この海はどこかおかしい4
ミャク島の中心部にある古代杉が見えてきた。
まぁ、なんというか……予想とまったく同じで逆に驚いた。
日本の屋久島にある縄文杉を地球にいた頃、写真で見たことがある。
それとほとんど似たような大木の杉だった。
辺りの風景も鬱蒼と生い茂る古代の森だし、ここって異世界だよな?
『ドレイク様、この木に御用があったのですか?』
「古代杉って言ってな。ヒメの記憶からすると大地の記憶の宝庫なんだとよ」
この世界に誕生した初めての知的生命体が神族だ。
そして、神族が誕生する以前の情報を記憶している大地の記憶は基本的に存在しない。
基本的にってことは例外が存在する。
その唯一のものがこの古代杉だ。
異世界だから世界樹のような超巨大な大木を期待していたのだが……まぁ、蘇生魔法なんて都合の良いものが存在しない世界なんだし、これが現実的なのかもな。
「この辺りは念も薄そうだし出しても平気かな?」
「あうう……」
土箱を開け、ユーナを抱き上げる。
そして、近くにある木の幹に座らせ、俺は古代杉の近くに行く。
『ずっと見ていると神秘的な雰囲気が感じられる大木ですね』
「箱の中にいたら見れないだろ。そこで座って待っていてくれ」
古代杉に触れ、大地の記憶を読み取らせてもらう。
アースメモリーが大地から伸びる植物にも適用されるのは知らなかった。
ま、寿命の長い植物に限られるようだし当然だよな。
古代杉、こんなに強い生命力があるのか。
これは今から460億年前の記憶。
ミャク島がまだ小さな島だったころから、この杉は生きているようだ。
恐竜時代によく踏みつけられなかったな。
まだ、このころには人族は当然として神族も誕生していない。
てっきり、恐竜時代より以前に神族は誕生していたと思っていたが違うのか?
俺がいた地球は46億年前に誕生したばかりなのに、その10倍も前に恐竜が誕生しているなんてな。
異世界だし、違っていてもおかしくはないか。
記憶を進めて神族が誕生する時代にまで進んでみる。
その間に龍神の姿など当然存在しない。
神の神だから、このころにいてもおかしくは無いと予想していたが外れてしまったようだ。
300億年前、天から淡い光が降り注ぎ、海や大陸に浸透していく。
この光は……属性力?
恐竜が滅び、生物がまったく存在しない時代が10億年ほど続く。
ここからは地球とはまったく違うんだな。
地球では哺乳類が誕生していたのだが、そんな予兆も無く死の星となっていたようだ。
属性力の濃度が高すぎるために生物が存在できないのか?
250億年前、ある日を境にスライムが大量に出現してきた。
さまざまな色のスライムが平和に過ごしている時代が30億年ほど続く。
色が付いたスライムは高濃度の属性力を帯びているようだ。
ファイヤースライムにアイススライム、アーススライムにウォータースライム?
属性ごとに種類が誕生したのも250億年前か。
200億年前、形が定まらないスライムが長い時間をかけて様々な動物の形を形成していく。
その中で二足歩行するスライムも誕生した。
おいおい……まさか、神族の祖先って?
ここからさらに100億年ほどかけて、植物が誕生し、昆虫が誕生し、爬虫類から鳥類へ、そして哺乳類が誕生していく。
そのころにはガンデリオン大陸で社会を形成し始めていたのは人型スライムだった。
まさか、神族の祖先がスライムだったとは……驚愕の事実だな。
確かに傷付けられてもすぐに元に戻るのはスライムの特徴だ。
半神のように多種族と交配が可能なのも形が定まらないスライムだからなのか?
このころには神族とトカゲの間でドラゴンも誕生しているし、様々な種類のモンスターが誕生したのもこのときだ。
俺が始めてまともに殺りあったアイスコングは氷神族と霊長類の間で誕生しているようだ。
唯一、スライムとしての性能を落としているのが増殖機能らしい。
スライムは本来なら分裂して数を増やしていく。
だが、人型スライムにはその機能が失われている。
複雑な構造を持ったためなのかどうかはわからないが、そのためにこの時代にいる他の生物と関係を持ったようだ。
人々の思念を吸収してしまう体質なのも魔法生物のスライムだからって言えば、なんだか納得できるかもな。
「はぁ……神族の祖先が属性を帯びたスライムかぁ。なんか、幻滅してきた」
これは知りたくなかった事実かもな。
それに250億年前にスライムが大量に湧き出したのが気になる。
突然、天から降り落ちた光が関係ありそうだが、あの光の元となったものまでは古代杉の記憶からは読み取れない。
『ドレイク様、スイレンです。ミズガルズの近海まであと僅かで到着いたしますわ』
ルカか、予想以上に早いな。
急いで駆けつけてくれたのだろう。
古代杉で龍神のことが知れるかと期待していたが、古代杉の記憶でも不明のままだし海岸に戻るとするか。
「ユーナ、待たせたな」
「……あぅぅ」
ユーナの手を取り抱き上げる。
『ドレイク様、何か良い情報は得られましたか?』
「まぁ……そうだな、大したことは分からなかったよ。おふくろからの情報は?」
『今、解析しているのがなかなか複雑で……もう少しお時間が必要です』
「分かった。コスモスも早く肉体が欲しいだろうが、もう少し待ってくれ」
『ドレイク様……はいっ、私は気にいたしません。それに私が中にいることで妹君が汚れた思念に侵されるのも遅延化しているようです』
それって言いかえれば、確実に悪神になりつつあるってことだよな?
残虐なユーナなんて見たくないよな。
うん?
……ならず者を氷で貫いたり、生前から残虐だったか。
「ルカが近くまで来てくれている。山を降りるぞ」
『また、7時間ほどかけてですか? ドレイク様、少しご休憩をなされては?』
「下りは登りより早いから5時間もあれば戻れるだろう。コスモスは解析に集中していてくれ。ユーナを土箱の中に入れてくれ」
『かしこまりました』
「うぁぁ……」
おふくろが言っていた3つの成すべきことで最初が最も難易度が高い。
幼い頃から言われ続けていた龍を識る。
普通の龍族なら楽なのだが、識るべき龍ってのが龍神のことだからな。
唯一の手がかりは、この白水晶だが力を吹き返すために何をしてやったらいいのかさっぱり分からない。
「あうう……」
『ドレイク様、妹君が何かに反応しております』
ユーナが反応しているのは森の奥だ。
森が深いため、俺にはどこを知らせてくれているのか検討も付かない。
「コスモス、動物か何かいるのか?」
『あの木の向こうです』
目を凝らしてよく見てみる。
……鹿ではないよな?
『ドレイク様、あれって鹿神様なのでは?』
マジで?
ジ○リきちゃった?
これは謝罪案件かもしれないから、やめておいて欲しいのだが……。
スッ
「あっ、待ってくれ」
森の奥へ走っていく鹿に似たモンスターを追いかける。
まだ、神様と決まったわけではないからな。
ミャク島固有種のモンスターなのかも知れないし。
『ドレイク様、鹿神様が通った場所だけ苔が変色しています』
「これは……光っている? ヒカリゴケじゃないよな?」
『この光る苔を辿っていけば会えるのではありませんか?』
昼間だから光っていても見分けにくいが何とか追いかけられそうだ。
「あう……うう……」
ユーナはあの鹿のモンスターに反応している?
……そうだな。
ユーナが追いかけていた奴かも知れないし、今では意味が無いにしても目的を果たさせてやるか。
「追いかける。しっかり掴まっておけ」
『はいっ!』
「クイックネス!」
速度を上げ、光る苔を目印に森の奥へ進んでいく。
30分ほど進んだところで開けた沢に大きな滝がある場所に出る。
「光る苔は?」
『もう見当たりませんね』
まさか、この滝を登ったのか?
空も飛べるのだとしたら、ありえそうだが……。
滝の近くに行ってみる。
うん、マイナスイオンたっぷりな感じだ。
パキパキ
ユーナに触れる水しぶきは瞬時に凍り、綺麗なダイアモンドダストになる。
なんだか、ユーナが少し重く感じるが……まさかな?
「うあ――」
『こ……これは!? ドレイク様、妹君の属性吸収が止められません!』
水は氷神族と親和性が高い。
ユーナが吸収しているのか?
キラッ
滝の裏側から何か光った?
滝の横に行くと滝裏に洞窟があるのが見える。
あれはさっきの苔か?
鹿のモンスターは滝裏に入ったようだな。
滝に近付いてみる。
『ドレイク様、それ以上は危険です』
パキパキパキ
ユーナが入っている土箱に触れるだけで滝が凍り付いていく。
ユーナの体重が急激に重くなってしまったが、まだ俺でも十分に背負える程度だ。
「ユーナのおかげで滝裏に来られたよ、ありがとな」
「あうう」
これだけ氷属性を吸収しても、身体の大きさは変わらない。
おふくろが言っていた残りの欠片がやはり必要なのだろう。
滝裏の洞窟を進んでいくと、光る苔が絨毯のようになっている空洞に出た。
「これって……」





