この山はどこかおかしい6
「闇の姫? お婆さん……何を言っているの?」
「おやおや、覚えておりませぬか? 貴女様が儂が永年閉じ込められておった牢獄の扉を開いてくれたではありませぬか。そして、その圧倒的な闇で儂をねじ伏せ従属させた。ふぉっふぉっふぉ、姫様の言う通りに動いたら何もかもが上手くいって楽しかったぞい」
「な……んだとっ!? リアァァァ、貴様が牢獄の鍵を開けた犯人だったのか!」
このお婆さんが言っていることにまるで心当たりがない。
もしかして、私をはめようとしている?
私はこの老婆のことなんて何も知らない。
知っているのは名前とこの国を酷い目に合わせた重犯罪者だったくらいだ。
詳細は誰も教えてくれなかったし、私だってよく分からない危険人物を解き放つわけがないでしょ!
「リア! どう弁明しても許しはせんぞ! くそっ……ライカン、離せぇぇぇ!」
「グルァァァ!」
近くにいたラウラ以外の騎士団員はすべて噛み殺されたかライカン化して狼子に服従してしまっている。
背後には王様や村人たちがライカンに囲まれ動けない状態に陥っていた。
「私じゃない! この人と会ったのは呪術の移し替えでセラフィマと一緒に牢獄に向かった一回きりよ!」
私は全力で否定した。
だって、この老婆が脱獄した時期に私はセントホルンの山小屋にいたのよ。
近くには一緒に行動していたユーナやレベッカがいた。
トラベラーの能力だって不安定になっているため使っていない。
「こんなよく分からないお婆さんを逃して私に何のメリットが有るって言うの?」
「そ、それは……確かに……狼子、貴様一度知り合っただけのリアに罪を被せようとしているのか!?」
「くひひ、いいや……貴女様じゃよ。2週間前、儂の牢獄の鍵を開けてくれたのはな」
「私はそのときセントホロン山にいたのよ! そんなことできるはずがないじゃない! 嘘つかないでよ!」
「くひひひ、闇の姫よ。連れの人形は一緒ではないのかえ?」
連れの人形?
もしかして、偽ユーナたちのこと?
……この老婆は私の中にいる何者かと出会った?
そうだ、それで2人で私をまた陥れようと企んでいるのね?
闇の姫なんて訳のわからない呼び方をしていたのがその証拠だ。
「お婆さん、貴女、私の闇と出会ったのね?」
「ふむ? なるほど……闇の姫が言っていたのはこれのことか。確かに面白いのぉ」
「何が面白いのよ! わたしはちっとも面白くなんて無いわ。私の闇がいつの間にか私から出てお婆さんを開放したんでしょ!」
「いやいや、あの時おったのは貴女様じゃよ。じゃが、これでは話が一向に進まんの。あんたたち! 先にそのにいる奴らを王もろとも殺っておしまい」
「「ガルルル!」」
「何!? 陛下だけは絶対にやらせるかぁぁぁ!」
「ガル!?」
「人様を……人様を助けないと!」
「ガァァァ!」
2人を拘束していたライカンがラウラとユーナを突き倒し、村人たち目掛けて襲いかかる。
「きゃぁぁぁ!」
「いやぁぁぁ!」
「ぎゃぁぁ!」
「な、何ということを……村の者たちが儂の目の前で殺されていく?」
王様だけは後にするつもりなのだろう。
先に村人を蹂躙し、辺り一帯が真っ赤に染まる。
「狼子ぉぉぉ! 今すぐライカンどもを停止させろ! せねば、全力で斬る!」
「くひひ、止めると思っておるのか? 小娘風情が」
「私が人様を助けるの!」
倒れていたユーナが起き上がった瞬間……。
「ユーナ、いかん! しゃがめ!」
「へっ?」
「ガァァァ!」
ドシュッ!
ボトッ!
えっ?
ユーナ……首が……。
「グルァァァ! ユ……ユーナ……殺った」
「レベッカぁぁぁ! 貴様ぁぁぁ! なんてことを!」
ドサッ
首から上が無いユーナが冷たい床に倒れる。
『ダリアさん、ユーナさんが!』
『ダーリン……どうし……て、助けてくれな……』
ボシュッ!
私の目の前に現れているユーナも霧散して消えてしまった。
『だりっち、見殺しにするなんて酷いわけぇ』
『ダリアさん、貴女がそんな薄情な方とは思ってもみませんでした……ユーナさん、うっうっうっ』
ユーナが……ユーナが……死んだ?
私が見殺しにしたの?
……レベッカ……どうして?
ドクンドクンドクンドクン……
パリン!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「助けべぇ……ふっぎゃぁぁ!」
城のあらゆる場所から悲鳴が城内の中を響き渡る。
「このぉぉぉ! レベッカぁぁぁ!」
「ガルッ……ラウ……ラ……逃げ……」
「レベッカ? 意識が?」
「逃げ……グルァァァ!」
ガシュッ!
「ぐわぁぁぁ!」
レベッカがラウラの首を噛み千切り、血飛沫をあげる。
『ダリアさん! 私だけでも今すぐに出して下さい! もう我慢なりません!』
ユーナ……ラウラ……王様……。
優しかった人たちがみんな死んでいく。
私に良くしてくれた国が滅んでいく……。
『あーあー、放心状態になっちゃってるわけぇ』
『ダリアさん……出して……下さいよ……』
「ガルルル、ユ……ナ……」
「くひひ、まだその死体に興味があるのか? 思う存分、食い散らかすと良い」
「ウゥゥゥ……ガルァァァ!」
レベッカがユーナの身体に噛み付き身体を引き千切っていく。
「死体蹴りとはなかなか良い趣味しとるのぉ……ぷっひゃひゃひゃ」
「う……う……うわぁぁぁぁぁ!」
パリン
ボゥ!
漆黒の霧が私の身体から放出され、辺り一帯を黒く染めていく。
その霧の量は今までとは比にならないほど膨大な量で国を飲み込むほどだった。
「素晴らしい! これじゃ! 2週間前に垣間見た最強の! これが真の闇の力なのかい! これが我が手に……うん?」
ズプズププ……
「くひひひひ……初めからそのつもりじゃったか? まさか、儂までも取り込むつもりとはの。まんまと騙されたわけじゃ……まぁ、最後に楽しめたから良しとし……」
ドプン
………………。
う……ううん?
あれ、私……気を失っていた?
「リア、気が付いたのですね? 良かった!」
「当たり前じゃない。ダーリンはただ寝ていただけなんだから」
レベッカにユーナ?
ここは……?
豪華なベッドの上で眠っていたようだ。
部屋も綺麗な装飾が施されており、かなり広い。
コンコン
部屋の扉を叩く音?
誰か来たの?
「はい、どうぞ」
ガチャ
「あっ、ダリアさん! ご無事でしたか。良かったぁ」
ニーニャまで?
あれ?
ユーナが生きている。
レベッカもライカンになっていない。
……どうして?
「そうだ、ライカンは!?」
「ライカン?」
「レベッカ、ライカンになったはずじゃ? どうやってもとに戻ったの?」
「何を言っているのです? リアが治療してくれたのではないですか」
「えっ……私が?」
「ふふん、ダーリンは凄いのよ! どんな状態異常だって治せるんだから!」
まったく身に覚えがない。
それにどこなのよ……ここ?
王城の中であることは窓の外の雪景色を見る限り分かっているけれど。
「そうだ、ダリアさん。準備が整ったので玉座へ向かいましょう」
「玉座? 王様が呼んでいるの?」
「ほらっ! 早く行きましょ、ダーリン!」
ガシッ
「ちょっ、引っ張らないでよ……ユーナ」
ユーナに引っ張られて部屋を出る。
あら、この部屋って……誰の部屋?
階段を降り、廊下を渡る。
「あら、ダリア様。この度はおめでとうございます」
見たことのあるメイドさんが私に向かって頭を下げる。
確かミーアさんだっけ?
あれ?
何がおめでたいの?
訳が分からない。
ずっと、頭の中が霧に包まれている感じで思考がまとまらない。
周囲の人に従うので精一杯だ。
玉座の間に着くと、ユーナに玉座のところへ案内される。
「ちょっと、ユーナ。勝手に玉座に近付くなんて失礼よ」
「「おおっ! ダリア様だ!」」
「これより、新たな女王の戴冠式を執り行う!」
女王?
……王様はどこ?
「リア、おめでとうございます。私も騎士団長を任された以上、粉骨砕身の思いで努力いたします」
ラウラ……?
えっ、騎士団長?
ラウラは……確か……どうなったんだっけ?
何も思い出せない。
「ほら、ダーリン! もっと、ふんぞり返って偉そうにしないと!」
ユーナではないのだから、そんなこと人前でできるはずがないでしょ。
「それより、女王様が戴冠するんでしょ。私たちも早く玉座から離れないと!」
「何を寝ぼけたこと言っているのよ。ダーリンがこの国ユーグラシアの女王になったんでしょ! 選挙で決まったじゃない」
「ふぁっ!?」
選挙で女王?
民主制で君主制?
いや、そんなことより……どうして私なのよ!?





