この現実はどこかおかしい5
「おらおらおらぁであります!」
ババババババ!
予想していた通りドロシーは肩にかけていたアサルトライフルに持ち替え容赦無く私の身体に向けて撃ち込んでくる。
レベッカは必死に避けるが片足をハンドガンで撃たれているため避けるので精一杯だ。
しかも胸の辺りまで海中の中だ。
このような状況下でも動けるレベッカは本当に凄い。
ドッ
「くぅぅ!」
アサルトライフルの弾が脇腹に被弾する。
やはり陸地に上がらないととてもではないがドロシーの猛攻を凌ぐことが出来ない。
このままでは本当に危険だ。
私が能力を使えればここからすかさず退避できる。
この島の住人や欧州連合の軍人まで闇の住人として取り込んだのに、誰一人現在地を理解していないのが不思議で仕方がない。
「そろそろチェックメイトでありますね」
「くっ……リア身体に再び傷を与えてしまいました。すみません」
本当にどうしたものか。
『ダリア様! 我々を呼び出して下さい!』
『ダリア様! ドロシーを一刻も早く闇送りしたいです!』
私が死ねば闇の世界もろとも全員が消えて無くなってしまう。
世界が崩壊するのを防ぐために数人を犠牲にしてでもここから脱出するほうがいいのかな?
でも闇の世界で幸せに暮らしている人たちを捨て駒に使い消滅させるなんて私にはできない。
『ダリア様! なぜ呼び出してくれないのですか!』
『死など存在しない世界なのでしょう!?』
みんなの記憶から今までの犠牲者が消失しているだけなのよ。
その記憶が無いため恐怖心も無い。
突撃すれば良いと思っているのだろうけれどここでダークドールを顕現させるとドロシーが閃光弾を撃ってくるのは目に見えてわかる。
「さんざん煽ってくれたお返しであります。最後は今まで殺害した方たちに詫びを入れながら苦しんで死んでいくであります!」
フワッ
「なっ!? 身体が?」
サイコキネシスで私の身体を浮かび上がらせたの?
ドロシーが左手を私に向けて突き出している。
能力を私の身体に使っているのは確かだ。
カチャ
「圧死で潰れて死ぬのが先か、銃弾の嵐で蜂の巣になって死ぬのが先か見ものでありますね」
グッ
ドゴッ!
「ぐっ……あっ……ああああ!」
『痛い! これは念動力?』
バキバキバキ
ドロシーが突き出した左手を強く握ると私の身体を見えない壁が包み込む。
そして、その壁がじわじわと狭くなり強烈な圧力が私の身体に加わる。
骨が軋む音が聞こえる。
ここまでの事ができる念動力の使い手を私は知らない。
4年の間に急成長したにしてはレベルの上昇が異常だ。
「くっははは! これが人口能力者の真髄であります!」
人口能力者?
もしかして人為的に能力を与えた?
それとも低能力持ちのレベルを上げたの?
でも人為的に能力を付与するような研究は世界条約で禁止されている。
それを破るなんて……やはり人間は狂っている。
ドロシーはそのモルモットになったのね?
『もう我慢なりませんぞ! 無理にでも出てドロシーを闇送り致す!』
『自分も!』
『私も!』
私がダークドールを使わない限り無理だ。
……でもこのままでは全滅してしまう。
『レベッカ、変わって!』
「ぐっ……で……すが……」
ミシミシミシ
「くぅぅぅ……ぐわぁぁぁ!」
「さて、蜂の巣タイムであります」
カチャ
ドロシーが右手だけでアサルトライフルを持ち私に銃口を向ける。
バババ!
「うわぁぁぁ!」
撃たれていない左脚の腿に銃弾が3発命中する。
両足を封じるなんて逃がす気なんてさらさら無いってことか。
『ダリア様! 早くドロシーを闇送りに!』
こうなったら質より量だ。
出せるだけの闇の住人を顕現してドロシーを闇送りしてもらうしか無い。
どちらにしても全滅するのなら少しでも抵抗してやる!
『レベッカ! 早く変わって!』
「くっぅぅぅ……リアにもこの痛みが伝わっているはずです。良いのですか?」
『もちろん痛いわよ! 変わった途端に本物の痛みが襲いかかってくることをレベッカが心配してくれていることも分かっている。でもこのままでは全滅してしまうわ』
「分かりまし……ぐっわぁぁぁ!」
ミシミシミシ
ボキッ!
見えない壁に圧迫されて左腕がありえない方向に曲がり折れる。
痛い……そしてその先には確実な死がある。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
死にたくなんて無い!
「さっきから独り言を言って念仏を唱えているでありますか? くっははは!」
「こ……この!」
シュン
レベッカが私に肉体の操作を譲ってくれる。
同時にかけていたイリュージョンの効果も消え元の姿に戻る。
「姿が変わった!? だが血は流れたまま……傷までは変えられないでありますね!」
バババ!
「うわぁぁ!」
左腕に銃弾が命中する。
さっきから四肢ばかり狙っている。
まさかドロシーは私をなぶり殺しにするつもりか?
「くはは! いい気味であります! おっといけないいけない。念動が少し緩んでいたでありますね。気を抜くと念動力が弱まるのが欠点であります」
ググッ
ドロシーが突き出した左拳を更に強く握り締める。
バキッバキバキバキ
「うっ……うわぁぁぁぁ!」
身体の至る場所で骨が折れる音が聞こえる。
早く早くダークドールを顕現しないと!
「みんな! 早く助けて!」
ドロッ
「黒い血? ふはは、やはりバケモノでありますね!」
ダークドールは闇属性の魔力が土に染み込み人形を作りだす。
ドロシーの念動力で空中に浮かんでいる現状では、私の身体から流れ落ちる闇属性の魔力だけがドロシーには見えている。
「ほぅら、次はどこに当てようでありますかな?」
バババ
「うわぁぁぁ!」
ふざけた真似をしてくれる!
今度は右腕を撃たれてしまう。
これで両手両足はまともに動かなくなった。
ズズッ
「うぉぉぉ! 全員突撃だぁぁぁ!」
「援軍!? 地中からでありますか……まさか先程の黒い血が?」
『リア、私も出ます!』
「………うぅ」
『リアここで意識を失ってはダメです!』
はっ、気を失いかけていた?
血が流れ過ぎだ。
意識が朦朧としてきている。
「チームアルファからチームシータのメンバーまで!? この者たちが黒い血から現れたのだとすると……シャドーでありますね!」
カチャ
やはり分かってしまうか。
ドロシーが手榴弾を手に取りピンを抜く。
ポンッ
パァァァン
「「ぎゃぁぁぁぁ!」」
バシュッ
たったの一発で顕現したすべてのダークドールが激しい閃光に包まれ跡形もなく消滅してしまった。
『リア! 私を早く出して下さい! どうして誰も顕現しないのですか!?』
『まじで危険なわけぇ。誰の助けも呼ばないなんてだりっちも少しは人を頼るわけよ』
そして思ったいた通りレベッカは今の惨状が記憶から消えてしまっている。
まだMPは残っている。
こうなったら闇の世界にいる島の原住民をダークゴーレムで召喚して……。
クラクラッ……
『リア! 気をしっかり持って下さい!』
頭が朦朧として考えがうまくまとまらない。
とにかく急いでダークゴーレムを顕現するべきだ。
ドロッ……
「また黒い血でありますか? どこから襲ってこようと無駄であります」
ズズッ
「行くぞ――!」
「「うぉぉぉ!」」
ポンッ
パァァァン
「「ぎゃぁぁぁぁ!」」
バシュッ
ダークゴーレムでも対闇属性の閃光弾には無力らしい。
『リア早く! 誰でも良いので早く助けを呼んで下さい!』
……顕現。
ドロッ……ズズッ
「「うぉぉぉ!」」
ポンッ
パァァァン
「「ぎゃぁぁぁぁ!」」
『リア、何度言えば分かるのですか!? 一人も顕現しないのは何故!』
『はぁぁ、だりっちさすがのあっしでも呆れてくるわけよぉ』
何も考えられない。
もう意識が持たない。
ここで終わってしまう……なんて……。
「フラッシュスターグレネードが無くなってしまったであります。このままでは埒が明かないであります。本体を殺れば無駄な増援も無くなるでありますか?」
「………………」
「返事がない? 死んだでありますか? くはっ……やった! 勝ったであります!」
『リア! リア! 目を覚まして下さい!』
「いや、死んだふりかもしれないであります。用心するに越したことは無いでありますね」
バババババ
この音は……プロペラ音?
助けが……来たの?
どっちの助け?
私?
それともドロシー?
「隊長! ご無事ですか!」
「なぜ戻って来たでありますか!」
「やはり隊長だけにすべてを任しておくわけには……そこのシャドーは? 血が流れている?」
「おそらく倒せたと思うでありますが今からトドメを刺すところでありますよ」
「一人で相手をして倒した? さすが隊長だ!」
「なんならラポがトドメを刺すでありますか?」
「良いのですか!?」
「相手は私の念動で動けないであります。その距離からライフルで頭部を狙うでありますよ」
「ぎゃはは、そりゃ良い! ラポが外すほうに1万ドル賭けてやるぜ!」
「じ、自分は当たるほうに賭けるわ」
「俺は外すほうな――」
「くはは、それなら私は当たるほうに賭けるでありますよ」
「おお、隊長まで乗り気だぜ! ラポ頑張れよ――!」
「ナメやがって……見てろよぉ」
カチャ
『リア、リア、リア――!』
『くすくす、このままではさすがに危ないか?』





