この現実はどこかおかしい6
ダァァァン
ラポがライフルを撃つ。
カチャ
すかさずリロードするのは軍人の癖なのだろう。
外した後に再び撃ってくることは間違いない。
「やった!」
「ヒュゥ~! ラポめ、ヘッドショットさせやがった」
「日頃の努力の賜物でありますよ。ラポ、よくやった!」
「本当にやったのか? 血が流れ出てこないぞ?」
ズズッ……
ライフルの銃弾が額の皮一枚のところで闇の中に飲まれていく。
「殺っていない!? ラポ!」
「くすくすくす……この身体を好き勝手にやってくれちゃってこれはお礼参りとやらが必要ね?」
「髪の色が濃くなっていく?」
『リア? 違う、貴女は……何者なのですか?』
「おいおいおい、ラポ……お前……身体が……」
「え? う、うわぁぁぁ!」
「くすくすくす、消えなさい」
ドボッ……
「へぎゃ……ぷほっ!」
ラポが漆黒の液体になり溶ける。
「ひっ……ひぃぃぃ!」
「コリー! そこで何が起きているでありますか!?」
「ラポが……ラポが……溶けでびゃ!」
ドロッ……
「うわぁぁぁ! 撃て、撃て、撃て――!」
バババババ!
ヘリの中にいる兵士がヘリに備え付けられているガトリングガンをダリアに向けて乱射する。
「くすくすくす、無駄よ」
すべての銃弾がダリアに当たることはない。
空中で黒い塵となって消えていく。
「実弾が効いていないでありますか? フラッシュスターグレネードを使うでありますよ!」
「うわぁぁぁ……あああ……あべふっ!」
ドバッ
ババババ……ババ……
操縦者もろともヘリに搭乗している全兵士が黒い液体となり消滅する。
操縦を失ったヘリは暴走し海のほうへ墜落していった。
ドゴォォォン!
「ふはは……まさかまだ戦う力が残っているとは油断したであります!」
「くすくす……そろそろ離してくれないかしら? この見えない壁に締め付けられると動き辛いの」
「もちろん! 肉塊に変えてから解除してやるであります!」
「そう? なら……」
パリィィィン!
「念動力を自力で打ち破った? 自力で抜け出した……でありますか!?」
「くすくすく……あら? そろそろ目覚めてしまいそうね」
『貴女は一体誰なのです? リアはどうなっているのですか?』
「レベッカ、貴女もそろそろ消えてもらおうかしら? このままでは私がなかなか壊れないわ」
『何を言って? リアを壊すってどういうことですか?』
「くすくすくす、質問は必要ないわ。そもそも貴女はもう死んでいるし……それじゃ、消えてね」
ビュン!
「また独り言でありますか! 余裕でありますね!」
ドロシーがサイコキネシスでダリアの眼前に急接近する。
両手でアサルトライフルの照準をしっかりとこちらに向けている。
カチャ
「また銃とやら? 効かないわよ? そんなもの」
「やってみなくてはわからないであります!」
バババババババ!
ボワッ
全弾を撃ち尽くすがもちろんダリアの身体に命中することはない。
すべて黒い塵となり消滅していく。
「この……だったら!」
「あーウザい。貴女も良い感じに私を壊してくれたけれど殺そうとするのは止めてほしいのよね?」
ガシッ
ユーキがドロシーの首を掴み上げる。
「がはっ……どうして……身体が動く? 全身の骨が折れているはず……がっ!」
「くすくすくす、ダークヒールよ。こんな傷なんて瞬時で治るわ」
ズズッ……
傷口が黒い粘膜に覆われると瞬く間に傷が塞がっていく。
「そんな馬鹿な……このバケモノ! 人間と同じ血を流してもバケモノに変わりは無かったでありますね!」
「くすくす、バケモノ? 最高じゃない」
「なめるなぁであります!」
ゴキッ
ドロシーの首を掴むユーキの腕を組み手で解除する。
「ふぅん……体術か」
「はぁはぁはぁ……残弾ゼロ、フラッシュスターグレネードも無い。くそっ、仕方がないでありますね。今度こそは必ず退治してやるであります! 首を洗って待っているでありますよ!」
ヒュン
ドロシーが目の前から消える。
その消え方は瞬間移動そのものであった。
「くすくす、逃げてもあの娘は終わっているのに気が付かないものね。さてとそろそろ目が覚めそうだしレベッカだけでなく他の精神体も綺麗サッパリとデリートしておこうかな?」
ドサッ……
………………。
ううっ……はっ!
「気を失っていた?」
ドロシーは……居ない?
まさか逃げたの?
「レベッカ、ドロシーは?」
『………………』
反応がない。
いいえ、それだけではない。
誰の意識も内面から感じられなくなっている。
まさか対闇属性の閃光弾で消滅させられた?
「みんな――、誰か――答えてよ」
『………………』
何よこれ?
どういうことなの?
誰とも繋がっていない。
闇の世界は存在しているのに無人になっている。
内面に意識を向け闇の世界に潜り探してみる。
『誰か――、レベッカ――、兵士さんたちでも良いから答えてよ――』
叫んだところで誰からも返事が帰ってこないことはすでに分かっていることだが認めたくない。
心が張り裂けそうなほど心細くなっていくのが実感できる。
『誰か……誰か返事をしてよ……どうして誰も居ないのよ……』
この島で顕現していた住人は欧州連合のミサイル攻撃で消滅してしまった。
今やこの島は無人島なのだ。
そうだ、近くに小型船があったはず?
島の住民が隠していると言っていた船の場所まで行こう。
この島は意外と大きい。
船があるのはほぼ反対側だ。
ビリーが居てくれたら空を飛べたのにすでに無いものをねだっても無駄か。
肩を落とし一人で海岸から離れる。
いつの間に海中から出ていたのだろう?
私が気を失っている間に誰かが肉体を動かしてくれた?
でもその人もすでに居ない。
「みんな死んでしまった。また新しく連れて来ないと……」
心細いこの寂しい感じとても耐えられない。
早く闇送りをしないとどうにかなりそうだ。
闇の住人がすべて消え去ったというのに悲しさは感じない。
残っているのは孤独感と憎悪だけだ。
憎悪は闇送りをすることで何故かすっきりとしてくるのは分かっている。
それよりも厄介なのは今までに感じたことのないほどの強い孤独感だ。
無慈悲に私の内面へと襲いかかってくるのが分かる。
「うぅ……誰か……誰か居ないの?」
ポッ……ポッポッポッ
雨が降ってきた?
ここは南国だ。
雨が降りやすいのは当然よね。
ザザザー!
雨が大粒のスコールへと変わる。
赤道付近だからこれくらいの大雨が降ってもおかしくない。
どこか雨宿りにできそうなところは……この辺りには見当たらない。
走って集落のある場所まで進む。
「はっはっはっ!」
本当に広い島だ。
集落が近くにあるはずなのに激しすぎる雨で前が見にくい。
道路も舗装されていないため全身に泥が跳ねて酷く汚れる。
あーもう最悪。
ガッ
「きゃっ!」
ドサッ
石につまづいて転けてしまう。
痛た……。
あら、ドロシーに手酷く負わされた傷がいつの間にか治っている?
服が泥だらけになっている以外はなんともない。
ザザザー
ピシャ……ドゴォォォン!
雷が遠くの森に落ちる。
早く雨宿りのできる場所を探さないと危険だ。
落雷で死ぬなんて不運以外のなにものでも無い。
コロニー生活ではこんなバケツを引っくり返したような大雨など振らないし雷なんてものは存在しない。
学校で教わった程度で実際に体験したことは地球でライブ活動をしている時以来だ。
ブルッ
「うー寒い」
身体が冷えてきた。
こんな無人島で風邪なんて引いてしまったら命の危険に関わるかもしれない。
急いで集落の民家を借りて身体を温めないといけないか。
「はぁはぁはぁ……」
まだ集落が見えてこない。
かれこれ1時間ほど走っている。
ピシャ……ドゴォォォン!
雷が近くの大木に落ちる。
大木がたったの一撃で真っ二つに裂けるなんて自然の力は相変わらず恐ろしい。
早く集落か雨宿りのできる場所を見つけないと危険だ。
さらに1時間ほど進んだところでやっと集落が見えてきた。
「着いた……くしゅん!」
長時間の雨で身体が冷えきってしまった。
赤道に近い熱帯の民家だ。
暖炉なんてあるはずがない。
集落でそれなりに大きい住居に入る。





