この神々はどこかおかしい4
心の中でユーキに話しかけるが応答がない。
魔力が残り少ないから眠ると言っていたしお休み中なのかな?
でもそれなら誰がボレアスの竜巻を消してくれたのだろう?
「タナトスの影から堕天使共が!?」
「あの牢から抜け出したでありますか?」
やはりユーナたちは掴まっていたようね?
でも捉えられても人形を解除すれば意味がない事が分かっただけ儲け物だ。
「あっ、あんなところに別の神族が居る!?」
「そうでした! ユーナ、ニーニャ、それにルーシィ手を貸してください!」
別の神族ですって?
ということはユーナたちを捕らえたのはボレアスたち以外の風神族なのか?
……その神族もここに来られたら最悪乱戦になってしまいかねない。
早いところボレアスと細長い風神族を葬らないと。
「ユーナあいつらを思い切り壊しちゃって!」
「ふふん、まっかせなさぁぁぁい! ダークネスブリザードアロォォォ!」
バリバリバリ!
ユーナの得意な氷魔法がボレアスに向かって放たれる。
今は闇属性も混ざって即死魔法と化している。
ただし当たらないと何の意味もないのだけれどね。
「がはははは! 何故俺の襲虎爆風刃が消えたのか謎だがその程度の魔法! 北風の神たる俺には……」
まさか受け止めるつもり?
闇属性は触れるだけで終わることを知らないのか?
迂闊ね……。
しかしこれでチェックメイトだ。
「ボレアス避けるでやんす! 闇魔法は触るだけで即死だと知らないでやんすか!?」
「んだとっ!?」
サッ
バリバリバリ
ドロッ……
巨大な氷の槍が奥の民家に当たり一部が闇に溶ける。
しかしボレアスには避けられてしまった。
細身の風神族が余計なことを言わなければ終わっていたのに……。
あの神族はユーナの魔法がどういうものかしっかりと把握しているようだな。
「風神族の住居が溶けた!?」
「色で把握できないでやんすか? 戦いになると思考が停止するのはボレアスの悪いところでやんすよ」
ボレアスの横に細身の神族が近寄る。
こちら側に人数が揃ったから2人でかかってくるつもりか?
「さて、脱走されてしまっては本来の目的も果たさなくていいことになったでやんす。自分もこのラグナロクに参加させてもら……」
「なんだとっ!? こいつらは俺の獲物だ!」
「話は最後まで聞くでやんす。自分も参加したいと思ったでやんすが……ゼフュロス先程からそこで隠れて見ていたでやんすね? また水浴びにでも行っていたのでやんすか? この戦時中に呑気なものでやんす」
ガサッ……
1人の風神族が私たちがやって来た森の方向から出てきた。
川で会った猫耳の可愛い女の子の神族だ。
「にゃにゃん、ぜふぃだって水浴びくらい静かにさせて欲しいにゃん」
「ゼフュロス!? そうか……先程俺の襲虎爆風刃を消したのは貴様だな!」
「そうにゃん。静かにして欲しいって今言ったにゃん。相変わらず人の言うことは聞いていないお馬鹿なのかにゃ?」
この子が私を助けてくれたの?
敵である私を?
……いいえ、神族を信じてはいけない。
これも敵の術中である可能性が高い。
ヒメと同じように私たちを安心させるところからすでに相手の術中に入っていると疑ったほうが良いほどだ。
「ふぅ、そんなことだと思ったでやんす」
「風は自由にゃん。ぜふぃはただ自由にしているだけにゃん」
「今はラグナロク中だということを忘れたのか!」
私たちをそっちのけで口論を初めてしまった。
ボレアスにゼフュロスか。
細身の風神族はエウって呼ばれていたからエウロスなのだろう。
確か北風、西風、東風の風神だったわね?
ということはノトス(南風)がユーナたちを拘束したのかな?
「ダリアさん、今のうちに集落へ」
「身を隠すには良い場所があったわけよ」
「ふふん、私はあいつらを壊すわ!」
「ユーナ奴らを引きつけておいて下さい。私はリアを安全な場所に連れていきます」
乱戦になると私にも危険が及んでしまう。
神族に対して恐怖心が未だに拭えない状況で更に私を守りながら数体の風神族と戦うのはリスクが大きい。
悔しいけれど今の私は戦力としてなっていない。
邪魔にならないように何処かに隠れているほうが良い。
レベッカと共にその場からゆっくりと離れ集落の中に入る。
少しでも動いたら攻撃してくるかなと思っていたがまさか口論に躍起になって私たちの存在を忘れているのかな?
結局、その場から全員で離れることが出来てしまった。
どこにいようがいつでも倒せるとただ舐められているだけなのかもしれないか。
集落の中に入ったが集落と言う割には一般神が住んでいそうな民家が異様に少ない。
奥に神殿があるしなんだかお店のような建物が多い。
「ここも昔は観光客で賑わっていたでしょうに……」
「土産屋も寂れてしまっていますね」
このお店は全部お土産屋さんだったのか。
観光地も人が寄り付かなくなってしまったら廃れてしまうのは何処でも変わりがないようだ。
「狂飆宮へ急ぐわけよ。あそこならだりっちも身を隠せるしぃ」
「奥に見えるあの神殿が狂飆宮だったの?」
「うん、あそこに辿り着く直前に風神族に捕まったの。でも同じ手に引っかかるほど間抜けでも無いし安心して」
私の身を隠す場所が狂飆宮だったなんて……もしかしてルーシィ。
貴女が最優先してでも行きたいだけなのでは無いの?
「きゅふふ、あの神殿の模様も風属性を表しているわけ? 興味深いわけぇ……じゅるり」
ルーシィ涎が垂れているわよ。
まったく知識の宝庫なのは分かるけれど少しは自重してほしい。
いつ追いつかれるか分からないのにこんなに長い上り階段を駆け上がるのはかえって危険なような感じがする。
ごくごくごくごくごくごくご……
「やだっ!? あいつらがここにも居るの!?」
「ごくごく民は何処にでも湧きますよ。お母さん涎を拭いて下さい」
あの変態の極み的な奴らね。
女性の体液なら何でも飲もうとする……考えただけでも悍ましい存在だ。
ゴゥン!
「「きゃっ!」」
「リア! ユーナ!」
神殿へ続く階段を登っていると生暖かい突風が吹き降りて来る。
咄嗟にレベッカが私の手を掴んでくれなければ階段を転げ落ちていたところだ。
「ぷっひゃひゃひゃ! どこへ行くつもりさー?」
さっきの3体とは違う風の神族だ。
この女神がノトス?
ブワッ!
「わわっ!」
今度は階段の下から冷たい風が吹き上げてくる。
「おいおいおい俺たちを無視して先に進むたぁいい度胸しているじゃないか!」
「愚かの極みでやんすね」
「ぶー、ぜふぃは戦うつもりは無いにゃん!」
ほらぁ!
一足遅かったようだ。
予想通り挟撃されてしまったじゃないの!
相手は4人でこちら側も私を除けば4人。
猫耳幼女のゼフュロスと一緒に観戦ってことにさせてくれないかしら?
あ、そうなると向こうは3人になってしまうか?
「ノトス! 手を出すなよ? こいつらは俺の獲物だ!」
「ぷっ、相手に逃げられておいて偉そうにほざくなんて? ま、なんくるないさぁ」
「当然だ! 俺が1人でなんとでもしてやらぁ!」
「相手は5人だがその中で1人は戦力外と考えると実質4人。そして好都合なことにこちらも4人でやんす。ここは1対1の勝ち抜き戦ってのはどうでやんすか? それならノトスも納得するでやんす」
相手にも私が戦力にならないと思われているのは癪に障る。
だが本当のことだし堪えるしかない。
「面白そうにゃん! ゲームならぜふぃもやるにゃん!」
「ふむ、ゼフュがやる気を出すなんて珍しいさぁ」
「がはは! もちろん俺が一番手だ!」
ゼフュロスも戦う気になったのはこちらとしては嬉しくないことだ。
でも本当に自由な子ね。
「ふふん、面白そうじゃない! もちろん私が最初に殺るわ! 4人ともね!」
パワータイプのボレアスを相手にユーナはあまり相性が良くない。
それに勝ち抜き戦なら手数の多いユーナは中堅くらいがバランスとして良い感じがする。
「そちらは氷使いの堕天使でやんすか。こちらはボレアスが先鋒、自分が次鋒、中堅がゼフュロス、大将がノトスってことで良いでやんすね?」
「やだにゃん! ぜふぃが大将にゃん!」
「ぷっひゃひゃ、わんは中堅でも良いさー。ゼフュロスがやる気になっているのは喜ばしいことさぁ。それくらいのワガママは聞いてあげてもなんくるないさー」
ゼフュロスが戦う気になったら向こうとしては良いことでもあるのかな?
まさかあの4体の風神族の中で一番強いとか?
見た目で考えられないのが神族だから有り得そうだな。





