この魔王はどこかおかしい2
「しつこいわよ! 貴女は神から見捨てられたの! 永遠に悔いて嘆いてなさい!」
「や……やっぱり、神様でちか?」
神様だったら何だというのだ?
媚びて仲間に入れてくれってか?
調子が良すぎるぞ!
くそっ……何故か、怒りが収まらない。
それどころか、この辺りを吹き飛ばしたいほどの破壊衝動に襲われる。
『そうだ……もっと神の偉大さを身をもって教えてやれ』
また、頭の奥から声が聞こえる。
声の大きさに比例するように、破壊衝動も強くなっていく。
「くそっ、何なんだ!」
「ドレイク様? いかがなされたのですか?」
「神様とは知らなかったでち! まろを許して欲しいでち!」
許して欲しい……だと?
ふざけるな!
俺の仲間を傷付けた罪は万死に値する。
……違う!
ルカは俺の命令で身を挺して魔王を守っただけだ。
黒衣の自爆から守れなかったのは俺の責任でもある。
『どうした? 早く消せ! この周辺ごと早く!』
「許せだと……打算的な魔王だな? だったら、俺がこうしたらどう媚びる?」
ゴゴゴゴ……
違う、違う、違う!
確かに打算的な奴は気に食わないが、だからといって周囲の者まで巻き込むほど俺は残虐ではない!
「ドレイク様、この辺りを吹き飛ばすおつもりですか?」
「どうしてでちか!? まろが何かやったでちか!? まろは悪くないでち!」
「貴女のことなどどうでもいいのよ。自惚れるのも大概になさい。ドレイク様が吹き飛ばすとお決めになられたのなら、それだけで理由は十分でしょう?」
違う!
俺はそんなことをするつもりなど無い!
「ひ……酷いでち……。あまりに……一方的でちぃぃぃ! びぇぇぇぇん!」
魔王が泣いてしまった。
泣き方は子どもそっくりだな。
見た目も子どもなら頭の中も子どもなのか?
魔王ともあろう者がこんなのとは……心底、がっかりだ。
「泣いても遅いわ。さぁ、ドレイク様、そのまま神力を放出し、巨大なクレーターに変えてしまいましょう。その後は屋敷に帰って、私と存分に……」
コスモスが身体を擦り寄せる。
温かい、人の温もりを感じる。
ガバッ
「ド……ドレイク様? ああっ! やっと、その気になってくれたのですね?」
「ちょっと、コスモス! ドレイク様もこんなところで始めるおつもりですの!?」
コスモスの身体を力強く抱きしめる。
コスモスが手を掴んでくれた時に破壊衝動が少し収まった感じがしたからだ。
もしかしてと思ったが、謎の声も小さくなっていく。
『人の温もり……それさえなければ!』
「ひゃっ、ドレイク様? あら……この感じは黒い念?」
ルカの身体も力強く抱きしめてみる。
「ドレイク様! 私が先なのでは!?」
「ふふん、どうやらドレイク様は貴女の身体では満足できないらしくてよ」
「ムキ――! この年増オババがぁぁぁ!」
声が聞こえなくなると同時に破壊衝動も嘘のように消え去った。
コスモスとルカが近くにいてくれて助かった。
今回は二人に助けられたな。
「コスモス・ルカ……ありがとう」
「「ふぇ?」」
分かっていなくても良いんだ。
これは俺の内面の話だからな。
近くで目を丸くして呆けている魔王に頭を下げる。
「魔王……ぶってしまって……その……ごめん!」
「ほぇ?」
「ドレイク様! 神である貴方が愚物な魔王如きに頭を下げるなど……」
「コスモス、おだまりなさい。どうやら、先ほどのはドレイク様であって、ドレイク様で無かったのかも知れないですわ。そうでございましょう、ドレイク様?」
ルカには俺の中で何が起こったのか見抜けたのか?
あとで俺の身に起きたことについて聞いてみるか。
だが、先に魔王と話を済ませなければいけないよな。
「何が何やら……さっぱりでち」
「えっと……さっき、君を叩いてしまったことに対して謝罪をさせて欲しい」
「か……神様がまろに謝罪でちか?」
「許してくれるか?」
「そんな! 神様が頭を下げたら、まろが困るでち!」
だが、手を出してしまったことは本当だし。
その後に関しても酷い扱いをしてしまった。
すべてが俺の責任では無いが、泣かせてしまったことも詫びを入れるべきだ。
「そうか……だったら、何か願いは無いか? 一つだけ俺に叶えれることなら何でもしよう」
「ドレイク様! 祈祷を神から促すのは神族の罰則規定に該当します!」
神族ねぇ、あんな異常な奴らの規定なんて無視すりゃ良い。
信仰力を糧に生きる神族どもが信者たちの願えを叶えずに一方的に利益を搾取するだけとはな、どこかの新興宗教がやっていそうなことだ。
俺はそんな神になるつもりはない。
「願いを一つ……何でもでちか?」
「謝罪だよ。俺に責任を取らせてくれ。ただ、その後は君の力でルカを完全に治療してやって欲しい」
ルカの傷は魔王の責任では無いのは明確だ。
俺の天使であるルカに魔王を守るように命令し、それを遂行しただけだからな。
黒衣が自爆するなんて誰が予想できる?
魔王に襲いかかってくる相手からルカでも防御程度はやってのけると判断した俺が悪い。
「魔王さん。何でも良いから、ドレイク様に願いを言って下さいませ」
「そちはまさかルサールカでちか? その姿は……天使化?」
「ええ、今は貴女の柱ではありませんが都での暮らしは今でもはっきりと覚えていますわ」
「特に気にしていないでち。身内同士で争わないために国土を分割しただけでちから」
悪魔同士で争わないためねぇ?
この大陸ってゴブリンとオークは差別の対象だが、それぞれの国が戦争を起こす雰囲気はまったく無かったよな?
アルス大陸は勇者軍の本拠地である首都グレンの領土拡大から、自国を守るために争っている国も存在している。
人々を守る存在である勇者が戦争を仕掛けて行って、反対に魔王はグランディール大陸内での戦争は起きないように統制していたってか?
やり方はどちらも間違っているが……まぁ、勇者軍のほうが何倍も悪党だよな。
「願いは無いか?」
「ありまち! まろも高位存在にしてほしいでち」
「えっ……魔王の高位存在?」
「ドレイク様、魔王は魔族から投票されてなるものです。他の悪魔たちと大差は無いですわ」
まさかの投票制!?
普通は血統とか重んじられると思っていたが違うようだ。
悪魔も種族が多いみたいだし、民主主のほうが余計な争いは生まないのだろう。
ああ、だから第弐十陸天魔王なのね。
第100代内閣総理大臣的な存在って……イメージと違いすぎて、魔族たちのほうが人族より良いイメージを持ってしまいそうだ。
「天使化で良いってことか?」
「ドレイク様、いけません! また、無闇にハーレム候補をお作りになるおつもりですか!?」
あっ……そういうことにもなるよな?
すでに幼女枠はローズがいるから、2名もいらないのは確かだ。
俺、ロリコンじゃないし。
だが、願いを叶えてやるって言ってしまった以上、やるしか無いか。
「魔王の属性は?」
「属性でちか? 風属性が得意でち」
ほぅ、風属性ねぇ。
仲間に使い手はいないし、丁度良いかもな。
「魔王さんはハーピー族なのですわよ」
「ハーピーだったのか、羽は大人になると生えてくるのか? まだ、子ども?」
「子どもとは失敬でち! まろはこれでも98歳のピチピチギャルなんでち」
マジですか……98歳って先代魔王は何歳で交代したんだ?
長い間、勇者歴が続いているから、100年前には亡くなっているはずだよな。
「属性が風なら土耐性は有るよな? アースヒール」
パァァァ
「こ……これは……力がみなぎってくるでち!」
コスモスやルカと違い、風属性を使えるのは戦力としてはかなり助かる。
グランディアの上空は防衛手段が何もない。
ウィンドウォールを張ってもらえれば、それだけで大助かりだからな。
しかし、ロリ枠はもう勘弁願いた……あれ?
ムチッ
ポヨン
魔王の身体が急成長していく。
「あいたたた! 成長痛が急激に起こって……身体が痛むでち」
成長痛って……いやいやいや、そんなレベルじゃないだろ?
いくらなんでも早すぎだっての!
「そ……そんなぁ! ガキンチョが私と同じくらいのみずみずしいお肌になっていく……」
うっひょぉぉぉ!
これは予想外の出来事だ。
「あはっ……凄いでち! ドレイク様、これからはずっと一緒でち! ダーリンって呼んでもいいでちか?」
ブチッ!
あ、コスモスとルカがキレるから止めて。
「ダーリンですってぇぇぇ!」
「こんのガキャァァ! 少し優しくしてやれば調子に乗りやがってぇぇぇ」
ほらぁ、知ーらないっと!
あとは3人で疲れるまで勝手に喧嘩していろ。
「「ドレイク様、正妻は私ですよね!?」」
んもう!
俺の目の前で正妻戦争はやめてクレメンス!





