。
「お、これは町の教会だね。どういう仕組みで映っているんだい?」
「後でお話ししますね。始まりますよ」
見慣れた町の教会の中だ。
奥の祭壇前に二人の女性が映っている。
これは記者会見というか、ライブをするつもりか?
机など無いし、逆にスポットライトが二人に当てられている。
「みんな――! こんな夜遅くに集まってくれてありがとう!」
「大丈夫、ここに来ていない人たちのために私の魔法で見せてあげるわ! 目を閉じなさい!」
いや、見ていない人たちに言っても何も意味無いだろ。
そもそも、このスマホだってホスピリパの町くらいしか知られていないだろうし、遠くの町にあったとしてもピンポイントでこの映像を見るとは限らないぞ。
「おや、これはユーナなのかい?」
そりゃ、驚くよな。
俺も驚いた。
欽治どころではない変わりようだ。
何と言えば良いのか、人気アイドル特有のオーラってやつか?
あとは専属メイクさんとかいるんだろうな。
化粧の仕方で女って凄く変わるし。
「欽治、あれはユーナなんだよな」
「ええ、そうです」
「何があったんだい? まるで妻そっくりではないか」
「若い頃の奥さんにそっくりなんですか?」
「い、いや……すまないね」
おじさんの表情が一瞬暗くなる。
やはり……ユーナのお母さんは。
「あっ、本当に目を閉じると目の前に女神様とダリア先輩が見えますよ」
「そう言えば、魔法で見せるとか言っていたな」
おじさんも目を閉じる。
「これは珍しい魔法を。さすが、儂と妻の自慢の娘だ」
おじさんが先程とは打って変わって表情が明るくなる。
「難しい魔法なんですか?」
「ブレインピクチャーという通信魔法の一種でね。専門魔法学校に通わないと習得できない珍しい魔法なんだよ」
通信魔法なんてあるのか。
それじゃ、このスマホもそれを機械化したものなのか?
それにしても専門魔法学校なんてあるんだな。
まだまだ、俺の知らないことがこの世界には多そうだ。