この力はどこかおかしい1
「ドレイク、自分の魔法で死になさい!」
「はっ!」
口が勝手に!?
何でだよ、雪!?
右手が勝手に動き、俺のこめかみに触れる。
俺の意識と反して魔力が右手に集中していき、ロックスピアーを放つ。
ドゴォォォン!
何もない黒い空間……俺はまた死んだのか?
コッコッコッ……
足音が遠ざかって行く。
雪、雪、どうしてこんな?
………………。
あれ、身体が動く?
目を開くと雪の自室のままだ。
そうか、バッグベアと戦ったときに残機数が回復していたんだったな。
勇者の仲間と戦ったおかげで助かるなんて……皮肉な話だ。
それにしても、雪に何が起こった?
城内から一切の音が聞こえない。
雪の能力で城内の魔界の者が自害したからか?
「……そうだ、母さん!」
雪の書斎で書類整理の仕事をしているはずだ。
急いで書斎へ向かう。
「母さん!」
……何だよ、これ?
ピグミーのみんな、本棚の上から飛び降りたのか?
人族にとっての断崖絶壁と同じだ。
こんな場所から飛び降りたりなんかしたらただでは済まない。
「はよ、死なな……はよ、死なんと……」
「母さん!?」
先に飛び降りたピグミーたちの遺体の上に落ちたから、クッション代わりになって一命を取り留めたみたいだ。
だが、至る所が骨折している。
「ああ……リュージ、はよ殺して……」
「何を言っているんだ! 母さん、正気に戻ってくれ!」
「雪様の命令やろが! うちら、魔界の者は死なんとアカンのや!」
ダメだ、雪の能力のせいで完全に正気を失っているのか?
パペットの能力は意識も変える?
だったら、どうして俺は身体だけが勝手に命令に従ったんだ?
どちらにしても雪の能力が驚異的である事は変わらないか。
「すまん、母さん……スリープ!」
ガクッ
ミミを眠らせ、ポケットの中に入れる。
他のみんなは……くそっ、生存者は母さんだけか。
そのままにしておくわけにはいかないよな。
近くにあったカバンにピグミーたちの亡骸を入れ、中庭へ降りる。
ザッザッザッ
ピグミーたちの墓を作りながら考える。
ちくしょう……どうして、こんなことになった?
雪が突然、人が変わったようになったのは何が原因なんだ?
いや、それよりもバッグベアとやけに親しいような感じがしていたが……どういうことか検討も付かない。
どちらにしても、雪が裏切り勇者軍に寝返ったことだけは確実なのだろう。
それに欽治……いや、佐能さんも雪の能力によって操られ、勇者軍のほうに行ってしまった。
意識が戻っても妹の近くにずっといるのだろうか?
取り戻せるなら取り戻したい。
たったの5年間だけだったが、俺の弟でもあったんだ。
……他のメイドや衛兵たちの亡骸も埋めてやらんとな。
ローウェルグリン城で生存者は俺と母さんだけか。
滅茶苦茶な命令もあったけれど、それなりに楽しい日々だった。
それを壊したのが、この城の頂点だった雪自身なのだから怒りがこみ上げてくる。
『リュージ』
プログラムが俺の心に語りかける。
こいつは残機数が復活したことに対して否定的だった。
まさか、強制的に終わらせられるなんてこと……無いよな?
『プログラム、どうしたんだ?』
『緊急事態です。今すぐにヘルヘイムへ来てください』
ヘルヘイム?
それってガンデリオン大陸だよな?
そんなのすぐに行けるわけが無いだろう。
どれだけの距離があると思っているんだよ。
『リュージ、返事は?』
『今すぐにって言われても……行き方もわからないし、ここの亡骸たちを埋葬してやらないと』
『通信モードに移行。ヒメ様と接続します』
通信モード?
プログラムめ、また訳のわからんことを。
ビ……ビビ……ビ
『リュージ、助けなさい! 貴方だけが唯一の……』
『滅ぼせ――! ヘルヘイムを焼き払うのだ!』
『焼き払えぇぇぇ!』
『ブレスが来るぞぉぉぉ!』
誰の声だ?
それに奥から聞こえるのは爆発音や兵士たちの声?
『リュージ、ヘルヘイムが! 私の国が!』
『いたぞ――、ここだ――!』
『ひっ……』
ビビ……ビッ……ブツン
通信が切れてしまった。
ヘルヘイム、私の国……ってことは、神様が襲われているのか?
まさか、勇者軍が神族たちの大陸にも侵攻を?
『プログラム、ヘルヘイムに何が起きているんだ!?』
『神々の戦争……ラグナロクが始まりました。標的はヘルヘイムのみですが……』
えっ……ラグナロクってあれだよな?
確か、世界の終末の日のことじゃないのか?
『それだけじゃわからないって!』
『何者かの攻撃でカジノに来ていた他国の王子や王女が殺害されました』
『王族は!? それでどうなったんだ?』
『ヒメ様が責任を追求され、アースガルズを筆頭にムスペルヘイムやヨトゥンヘイムなどの国々がヘルヘイムへ侵攻を開始しました』
そりゃ、自分の国の王族たちが殺されたらなぁ。
何やってんだよ、ヘルヘイムは!?
『神様がやったのか?』
『否定』
『だったら、なんでいきなり侵攻を?』
『神族は気が短いので、王族が他国で殺されたら侵攻は当然です』
えっ、話し合いの余地無しかよっ!?
ほとんど、不死に近い奴らが短気って……よくそんなので、この世界が滅亡せずに残っているよな?
『でも、その戦争に俺一人が参加したところで戦況なんて変わらないだろう?』
『……はい……はい……かしこまりました』
『プログラム?』
『ヒメ様をここへ転送します。リュージ、ヒメ様を全力で守るのがこれから貴方に課せられた運命です』
ふぁっ!?
『ちょ、ちょっと待てよ! そんなこと急に言われても!』
ボコッボコボコボコ
地面が盛り上がり人の形を成していく。
しばらくすると和服姿の女性の形になる。
「……はぁはぁはぁ」
「神……様?」
「QB、転送に成功したのね?」
『肯定。グランディール大陸です』
「そう、初めてだったけれどうまくいったようね」
『リュージ、目の前にいらっしゃるのがヒメ様です』
「リュー……いえ、この名前は生前ね。ドレイク、貴方を創造したヒメですよ」
やっべぇぇぇ、めっちゃ美人なんですけど!
俺を創造したってことは、俺の本当の母さんってことでいいんだよな?
母さんって呼んで良いのか?
でも、育てのミミは俺のポケットに入っているし。
「これは? QB、この惨状はどういうことかしら?」
『些細な出来事です』
些細な出来事だって!?
こんなに死人が出たんだぞ。
『プログラム! お前、なんてことを!』
「そう……うふふ、これは使えそうね」
ヒメが近くに倒れているゴブリン兵の一人に手を当てる。
「神様、何を?」
「魂が多すぎて、どれがどれだかわからないわね……ま、どれでもいいか」
ボロッ……
ゴブリン兵の肉が溶け骨も粉々になり土に還る。
ボコボコボコ
そして、遺体があった場所にゴブリン兵と同じ姿の土人形ができあがった。
「この子でいいわね……それっ」
空中から何かを摘むような動作を取り、土人形の胸の辺りに手を入れた。
何をしているのかさっぱりだ。
「グッ……ガッ……ごほっごほっ!」
動いた!?
まさか、蘇生したのか?
でも、肉体が土に還った後だから俺と似たようなものなのか?
「神様、これって……」
『ヒメ様、神々の攻撃から逃れるためには一度、神力を捨てるほうがよろしいかと……』
『……そうね、確かに神力を持っている以上、逃げ場所など無いに等しいわね。うふふ、QB、良い提案だわ』
スッ
俺の前にヒメが立ち、頭に手を添える。
いい匂い……さすが、創造主なだけはあるな。
「ドレイク、貴方にこの力をお貸しします。ここにいる城内の者を同じように作り変えて、兵を作り身を守りなさい」
「えっ?」
「QB、やってちょうだい」
『了解、リュージのプログラムをアップデートします』
ドクン
がはっ!
何だ、身体が熱い!
「ドレイク、私はしばらく神力を貴方に渡し、どこかで普通の人として生活をします。神族たちが貴方に渡した神力を察知して、襲いかかってくるでしょう。これをすべて撃退しなさい。何千年も終わることが無いかもしれない。うふふ、私の身代わりにお願いね」
ドクンドクンドクンドクン!
「う……うわぁぁぁ!」
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