このゲームはどこかおかしい3
ガウッガウッ!
予想通り、魔獣は二階へ上がってタンスの中や隠れられそうな場所を物色し始める。
屋根裏部屋へ行くためのはしごはあたしたちが登った後、持ち上げてあたしの横に置いてある。
はしごをかけたままでは屋根裏部屋にいますよって教えるようなものだからね。
魔獣は二階を隅々まで探すが、しばらく経って諦めたのか一階へ降りて行った。
「ふぅ……行ったみたいだね」
「お姉ちゃん……もう、安全なの?」
どうなのかな?
魔獣は一階に降りては行ったが、意外と知恵がある奴らだ。
あたしたちが屋根裏部屋にいることはすでにわかっていて、はしごを降りるときを待っているのかもしれない。
魔獣たちがここに登って来られる手段が無い以上、制限時間が来るまで屋根裏部屋で隠れているほうが得策だろうな。
「まだ、降りないで……油断しないほうがいいからね」
「うん……でも……」
「気になることでもあるの?」
「ええっとね……魔人がいないのが気になるの?」
「魔人って?」
「二足歩行で私たちと同じような魔族よ。いつもの襲撃ならそろそろ現れると思う」
敵は魔獣だけでは無いのか?
あたしたちと同じように動くってことは、もちろんはしごも登れるのよね?
そんな奴らまでいるなんて、安全な場所って無いに等しくない?
身を挺して村人を守ろうとしても、かすり傷を追うだけで何かしらの状態異常を受けてしまうし……何度も死んで、攻略パターンを見つけないといけないのかな?
その点は確かに死にゲーだけれど……数の暴力は適切なスキルと持っていないと、攻略のしようが無いと思うな。
それとも、スキル無しの初心者さんでも攻略できるような仕掛けが隠されていたりするのかな?
ガウッガウッ!
アウゥゥゥ!
魔獣たちが遠吠えをしている。
「お姉ちゃん、来る。奴らが……来るよ……」
少女が震えて、あたしにしがみつく。
魔人を魔獣が呼んでいるのか?
残り時間は5分、それまで屋根裏部屋でこの子を守り切ることさえできれば、このチュートリアルミッションはクリアだ。
外の様子は窓がないためわからない。
どこかに隙間でも無いか探し、覗いても外の様子はわからないようになっている。
こういったところまでしっかりと作り込んでほしいなぁ。
「ココカ?」
ガウッガウッ!
聞き慣れない声がする……魔人は喋れるのかな?
魔人同士で会話ができるのなら、もしかして魔獣以上に連携を取ってくるよね?
魔獣以上に厄介な存在なのは確実か。
もう一度、天井の隙間から下の様子を覗いてみる。
外は覗けない仕様なのに、同じ部屋の中は覗けるって……運営さん、これってもしかしてバグってる?
あれが魔人か……グランディール大陸で見たゴブリンやオークとはまったく違う。
全身が黒い毛に覆われていて、一言で表現すると姿勢の良いゴリラって感じかな。
それかマッチョな類人猿って感じだ。
ミシッ
天井が軋む音を放つ。
まさか、二回の窓から出て屋根の上に登ってきたの?
「グフフ……」
不気味な笑いをする魔人が頭上にいる。
少女はギュッとあたしの身体にしがみついたままだ。
あたしたちの居場所がすでに見つかっているのか、まだ探しているのか……どちらにしても、この周辺に当たりをつけているのは確実だね。
ワォォォォン!
近くにいる魔獣が一斉に遠吠えをし始める。
すると、どこかで聞いたような風切り音が聞こえてきた。
ヒュゥゥゥ
ヒュゥゥ……
「この音って……もしかして、弓矢?」
ボゥ!
「きゃ……」
「しっ……静かに」
女の子の口を塞ぐが、まさかこんな攻撃までしてくるなんて……。
火矢が降り注ぎ、屋根が焼け焦げる臭いがする。
どこの家も茅葺屋根だから、非常に燃えやすいし攻撃手段としてはあってもおかしくないか。
この家ももちろん例外ではなく茅葺屋根だ。
あっという間に火が燃え広がり、屋根裏部屋に煙が充満する。
時間切れまでここにいることが困難な状況になってきたな。
呼吸なんて必要無い世界なのに……ゴホッゴホッ!
見たことも無いゲージが目線の下に表示される。
『酸素ゲージが0になると息ができなくなり死んでしまうぞ』
だから、こんな状況になってから教えてくるんじゃないってばぁぁぁ!
酸素ゲージなんて再現する暇があるのなら、外を覗けるくらいしておいてよ!
いつの間にか二階には魔獣と魔人が屯して、あたしたちが降りてくるところを今か今かと待ち伏せているように見える。
これは……あたしたちが罠にかかったんだね?
ここで跳び降りて運良く外に出ても、数の暴力によって成す術もなく蹂躙されてしまうだろう。
この子を守りながらなんて絶対に無理だ。
「グフフ……ハヤクオリテコイ!」
ガウッ!
やっぱり……とうの昔にあたしたちの居場所は判明していたようだ。
これで村人をどこかに隠してやり過ごすという攻略法は無いことがわかっただけ進歩したかな?
「お姉ちゃん……怖いよぉ」
制限時間が来るまでこの子と一緒に隠れているという方法も無理になった。
こんな状況を簡単に覆せるはずがない。
諦めるしか無いか?
現実世界と違って、やり直しになるだけだ。
ただ、死亡した場所で落とす武器とスキルの件を考えると、ここで魔獣共に食い殺されるのは駄目だ。
この子も今回は救えそうに無いけれど、最後まで一緒にいてあげよう。
「ごめんね」
「お姉ちゃん?」
「ここから逃げる。しっかりと掴まっていてね」
「う……うん」
女の子の頭に手を添え謝る。
どうして、単なるデータに感情移入してしまっているのか自分でもわからない。
人に見える以上、愛着が湧くのも当然か?
ダンッ!
バキッ!
屋根裏部屋の入り口を蹴破り、女の子をおんぶしたまま飛び降りた後、二階の壁を破壊して外に飛び出る。
屋根裏部屋に装備品を落とした状態では復活後、回収しに戻ることが困難になる。
できる限り、復活地点の近くまで行けたらそれで良い。
ヒュッ!
屋外にも待ち伏せしていると思っていたが、予想より数が少ない。
「お姉ちゃん、危ない!」
ドスッ!
弓矢!?
まさか、魔人が狙撃してきたの?
「くっ……」
村の周囲にいくつか建っている物見やぐらから魔人が一斉に弓を放ち、運悪くその一つがあたしの左足に突き刺さる。
まさか、一度目と同じ場所に命中するなんて……運が無いな。
ピッ
例に漏れず状態異常が発生する。
今度は遅延か……身体が重く感じるのはそのためだね。
『魔人の攻撃もすべて状態異常攻撃だ。絶対にダメージを受けるな』
だから、チュートリアルのくせに被弾した後に警告が出るのが遅いんだって!
アォォォォン!
ヒュッ!
再び、物見やぐらから矢を放たれる。
遅延のせいで避けられるはずがない。
スキルの瞬間移動を使って逃げることもできるが、この子はこの場に置き捨てることになる。
……余計な感情は捨てるんだ、ナデシコ!
復活地点の近くで殺られないと、復活後に装備品を回収する時間だけで無駄な時間を使うことになる。
この子だって単なるデータなのだから、見捨てたって恨まれやしない。
「スキル……」
「お姉ちゃん?」
今にも泣きそうな顔でこっちを見ないで……あたしはホークによって作られた戦闘特化型ホムンクルスなんだよ。
今は感情を捨てて……跳ぶ。
「瞬間移動」
ヒュン
復活地点の村の外れに跳んだ。
ここなら魔獣や魔人に殺られても、すぐにスキルと装備品を回収できる。
「お姉ちゃん……ここは?」
えっ?
瞬間移動はあたしだけしか跳べないはずなのに、少女があたしの背にしがみついた状態のままだ。
どういうこと?
現実世界のトラベラーの能力と違って、瞬間移動っていうスキルだから?
ステータス画面を開き、スキルの詳細を確認する。
瞬間移動LV2……LVが上がるごとにクールタイムが短縮。
下の箇所にもう一文?
現在LVと同じ人数だけ同時に跳べる。
クールタイムは知っていたけれど、まさかLVと同じ人数が跳べるなんて……今は瞬間移動のスキルレベルが2だから、あたしと少女で二人が跳べたってこと?
でも、これは良いことを知った。
チュートリアルのミッションクリアも希望が見えてきた。
この子と一緒に跳んで、魔軍との距離を取る!
これしかない!
「あたしにしっかり掴まっていてね。また、跳ぶよ」
「うん!」





