この覚醒はどこかおかしい6
ルーシィが目を閉じ両手を空に掲げて呪文を唱えている。
そして呪文に応えるかのように生暖かい風が艦隊の方へ吹き込んでいく。
「深淵より生まれし因果の炎よ、無数の深々と舞い落ちる桜のようにすべてを散らせ……チェリーバーニングブラッサム……エクスプロージョン!」
カッ!
バッシャァァァン!
ルーシィが詠唱を完了し両腕を振り下ろした瞬間だった。
大艦隊の中心部で海面が巨大な水柱を上げる。
「あれってルーシィが放ったのよね? なんだか大したこと無い魔法のような……」
「この魔法はまだ終わってないわけぇ。ま、見ておけば分かるっての!」
ブシャァァァ!
何本もの水柱が戦艦を押し上げるように吹き出す。
そして……。
バシャァァン!
ドスドスドス!
艦隊の中心部に出現した巨大な水柱が枝のような水柱を横に伸ばし戦艦を串刺しにする。
「ほい、バァァァニング!」
チュッ!
ドォォォン!
ルーシィが口ずさむと同時に押し上げられた何百隻もの戦艦が激しく燃え上がり大爆発を起こした。
粉々になった戦艦の破片がひらひらと海面へ落ちていく。
「ふぅ……大したことのない桜なわけぇ」
たったの一撃で数百隻の艦隊を跡形もなく吹き飛ばした。
「す……凄い凄いわ! ルーシィさん!」
「純粋なエルフのみに使用が許された超自然魔法……お母さんの十八番でしたね。数百年ぶりに見ることができました」
水属性と火属性と土属性の複合魔法……。
しかも闇の身体なのに闇属性を帯びていない。
エルフは魔法が得意なことを知っていたけれどこんなに凄まじい攻撃魔法まで使えるのは知らなかった。
……勝てる!
ニーニャだけでなくルーシィも一緒だったら神族を確実に滅ぼせるわ!
「120番艦から399番艦まで撃沈! 艦長このままでは!」
「残りは我々1番艦と残り23隻のみです。再びあんな奇妙なものを放たれたら確実に全滅しますね」
「一体なんなのじゃ、あの攻撃は! ほとんど核兵器に等しい破壊力ではないか! 艦長、シャドーどもの攻撃を見たでしょう! いい加減にご決断なされよ!」
「艦長、シャドーは残虐な悪魔とも呼んでいいほどの存在です。もしかしたら地球そのものを破壊できる力を秘めているかも知れないですよ」
「悪魔などこの科学の時代にいるはずがなかろう。いや……違うか、数年前に巨大なドラゴンに似た宇宙生物が木星付近に現れたことがあったか? いくつものコロニーが奴に破壊されただったな。ドラゴンが居るのならば悪魔が居てもおかしくはないか」
「シャドーも宇宙生物の一種だと言っている学者も居ますしね。人の形をしているためエイリアンと呼んでいる者も居るようです」
「艦長! クラッシャーの使用許可が降りました!」
「おおっ! なんと良いタイミングじゃ!」
「コロニー側もまた地球に消えぬ傷を残すか……」
「艦長、ご決断を! 使用許可が降りた以上は使わねばなりますまい?」
「すでにここを中心とした島々の住人の避難はできておるのか?」
「半径500キロ圏内の住民の避難は完了しています」
「オーストラリアが半分削られることも想定の上か……上層部も薄情この上ない」
「人類が滅ぼされる危機なのじゃ構わぬ! 核兵器並みの火力を持っている宇宙生物を駆除するためじゃ!」
「総員撤退準備! クラッシャーを使用する!」
「了解! 総員に告げる! 撤退を開始せよ!」
「シャドーどもはここから動けぬようにしろ! ありったけの弾丸をやつらに向けてブチ込みつつ撤退じゃ!」
ゴゥンゴゥンゴゥン……
ドドドド!
残った24隻の戦艦が砲塔をニーニャとユーナに向け総攻撃を仕掛けている。
本体である私を倒さないと無駄なのにこいつは愉快だわ。
すでにHBMはニーニャとユーナによって全機撃墜されている。
最後の悪あがきってところなのかな?
「だりっち、戦艦が進路を変えているように見えるわけぇ?」
「退却するつもりでしょうか?」
「攻撃が激しくなっているのに?」
砲塔だけは2人に固定し旋回しているということはニーニャの言う通り後退する準備をしているのだろう。
弾の無駄撃ちも単なる時間稼ぎと考えていい。
幸い私とルーシィの居場所はまだ発見されていない。
ニーニャは海面に浮いている無数の戦艦の残骸に飛び移りながら躱している。
そしてユーナは黒い翼を展開し爆風を利用して上空に飛び上がった。
「ふふん! こんな小さな的、そうそう当たるものではないわ!」
どこかで聞いたようなセリフね?
直撃したとしてもユーナの身体はすぐに再生するし心配しなくても大丈夫だ。
それより逃げようとしている残りの艦隊も壊したいわ!
せっかく気持ちが良くなってきたのだから最後まで楽しませて貰いたい。
逃げるなんて卑怯な真似はしないでよね!
身を隠している私のほうが卑怯だって?
私は生身だから別に良いのよ。
「そぉれ! ダークメテオ!」
ヒュゥゥゥ!
「上空から黒い火の玉が急接近!」
ドロッ……
「2番艦消失!」
「いかん! あの黒い物質に触れれば終わりじゃ! 急速旋回急げ!」
ヒュゥゥゥ……ヒュゥゥゥ!
いくつもの小さな隕石をユーナが作り出し上空から降り落とす。
メテオは落下地点を大まかにしか指定できないため直撃したのは3隻だけか。
残りは21隻、どんな方法でもいいから残さず破壊してね2人とも!
ドロッドロッ……
「3番艦201番艦消失!」
「くすっ、こちらに来ると思っていました! 顕現! ダークネスランチャー!」
ガシャン!
「前方にシャドー1体! 銃器を構えています!」
「AT4じゃと! がっははは! 戦艦の装甲では大したことがないわい!」
「センニコフ君、奴が持っていたガトリングガンでHBMが破壊されたのだぞ。豆鉄砲でも銃弾が特殊なのかもしれん」
「私もそう思います。あれが単なるロケットランチャーには見えません」
「見慣れた兵器じゃ! 軍人ならひと目見て理解しろ能無しが!」
「す……すみません」
ドォォォン!
ニーニャが旗艦らしき戦艦にロケットランチャーを放つ。
指揮官が居なくなれば後続艦は連携が取れなくなり混乱する。
ニーニャの戦い慣れている感じはいつも頼りになる。
「……何とも……無い?」
「がっははは! 言ったじゃろう! あの無礼なシャドーに砲弾の雨を浴びせてやりましょうぞ艦長!」
「シャドーよ報いを受けよ。0時方向ビームキャノン……てぇぇい!」
………………。
「どうした? 早く撃て!」
「艦長! 操作がすべて反応しません!」
「機器の異常だと!? こんなときに!」
「1番艦聞こえるか! 早くそこから避難しろ!」
「3番艦から通信!」
「そこから逃げろじゃと?」
ガタンッ!
「何事だ?」
「う……うわぁぁぁ!」
「艦長、被弾部分から謎の侵食が発生! 凄まじいスピードです!」
「ここまでじゃな。本艦はまもなく沈没する。艦内に居る全員に告げる! 船を捨てて退避しろ!」
「シャドーめぇぇぇ! クラッシャーはどうなっている!?」
「ブースターエンジンが2分前にかかりました!」
「間も無くか。艦長、避難が間に合いませんね」
「軍人としての責務をここで果たすしかあるまい」
タンッ!
「艦長! 甲板上にシャドーが!」
「陣形の中でこの船は中央に配置されて居たところから察するに貴方が指揮官と言ったところでしょうか?」
「シャドーから強制通信!」
「相手にも言葉が通じるのだったな。回線をオープンにしろ」
ニーニャは何を考えている?
話す暇があるなら一隻でも多く沈めないと楽しくないじゃない!
「くすっ……」
「何を笑っておる! これで勝ったと思うなよシャドーめが!」
ニーニャの視線と共有してみる。
あの悪代官のような人が艦長なのかな?
いや頼り無さそうな顔つきからして副官ってところかしら?
艦長席に着いている白ひげのオジサマが艦長なのだろう。
「いいえ私たちの勝ちです。すでにチェックメイトなのですから」
パッ
ニーニャがロケットランチャーを手放す。
敵を煽るなんてニーニャらしく無い行動だ。
煽るというか死の宣告?
あはっ、ニーニャも悪よのぉ。
「お母さん……ええっ良いですよ」
「こっちも準備はできているわけぇ」
「ルーシィ? ニーニャはあんなところに立って何をするつもりなの?」
「一度使ってみたかったわけでぇ……ニーニャも了承してくれたしぃ」
2人で何を画策したのだろう?
「ブラッディアビスライトニング……発射ぁ」
カッ!
チュッ……ドォォォォン!
旗艦の上空が激しく光る。
そして赤黒い稲妻がニーニャもろとも周囲の艦隊を巻き込み塵と化す。
「ほい、ダークドールで復活っと」
ズズッ……
筏の上でニーニャが復活した。
「ふぅ……お母さん、どうでしたか?」
「威力は申し分ないわけぇ。でも生贄が必要なのがねぇ……」
生贄ですって!?
えっ、自分の娘を生贄にしたの?
それを許可する娘も娘だ!
ニーニャもルーシィもなんだかサイコパスなんですけど!
やだ怖い!





