この領域はどこかおかしい3
ディーテを探して、仮想世界の中心にやって来た。
闘技場のマップは消えてしまっているようだし、ディーテと会った場所の近くを捜索する。
他に思い当たる場所も無いし……どうすれば良いんだろう?
「待ってください。最新の被害情報を見れば、もしかしたら居場所が把握できるかも知れません」
モナ先生が位置を探してくれているようだ。
もう、かれこれ通話時間が12時間を過ぎようとしている。
ここまで付き合ってもらっている以上、結果を出さないとね。
「ホーク、スリードの状態は?」
「地下の治療槽の中で治療中ですわ。まだ時間はかかりそうですし、間に合いそうですわね」
余計な邪魔が入らないのが一番助かる。
スリードはディーテを復活させようと企んでいるし、起きたら今度こそ本気で殺り合うことになる。
そうなったら、あたしに勝ち目は無い。
「ナデシコさん、今から数十分前に金融街でアバターの消滅が起こったようです。もしかしたら、そこにいるのかも知れません」
金融街か。
確か、現実世界と仮想世界の両方の経済を担う大事な場所だったよね。
あの地域は現実世界と密接に関わっているため、NLGを使わずに仕事なんてできないし、ディーテにとっては格好の的になると踏んでいたけれど、まさか本当にそうなるとはね。
「ん、それじゃとりあえず行ってみる」
「ナデシコ、ディーテのテリトリーに入る前に、自分のテリトリーの展開を忘れずにしておきなさい」
「オッケー」
ヒュン
金融街の場所にはビジネスマンのアバターや警備アバターが多い。
お金を取り扱う場所であるため犯罪も多いからだ。
仮想世界で最も現実世界に近い場所ねと言われるだけのことはあるか。
どす黒い欲望渦巻く場所、お金って怖いなぁ。
「う……うわぁぁぁ!」
ヴヴ
目の前で何人ものサラリーマン風アバターが消滅していく。
ノイズが走るたびに2~3人が一度に消えていっている。
ディーテ自身が触れなくても、アカウントを乗っ取ることができるまでにテリトリー内の支配が進んでいるようだ。
あたしも半径2メートル程度の小さなテリトリーを展開させ、自分を守りながら金融街の中へ入っていく。
あたしのテリトリーとディーテのテリトリーがぶつかった時に、違和感を感じるようだけど、まだ何も感じない。
ディーテのテリトリーの範囲はどれほどなのだろう?
「ホーク……聞こえる?」
「聞……ジジジ……せん……ジジ」
通信機が繋がりにくい?
もしかして、ディーテのテリトリーに入ったのかな?
まだ、違和感を感じないけれど……。
ヴヴ……ヴォン
「あはっ! また来たのね! 早くディーテ様のものになっちゃいなさい!」
偽ユーナ!?
突然、あたしの近くに現れた。
やはり、ディーテのテリトリーに入っているようだ。
ユーナ姉がディーテ様なんて言わない。
ふふん、そうだ。
良いことを考えた。
ヴォン
「せいっ!」
偽ダリアが予想通り飛び込んで来て、蹴り技をあたしに浴びせようとする。
ちっ、だったら偽ダリアからやってやる!
「ん、イメージ……」
ヴヴ……ヴヴヴ
「あら? 私、何をやっていたのかしら?」
「ダーリン!? あんた、私のダーリンになんてことをするのよ!」
「何って、このアバターを乗っ取った」
「ムキ――! 私のダーリンを返しなさい! ニーニャん!」
ヒュッ!
ニーニャはやっぱり狙撃か。
高層ビルが立ち並ぶ、この金融街ではニーニャの得意技が、最大限に発揮されてしまう。
「ん、ダリア邪魔」
「えっ?」
ヴヴ……パァン
ダリアのアバターを消滅させ、アカウントをあたしのテリトリー内のデータベースに保存する。
元の持ち主に返す手段が見つかれば、返してあげたいから一応ね。
それにもしかしたら、別の使い道もあるかもしれないし。
後はディーテに再利用されないためにアカウントを取り上げることで、ディーテの戦力を少しずつ減らすことができる側面も併せ持っている。
「ダーリン!? この人でなしめぇ!」
「ユーナ姉も返してもらうね、ディーテ」
ヒュン
「はい、タッチ」
「嘘!?」
ヴヴ……パァン
偽ユーナに近付き身体に触れて、アカウントを取り戻す。
あたしのテリトリーを狭くすることで、ディーテのテリトリー内でも展開できることはわかった。
次は戦力を削りつつ、ディーテのテリトリーを侵食さえすれば、あたしの勝ちだ。
ヴ……ヴヴヴ……
「あっひゃひゃひゃ! 炎龍のブレス!」
ドゴォォォン!
また、至近距離でガールンを生成してのドラゴンブレス?
ディーテのお家芸みたいになってきたな。
でも、至近距離はあたしのテリトリー内だ。
どんな圧倒的な攻撃も無効化させる。
「はい、これで3体目回収っと!」
「こ……このっ!」
ヴヴ……パァン
ガールンの身体を軽く叩き、アバターを消滅させアカウントを取り返す。
ヒュッ!
今、ディーテが具現化しているのはニーニャのみか?
あの狙撃が一番、厄介だな。
ま、矢があたしのテリトリー内に入ると自動的に落下するように設定しているから、ただ鬱陶しいだけなんだけどね。
「お……おのれ! おのれ、おのれ、おのれぇぇぇ! またしても、汝が妾の前に立ち塞がるというのかぁぁぁ!?」
ヴヴ……ヴヴヴ
相変わらず短気な神だ。
たった3体のアカウントを取り返されただけで本体が出てくるなんてね。
あ、これがチョロいというやつなのかな?
うぷぷ、神様のくせにチョッろ!
さてとおふざけはここまでにして……本気で行くか。
「謝っても許さないよ。あんたは仮想世界も現実世界もめちゃくちゃにし過ぎたからね」
「誰が汝の許可を得る必要があるのじゃ!? 人間どもは妾の玩具だといつも言っておるであろうが!」
ヴヴ……ヴ
「「ヒャッハ――!」」
「「あたちも頑張る――!」」
「「よっしゃぁぁぁ! いきなり120%で行くぜぇぇぇ!」」
「「ダーリン、あいつを血祭りにあげるわよ!」」
「「ええ、もちろん!」」
ならず者が100体ほどに、パティが10体、ラグナが20体、ユーナが10体、ダリアが30体か。
目の前にはいないけれど、ニーニャもそれぞれのビルに配置しているのだろう。
もう、これほどまでに被害者が出ていると思うと怒りがこみ上げてくる。
「どれだけアバターを出そうが無駄」
ヴ……ヴヴ
ディーテのテリトリーを押しのけて、自分のテリトリーを広げるのは思ったより簡単にできるのだが、ディーテのテリトリーを書き換えようと試みると逆に侵食してくる。
お互いにテリトリーを奪うことが勝敗を分けるとディーテも理解しているようだ。
「「ヒャッハ――! 極上の女だぜぇぇぇ!」」
「「うぉりゃぁぁぁ!」」
「はい、パチもんゲットだぜぇ」
ヴヴ……パァン
接近して攻撃をするしか脳の無いならず者とラグナのアバターは、あたしのテリトリー内に入ることで自動的に消滅する。
あたしも意外と早く相手に触れず、アカウントを取り戻す方法が解析できて良かった。
「「ブリザードアロォォォォ!」」
バリッバリバリ……ドロッ
偽ユーナが距離を取って魔法を放ってくるけれど……ま、当然ながら無駄なんだよね。
あたしのテリトリー内にはアカウント奪取と全攻撃無効化を付与させている。
正直、太刀も抜かずに相手が倒れていくから退屈で仕方がない。
チートをすると、途端にゲームがつまらなくなるってネット掲示板で見たけれど、それと似たような現象が起きているのだろうか。
「よくも、よくも、よくも! 妾のおもちゃを返せぇぇぇ!」
アカウントはおもちゃじゃないんだよ、イカれた神様。
おもちゃ、おもちゃって子どもみたい。
あ、頭脳は子ども、身体は大人なのは以前からか。
テリトリーの奪い合いが目に見えないところで起きている。
一進一退を繰り返して、ディーテの解析速度もなかなか速いね。
ヴヴ……ヴヴヴ
「「炎龍のブレス!」」
ガールンを3体同時に具現化してのブレスか。
もう、そっちの攻撃が何の意味もないってわかっているだろうに。
ヴヴ……
「うわっ……」
油断したら、少しテリトリーを押し返されてしまった。
気を逸らしたらいけないね。
……ん?
気を逸らす?
そうか、ディーテの意識を別の場所に逸らせば、一気に書き換えることができるかもしれない。





