この神々はどこかおかしい7
「ユーナ! 闇魔法よ! 闇属性は風には影響されないはず!」
「そ……そうか!」
「ふんぬぅぅぅぅ!」
ドゴッドゴッドゴッドゴッ!
ボレアスはまるで猿の一つ覚えみたいに大鎚を氷壁に叩きつけるのに夢中になっている。
その光景はまさに……あ、もうやめておこう。
「ふふん、静かな暗闇へ……アビスコフィン」
パッ
「ぬぉぉぉ! 俺の大鎚が!」
「あ、外れちゃった?」
ユーナが放ったのは空間に闇の棺を作り相手を閉じ込め闇に堕とす魔法だ。
座標設定が難しいからボレアス本人の立っているところから少しずれてしまった。
しかし相手の武器である大鎚は取り上げることができたようだ。
「ぷっひゃひゃひゃ! 風神族の三種の神器である一つを破壊されたさー?」
「……勝負は決まったでやんすね」
ヒュゥゥゥ
暴風が収まった?
ボレアスが止めたのかな?
「えいっ! アイスクラッシャー!」
パァン
「ぐぅ!」
ユーナも氷壁を解除する。
ずっと中にいる状態で魔法を使えば良いのに……。
「ふふん、どうよ! 跳ね返すのはできなかったけれど受け止めてやったわ!」
偶然のくせに?
ま、ここまでイキれるのもユーナらしいと言えばらしいか。
「さすがユーナさん!」
「ユーナよくやりました! それでこそ騎士道です!」
いやいや……どう見ても考えてやったわけではないでしょ?
「ふふん、もっと褒めなさい! 私は最強なんだから!」
「くそぅ! 大鎚を返しやがれ!」
あらあらボレアスは怒っているわね。
武器を取られる方が悪いのよ。
武器破壊なんて戦いではよくあることでしょ。
「返すわけないでしょ。持っていたら攻撃してくるくせに! あんた馬鹿なの! 馬鹿でしょ! いいえ、絶対に馬鹿だわ!」
これでもかというくらいに煽るわね……ユーナ。
「……俺の負けだ……だから武器を返せ」
「えっ?」
武器を取られたくらいで降参するの?
ボディビルダーのように筋骨隆々なボレアスが?
戦闘狂なくせに負けを認めるのは潔いのはかえって不気味に感じる。
「だから武器を返してくれ! でないと……俺は!」
何度も他の風神族のほうを確認しながらユーナに懇願までしてきた。
その光景はボレアスが恐れているようにも見える。
「負けを認めた時点で終わりでやんすよボレアス」
「エウロス! ま、待ってくれ! 武器さえ戻ってくれば……」
「神族にしては見苦し過ぎるさー……汝は終わりなんさー」
「い、嫌だ……俺はまだ……」
ビュゥゥゥ
木枯らしのような風が吹くとボレアスが闘技場から消えていた。
パァァァ
「ふぅ、吾輩も男臭くならないでやんすよね?」
「ぷひゃひゃ、それはどうか分からないさー?」
「えっえっえっ、どういうこと? 何が起こったの?」
ユーナも困惑している。
私にも何が起きたのかさっぱりだ。
「さぁ、2回戦行くとするでやんす」
「あの男臭い風神はどこに消えたのよ? 私、まだ壊してないのに」
「吾輩が取り込んだでやんす。負け組の神族を高貴である風神から出しては行けないでやんすからね」
取り込んだ?
ムスペルヘイムで見たウォリアがノーマを吸収するのと同じことをウォリア同士でしたってこと?
「騎士道とはまるで逆のことを? 吐き気がしますね……仲間を何だと思っているのでしょうか」
「ま、神族ってああいうもんなわけよ」
「私たち人族を玩具のように扱うのもああいった気風から来ているのでしょうね」
仲間を取り込んでエウロスの神力が更に増しているはずだ。
迂闊だった……一瞬の出来事でエウロスを強化させてしまった。
ユーナ一人で相手をできるか心配ね。
「んもう、なんてことするのよ! 私があの男臭い神族を壊したかったのにぃぃぃ! こうなったら代わりにあんたを粉々に粉砕してやるんだから!」
「軽くお願いするでやんす」
熱血漢のボレアスと違ってエウロスは冷静な感じがする。
東風の神だけれど東の風って春の訪れを知らせるくらいしかイメージが湧かないのよね。
「まずはこの鬱陶しい氷を退けるでやんす……」
ヒュッ
バシャン
「えっ? 一瞬で氷を解かしたの?」
ボレアスのように寒い風でもノトスのように生暖かい風でもなく心地良い風が吹いただけで氷が解け闘技場から解けた氷が流れ落ちていく。
「他の属性を含んでいないようですね。純粋な風属性のみ?」
「ぷひゃひゃひゃ、エウロスは下等な4属性を操作できぬが風の扱いだけは長けているさー」
風属性だけで氷を解かしたってこと?
氷を解かすにはわずかでも熱が必要なはずだ。
空気中にもとから含まれている僅かな熱を高めた?
いや空気の中に熱など存在しない。
「風属性の扱いが長けているってことは属性反応を熟知しているのと同等なわけ。これはユーナでは苦戦しそうなわけね」
クイッ
「氷を解かしただけでいちいち驚くとはタナトスも知識人では無いでやんすか?」
ムカッ
「悪かったわね、何も知らなくて」
「熱は熱いところから冷たいところに流れる……その仕組みを風で早く行なっただけでやんすよ」
「なるほどね……太陽から降り注ぐ熱を闘技場に行き渡らせたってわけね」
「簡単に言うとそうでやんす。さて……堕天使かかってくるでやんす」
「ふふん、先手必勝って知ってる!? 先制攻撃を譲るなんて最初からクライマックスにしてあげるんだから! ブリザードアロォォォ!」
バリバリバリッ!
巨大な氷の槍が突き出した両手から放たれる。
ユーナの得意な魔法だけれどまったく最初から全力を出してないわよね?
油断大敵という言葉があの娘には無いのかしら?
「吾輩に4属性は無駄な足掻きでやんすよ……ウィンドリフレクト!」
パリ……バリバリバリ!
氷の槍が反射しユーナに向かって突き進んでいく。
ボレアスの時も対して効果がなかったし今回も軽々と跳ね返されているし、なんだかブリザードアローがネタ魔法に思えてきた。
「ふふん、アイスリフレクション!」
パキ……バリバリ!
跳ね返された氷の槍を再度跳ね返した!?
そんな真似ができるなら今までなんでしなかったの!?
「魔法のキャッチボールをするつもりは無いでやんす。デモンショナルウィンド」
ザパァァァン!
「ブリザードアローを一瞬で解かした!?」
「属性反応なわけ。あの解け方は融解? けれどあの反応を起こすには火属性が必要なわけよ?」
「また太陽から降り注ぐ熱を一箇所に集めたと?」
「おそらくそうでしょうね」
私にはまるで理解が及ばない。
ルーシィは興味津々になってユーナが放つ様々な魔法を跳ね返したり掻き消したりするエウロスの魔法を見ている。
「はぁはぁはぁ……んもう、いい加減に壊れちゃいなさいよ! ダークアイスショット!」
「壊れるのはそっちでやんす。ゴッドブレス」
ブワッ
「えっ!?」
「闇氷魔法まで消された?」
闇属性は光属性を除く6属性の頂点に立つ存在だ。
闇と風で属性反応なんて起きるはずが無い。
「さて……ウインドカッター」
ドシュドシュドシュ
ユーナに風の斬撃が直撃する。
「ユーナ!」
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