この海はどこかおかしい7
町の様相は時代劇で見たことのある江戸の町のようだ。
本来なら神族の往来も多く、活気付いていそうな町だが今では誰も見当たらない。
もしかして、全員闇に飲まれたのだろうか?
ルカはどこにいる?
町の入り口から連絡が急に途絶えてしまい、それから何度も念話を送るが返答がない。
ルカも闇に飲み込まれていなければ良いのだが心配だな。
「ルカ……聞こえるか? ルカ?」
やはり、返答が無い。
だが、念話を送れるということはまだ闇に飲まれていないってことか?
「闇の魔法だ! 皆の衆、引け――!」
住人の生き残りがまだいた?
武家屋敷のような建物の奥から声が聞こえる。
再び、グラウンドムーヴで地中に潜り武家屋敷内へ潜入する。
ミズガルズの神族は和服を着ているのか。
おふくろがそうではなかったから知らなかった。
ま、古い町並みであるこの町だけなのかもしれないがな。
「お館様も急いでくださいまし!」
「くそぅ、屋敷を捨てるしかないでござるか!?」
武家屋敷下の地脈でずっと身を隠し様子を窺う。
地脈も所々、闇属性に侵食されている。
これは闇を帯びた氷属性?
「それそれぇ! 神族はどんな属性であろうと滅んでもらうわよ!」
黒い翼を広げ、上空から攻撃しているのは闇ユーナだった。
まさか、ミズガルズに来ているとはな。
次の侵攻地域がここだったのか、それとも俺を追ってきたのか気にはなる。
ダリアとはまだ出会っていないし、偶然の可能性のほうが高いか。
「ぬぅぅん、チェストォォォ!」
ズブッ
一人の侍がユーナに斬りかかる。
ユーナは避ける素振りも見せず刀が身体に突き刺さる。
ステータス的に避けられなかったと考えるべきか?
闇ユーナの素早さはさほど高くはない。
「闇の軍勢なんかにお館様はやらせはせん!」
「ふふん、闇に物理攻撃なんて効かないわよ!」
ズブズブズブ……
んなっ!?
闇ユーナに刺さった刀がユーナの体内へと飲み込まれていく。
まさか、あの身体も闇属性でできているのか?
攻撃が効かないなんてチートや!
チート!
「お館様! 刀を捨てて、お逃げ下さい!」
「六兵衛……この刀は我が家の家宝! 手放すわけにはいかぬ!」
「あはっ、刀から手を離さないつもり? 良いわよ、貴方も私と一つになりましょ」
ドプン
ユーナの身体に侍が飲まれてしまった。
あれは素手の攻撃などしたら、こちらが逆に即死するところだ。
あの侍には悪いが参考になった。
だが、愚かだな……。
刀を捨てて距離を取れば命は助かったかもしれないのに。
「あはは! 神族はすべて狩り尽くしてやるわ!」
ギュン
ユーナの持っている杖が真っ黒に染まる。
「ダークネスアイスウェーブ!」
ブンッ!
「ひっ!」
「逃げろぉぉぉ!」
「う……うわぁ!」
「お館様……今、行くでござる」
ザッパァァァン!
漆黒の杖を振り下ろすと、黒い氷波が発生し武家屋敷を飲み込む。
武家屋敷内に避難していたのであろうミズガルズの神族たちは闇に飲み込まれ姿は確認できない。
いや、退場早すぎだろ!?
仮にも神族なんだからもう少し抵抗したらどうなんだよ?
「ひっ……」
「六兵衛様ぁ!」
六兵衛って誰よ!?
だが、数名は防御魔法を張って闇の波から逃れたか。
「バブルシールド?」
「誰じゃ?」
闇に飲み込まれかけた数名の神族を泡が包みこんでいる。
「みなさん、こっちです! 早く!」
ルカの声だ。
地脈の中から声のした方向を見てみる。
隣に誰かいる?
着物姿で太刀を持っている……あいつは欽治?
「ふふん、まだ生き残りがいたのね!? 神族はすべて……えっ、あの着物姿、どこかで?」
スッ
太刀を鞘から抜き出し、ユーナに向けて話しかける。
「この人たちが何をしたって言うのですか!? 無意味な殺戮なんて止めて下さい!」
お前が言うかぁぁぁ!?
ドラゴンを趣味のために狩りまくっているじゃねぇか!
「無意味な殺戮? 違うわ! これはれっきとした聖戦……ううっ!」
どうした、ユーナの様子がおかしい?
黒い靄が身体から出ている。
「あれ、よく見てみると貴女は……女神様じゃないですか?」
「やっぱり、欽治なのね! 本当に……本当に生きていたのねっ!」
闇ユーナが欽治に飛び込もうとする。
いけない、あいつに触れただけで即死してしまう。
「欽治、避けろ!」
「えっ!?」
スッ……どてっ!
「ちょっとぉ、何で避けるのよ! 欽治!」
「今のお声は……ドレイク様!?」
闇ユーナは欽治にハグしようとしただけなのか、それとも闇に引きずるつもりだったのか真意は分からない。
だが、どちらにせよ彼女の身体が闇属性で構成されている以上、触れるだけで何人たりとも分け隔てなく闇に引きずられてしまうのだったら、俺が欽治に呼びかけた意味は大きい。
「女神様、すみません。えっと、大丈夫ですか?」
馬鹿野郎、わざわざ近寄って手を差し出してんじゃないっての!
「欽治、そいつに触ってはダメだ!」
ズズッ
転倒した闇ユーナに手を貸そうとする欽治を制止させ、姿を現す。
「あっ! あんたは自称リュージ!」
自称女神だった奴に言われるとやけに腹が立つな。
「リュージさん? いや、君は……ドレイクさん?」
「久しぶりですね。佐能さん……いや、欽治」
「今、女神様が自称リュージって?」
「そうよ、欽治! そいつはリュージを語る悪神よ! 天使の私が命令するわ、そいつをバラバラにしてやりなさい!」
「えぇ……それはさすがに……」
欽治は人の姿をした者と戦うのが、好きではないことを俺は知っている。
ただ、相手がバケモノ並みの強さならバーサーカー状態になり本気で殺しにかかってくることも知っている以上、俺が出せる手はこれだけだ。
「欽治ぃ、あそこの黒いユーナがか弱い子どもの俺をいじめてくるんだ。助けてくれよぉ」
「えぇ!? 女神様がドレイクさんにいじめを?」
「ちょっと、誰が誰にいじめてるのよ! 私が悪人みたいに言わないで!」
極悪人だろうが!
水神族の町をこんな滅茶苦茶にしやがって!
「えっと……えっと……僕はどうしたら?」
まぁ、こういう展開に弱いのも欽治だ。
自分では物事を決められずに誰かの言うことを簡単に聞いてしまう。
以前はそれをうまく利用できていたが、姿がリュージではない俺は子どもであることを最大限に活かすしかない。
「欽治、相手が子どもでもそいつは神族なのよ! 滅茶苦茶強いんだから! ま、私よりは超雑魚だけどね」
「えっ、ドレイクさんが神様!?」
何年も会っていないから、俺が変わったことを欽治は当然知る由もない。
欽治はチョロいし、俺が転生したことを伝えると疑わずに信じてくれるかもしれない。
だが、闇ユーナに余計なことを言われるとそれも無駄になってしまう。
先にここから離れることを優先するか。
「ルカ、その人たちを安全な場所まで連れて行ってくれ!」
「はい! みなさん、こっちです」
「何者かは知らぬが……かたじけないでござる!」
「あっ、こら! 欽治、あいつらをぶった切ってやりなさい!」
「えぇ……女神様、そんなの嫌ですよぉ」
「欽治、あいつはユーナの姿をしているがユーナじゃない! 言うことを聞いてはダメだ!」
「ムキ――! ちょっと、自称リュージ! 嘘、付かないで!」
「誰が嘘を言っている!? お前はユーナじゃない! すべてを愛する女神のユーナがそんな殺戮を他人に命令すると思うか!?」
「私なら……そんな命令はしない?」
「……いいえ、しますね」
ふぁっ!?
こら――、欽治!
納得しちゃダメでしょ!
俺も多少は尾ひれを付け過ぎていると思ったけどさぁ。
「欽治、お前に背を向けて逃げている人を背後から斬れるのか?」
「……女神様、僕は斬りません。あの人たちが悪い人には見えないです」
「欽治……天使の私が言うことを聞けないの?」
「それです」
「えっ?」
「女神様は自分のことを天使とは言わない……いつも、自分自身のことを女神女神と言っていました! 貴女は誰ですか!?」
欽治にしては鋭いところを突っ込んだな。
だが、そうだ。
あいつはユーナではない。
闇ユーナは闇の世界で闇属性と一つになっている。
あれはユーナの形をした闇属性の塊に過ぎない。
あそこからユーナを取り出すために、俺は光の神にならないといけないのか。
よく考えたら、とんでもないことを頼まれたものだな。





