この山はどこかおかしい2
ユーナとレベッカが山を降りて3日が過ぎた。
外は猛吹雪で視界が全く見えないため、私はずっと山小屋に籠もったままだ。
睡眠時に火が消えてしまうのは仕方がない。
だから、これでもかというくらいの厚着をして短い時間で何度か分けて、床につくことにしている。
凍死なんてゴメンだ。
だからといって、ある程度の睡眠は取らないと精神がおかしくなる。
この山小屋の中で閉じ込められている環境が私の意識を蝕んでくる。
同年齢の時のユーナやニーニャが見えることもしばしばあった。
けれど、惑わされてはいけない。
あれは私の中に居る危険な何かなのだ。
パキッ……
「あっ、薪が切れそう。外で枝でも拾ってこないと……」
薪は欠かせない。
火が消えると1時間も経たないうちに室内が凍り始めてくる。
標高が高いこともあるけれど、緯度が高いとこれほど世界が変わるとは思ってもいなかった。
枝は外に出ると至るところに落ちているため、山小屋を視界内に入れながら拾うことができる。
薪の心配はしていないけれど、問題は何と言っても食料だ。
この風と視界が全く見えない状態では厳しいのよね。
食料はまだ若干は残っているけれど、吹雪がいつまで続くか先が読めない以上、無駄な消費は控えるしか無い。
食べる量をさらに減らすしか無いか。
防寒着を来て、外に出てみる。
ビュォォォ
バタン!
「分かっているけど、ありえないほどの防風ね」
あっという間に山小屋の中が散乱してしまった。
外に出るだけでも一苦労してしまう。
散乱してしまったものを片付け、暖炉の火を消す。
火が散って山小屋が燃えてしまったら大変だからね。
ビュォォォ
ホワイトアウト……1メートル先でさえも見えない世界。
雪山の恐ろしいところだ。
山小屋から離れないように周辺で枝を拾う。
「キィィ」
「あっ、スノーラビット」
私を見るとすぐに逃げてしまった。
逃げた先を見ると山小屋が建っている軒下に狭い空間ができていた。
なるほど、小動物の棲み家としては良いところね。
まだ、お肉は残っているため非常食として生かしておこう。
狩ってしまうと腐敗が進行する。
もちろん腐敗の進行はこの寒さでかなり遅いけれど、それでも腐っていくのは嫌だからね。
枝をある程度集めた後、山小屋に戻る。
パキッ
パチパチパチ……
火を見ると落ち着く。
でも、一人っきりは寂しい。
2人が3日経っても戻って来ないところを考えると何かあったのだろう。
それとも、吹雪のせいで山小屋に来られないでいる?
……レベッカが中腹でまだ足止めを食っているとは考えにくい。
あの軽装なら一泊を近くにある洞窟で過ごすだけで精一杯なはずだ。
だから、仕方なく山を降りたと考えたほうが良い。
吹雪が止んだら、山を降りてみるのもありかな。
先日のような晴天になっていれば、ここからでも村の様子が少しは見えるけれど、レベッカやユーナが無事なのか知りたい。
でも、また誰かを傷付けないか心配だ。
この3ヶ月間、私の中にいる何かはレベッカとユーナには手を出さなかった。
手を出さなかったのではなくて出せなかったのかもしれないけれど、本当のところは私にだって分からない。
王様が私にくれた両手足に付けられたアクセサリーと、セラフィマがかけた呪術が効いているのかもしれないわね。
もし、そうだったら山を降りても安全よね?
やっぱり、吹雪が止んだら山を降りよう。
翌朝、この日も吹雪は止まず一日中、山小屋に閉じ込められてしまった。
翌々日、まだ吹雪は止まない。
それどころか、さらに風が強くなってきている。
扉だけでなく、暴風が山小屋の壁を強く叩きつける音が一日中続く。
五月蝿くてとても寝ていられる環境ではない。
ぐっすりと眠れる日が早く来て欲しい。
また、精神がおかしくなりそうな感覚に陥っている。
「ダーリン」
「ダリアさん」
いないはずの2人の声がまた聞こえる。
声を聞いてはいけない。
飲み込まれたら、私はまた大勢の人を殺してしまう。
パチッ……
薪がもう残りわずかだ。
一日中、山小屋に籠もっていれば消費が早いのは当然か……。
今日で山小屋に閉じ込められて5日目。
一週間以上続く猛吹雪が、たまにあるってレベッカが言っていたけれど、2人がいないときにそれに遭遇してしまったのかな?
2人は運が良かったのかもしれないけれど、私にとっては最悪だ。
あと3日間程度は覚悟をしておくべきか。
吹雪で山小屋に閉じ込められて10日目。
さすがにもう何もかもが限界だ。
食料はアイスベリーが4つ。
薪の代わりにしていた周辺の枝は取り尽くしてしまった。
何もない山小屋の中でできることは限られている。
少しでも寂しさを紛らわせるために歌の練習をしたり、壁に思いついた歌詞を書いたりしている。
だけど、刺激がない日が何日も続くと良い歌詞が思いつかないのよね。
それどころか、壁に書いた歌詞を改めて読んでみると、なんだか悲壮感が漂っていて、これを私自身が書いたとはとても信じられない。
寂しさも限界が来ているのかな?
たったの10日……誰にも会えないだけで?
我ながら情けないわ。
修行だと思えば良いのよ。
もともと修行のためにここに来たのだから、誰かに頼るのはおかしいことなのだ。
……もしかして、レベッカとユーナはわざと私を一人にした?
3人で暮らしていても、私を追い込めないと分かったから?
そうよね!?
だって、ここから見えた村の様子はなんともなかったもの。
きっと、そうだ。
でも、それならいつごろ戻ってきてくれるのかしら?
あと数ヶ月はそのままの可能性も高いのかな。
それにしても、突然一人ぼっちにしなくても良いじゃない。
余計な心配だけさせて山を降りるなんて……酷いよ、2人とも。
もう日が暮れそうだ。
何もする気が起きないし、身体だけでも休めよう。
………………。
「ダリアさん、山を降りてしまっても良いんですよ」
「そうよ、ダーリン。騙すなんていくら何でも酷すぎるわ。一言言ってやるためにも山を降りましょ!」
ガバッ
何重にもした毛布を蹴飛ばし起き上がる。
目の前に金髪のユーナとニーニャがいる。
今度はしっかりと見えている。
このアクセサリー、まったく効いていない?
「貴女たちは出てこないで!」
枕を2人に向かって投げつける。
ボワッ
ユーナとニーニャが霧散して消えてしまった。
このままでは危険だ。
私の意思に反して山を降りてしまうかもしれない。
もう、誰も犠牲にしたくはない。
恐怖と風の音で眠ることもできず、暖炉の側で毛布を巻いて寒さをしのぐ。
パキッ……
夜が明けたら、すぐに枝を拾いに行かないと……もう、薪が尽きてしまう。
さっきのことが衝撃的で、頭からまったく離れない。
ユーナもニーニャもヒメによって石化されたのだ。
あれは偽者で人々に危害を及ぼす闇だ。
それでもまるで2人が側にいたときみたいな安心感があった。
また、会えるかなぁ。
会ってはダメだ!
でも、会ってゆっくり話でもしてみたいなぁ……。
あれ、私矛盾している?
夜が明けた。
僅かな間だけでも眠っていたの?
途中から風の音が聞こえなくなって……。
今日は昨晩までとは嘘のように快晴になっている。
こんなに良い天気なら、やることは山積みだ。
最優先すべきは薪と食料を確保する。
昨晩、ひたすら思考を巡らせて一つの結論に至った。
私の中にいる何かと対話する。
アクセサリーの効果が効いていない以上、私がまた狂うわけにはいかない。
そのためには、まずは一人ぼっちのこの生活に慣れること。
そして、その障害となっている一つの心配事を取り払うことだ。
レベッカとユーナが無事かどうかを確認する。
だって、あんな離れ方をしたもの。
心配しないほうがおかしいよね?
だから、村人と会わないように山を降りる。
2人の無事が確認できたら、また山小屋に戻ろう。
そして、私の中にいる誰かと話す方法を見つけるのだ。





