このライブはどこかおかしい1
「あざま――す!」
ユーナは相変わらず楽しそうにレジ打ちをやっている。
だが、接客としては駄目だ。
ありがとうございますだろ。
「欽治、オーダー入ったわよ!」
「は、はい! 今、行きます! では、リュージさんまた後で」
「頑張るでござるよ」
それより、このヲタクはいつまで一緒にいるんだろうか?
さっき、目の前でダリアの所に行くって言ってしまったしな。
付いて来るつもりなのか?
「いやぁ、それにしても幸運でござる。ダリア嬢とじかに話す機会が訪れようとは」
「アイドルだから握手会とかサイン会とか無いんですか?」
「ふっふっふ、甘い! 甘いでござるよ、リュージ殿! 今どきのアイドルは神のような存在なのでござる。近付くこともおこがましい雲の上の存在なのでござるよ!」
俺の時代じゃ、いつでも会えるっていうのが今どきなんだが、また昭和みたいなアイドル像にもどっているわけか?
ま、いつの時代でも古いものが好まれることもあるし別にいいけど。
しかし、愛輝はやはり付いて来る気満々だったな。
「さて、欽治殿が仕事をまっとうするまでダリア嬢について語るでござる」
こいつは二言目にはダリアだな。
正直、うざったい。
だが、今からその本人に会いに行くというのだから、もう少し情報を得て置いたほうが良いのかもしれない。
対応を間違って嫌われたら困るし。
「そうですね。では、かなりコアな内容もお聞かせください」
「おお! リュージ殿も遂にダリア嬢の虜でござるな。しかし、ダリア嬢はみんなのものでござる! 決して独占しようと思わないことでござるよ!」
それは無い。
俺が独占したいのはニーニャさんだからだ。
「今度は最後に検定をするでござる! 一言一句、聞き逃さないようにするでござるよ」
それから3時間ほど、マシンガントークで愛輝のダリア嬢全書を聞くことになった。
その内容はコアなファンというだけは無いようなことも語られたのだが……まさか、愛輝……お前、やってないよな?
ほとんどストーカーしないと得られない内容まで話しているがどこでそんな情報を手に入れたんだ?
パパラッチって、この世界にいるのか?
「ふぅ……リュージ、お待たせ! さぁ、教会へ行くわよ!」
「それなんだが、少し寄りたいところができてだな」
「何よ――? リュージもまだ遊び足りないのね? もう、仕方ないわねぇ。ちょっと付き合ってあげても良いわよ。ありがたく思いなさい!」
いや、遊んでないし。
病院に来たってことがこいつの頭からは完全に消え去っていそうだな。
俺は公園のベンチで少し寝ただけで頭痛も悪寒も収まっていた。
この世界の薬って効果が凄いな。
「それでどこに行くの?」
「ダリア嬢に会いに行くでござる!」
「ダリア……って誰?」
「アイドルだよ」
「アイドルって?」
「ユーナ、アイドルの知らないのか?」
「職業か何かなの? そんな名前の職業聞いたことが無いわね」
「えっと、女神様。歌い手みたいなものです」
「ふぅん……面白そうね。じゃ、行きましょ」
面白いかどうかはわからんが、アイドルって言葉に興味を持ったみたいだな。
実際に見たらアイドルをやってみたいとか言いそうだ。
頑張ればなれるんじゃないのか、こいつの容姿なら……あ、性格が駄目だ。
いや、不思議ちゃん系でウケる奴にはウケるか?
「愛輝さん、さっきの公園にはもういないでしょうね」
「そうでござろうな。だが、安心するでござる。ダリア嬢の位置は常に追跡しているでござるよ」
え?
それってもうヤバいレベルじゃないですか?
「GPSでも取り付けたのですか?」
「そんな犯罪まがいな事しないでござるよ。追跡魔法トレースでござる」
「へぇ、貴方なかなかレアな魔法持っているのね? 私? もちろん、持ってるわよ! 一か月で習得してやったわよ、どう? 凄いでしょ!」
いや、別に聞いちゃいないが。
レアな魔法だから自慢したいってか。
「トレースはね、魔導書でしか覚えられない魔法なのよ。これを覚えるのに苦労し……ゴホン! く、苦労はしなかったんだからね!」
「吾輩もこの世界でダリア嬢に出会ってから、魔導書を探して回ったでござる。その後の古代語解析も徹夜で解読して二日かかったでござるな」
「ふぁっ!? ふ……二日? へ、へぇ……なかなか、やるわね」
一か月で覚えたのを二日で覚えられたら、そりゃ驚くわな。
ユーナの知力に勝てるって、愛輝はまさかとんでもなく頭が良いとかか?
痩せたら超イケメンで頭脳明晰か……こいつはあれだ。
男の敵だ。
しかし、魔導書か……そんな方法で覚える魔法もあるのか。
古代語で書かれているから、自分で解読して暗記ってところか?
確かに面倒だな。
「それで、ダリアって人はどこにいるのかしら?」
「追跡中でござる……ぬぬぬ」
愛輝が目を閉じ、なにかしている。
これがトレースか?
やってることは超最先端ストーカーって感じがするよな。
「まだ、この町にいるでござるな。この場所は……教会でござる!」
ほう、教会か。
この町の人が持っているスマホのようなものを配っている所だよな。
一石二鳥じゃないか。
「よし、それじゃ教会に行くか」
「教会に着くまでユーナ殿と欽治殿にもダリア嬢のすべてを伝承するでござる」
「へぇ、それは楽しみね」
「えっ? ぼ、僕は別に……」
ギロッ!
「あっ、いや! ぜ、ぜひお願いします」
ダリア講座を断ると愛輝がにらみつける。
あらら、輝にせず断っていればいいものを。
今からダリアだらけのマシンガントークで地獄を味わうことになるぞ。
面白そうだから黙っておこう。
………………。
「それでダリア嬢はその国にコロニー落としをしたら面白そうと思ったでござる。大事な所だからもう一度言うでござるよ」
「リュージさん、助けて! リュージさぁぁぁん!」
「も、もう覚えられません」
いやぁ、ずいぶん楽しめたぞ。
楽しくこいつらの様子を見ながら歩いていたら30分ほどで教会に着いた。
かなり大きい教会だな。
いや、教会というより大聖堂だ。
「さて、ダリアはどこだ?」
「中でござるな。神にお祈りしているダリア嬢! ふぉぉ、絵になるでござる!」
「……祈ってはなさそうだな。中で歌声が聞こえるし」
「まさか、中でライブをしているでござるか! ちょっと、失礼するでござる!」
凄い早さで教会内に入っていった。
欽治や格闘家の杏樹より動きのキレが良いんだよな。
あいつも何か拳法を習っているのか?
あ……キレッキレのヲタ芸か。
俺たちも中に入るとするか。
「「うぉぉぉ! ダリアちゃ――ん!」」
凄い人気だな。
しかし、神聖な教会でライブなんてしちゃって良いのか?
元の世界ではたまにやったりするし良いんだろうな?
「凄いわね、教会で大勢の人を集めて歌を披露するなんて革新的だわ!」
あ、革新的なんだ。
ま、今までになかった新しいことをすると有名になりやすいし、ダリアが人気出るのも納得できるかも。
まさか、これが目的でこの世界に来たとか……いや、そんなわけないか。
「あの歌ってる人が結城ダリアさんですよ。女神様」
「可愛い服を着てるわね。あの服が仕事着なのかしら?」
「ま、仕事着と言うか仕事着か」
「あんな可愛いの着れるなんて羨ましいわ。私もアイドルやる!」
やっぱり言うと思った。
「言っておくが、アイドルは簡単になれるものじゃないぞ……ってアレ?」
「衣装は楽屋にあるかもって言ったら、ステージに向かっていきました。」
「舞台裏に行ったわけか。勝手に入ってダリアの衣装を着たりしたら迷惑をかけてしまう。追いかけるぞ」
「は、はい!」
初対面で失礼なことをしたら、その後の流れが成立しなくなるかもしれない。
まだ、ダリアがステージ上で歌っているうちにユーナを連れ戻さないと。