この同調はどこかおかしい14
なんで……この女がこんなところにいるの?
ドラさんが肉体を分散させ、廃棄コロニーの中を彷徨っているはずだ。
「ふふふ……妾が誰か気付いたのか? やはり、侮れぬな」
「ディーテ……その高飛車で気に食わない喋りかたで知っているのはあんただけくらいだからね」
「あんた……じゃと? 神に対して不敬すぎるぞ……この人形如きがぁぁぁ!」
グンッ!
さらに勢いよくディーテに引き寄せられる。
触れたら消えるのも相手がディーテなら最悪のことも想定しておかなくてはならない。
フェリカもバルバドも他の触れた人たちも死んでいる可能性が高い。
仮想世界で死ぬ……それって、リアル世界ではどうなるのかな?
脳死に近い状態になる?
……もしかして、昏睡事件もディーテの仕業?
どちらにしても、肉体を持たないあたしが触れると危険なのは変わりがない。
「どっりゃぁぁぁ!」
ドスッ!
太刀を地に突き刺し、ディーテの発する引力に抵抗する。
宇宙空間でのガールンとの戦闘が役に立ったね。
「もしかして、今……現実世界で起こっている昏睡事件ってあんたの仕業?」
「ふふふ……人形のくせに相変わらず頭の回転だけは早いようじゃ。魂だけが集まるこの世界は最高じゃの? 人間が妾の供物になれることに感謝して欲しいものじゃ」
魂というか意識だけで存在できる世界だけど……そっか、意識と魂はほぼ同じものだと仮定すれば、それを無くした身体は起きることがないよね。
でも、突然起きて無差別に人を襲い始めるっていうのは……もしかして、ディーテの眷属にされている?
昏睡者の意識が入っていない身体はただの空箱と同然だ。
ディーテが仮想世界から何らかの方法で現実世界にある空の肉体にアクセスして操っている可能性は高そうだ。
「いろいろと繋がったよ……でも、あんたを倒せば解決することもわかった」
「あっははは! この世界はどうやら電気信号でできているようでな? おかげであの憎き魔女から危機一髪で助かったわ」
そうか……純粋の神族は属性生物ってドラさんが言っていたね。
ディーテは身体の構造がすべて電気で形成されている。
だから、この仮想世界の電波に入ることができたんだ。
でも、それならディーテは仮想世界では……もしかして、無敵?
こりゃヤバいね。
「顔付きが変わったな? 気付いたか……この世界は妾にとって最高の場所じゃ」
「だから……この世界を自分のものにするの?」
「あっははは! 違うぞ人形……すでに手中に収めたのじゃ。妾こそ、この世界の唯一の神じゃ!」
「「いったい、どういうことなんだ?」」
観客席が騒然とする。
ディーテにとって人間は虫けらと同然。
ここにいる人たちが危険だ。
「ネームレス選手がなにやら理解の及ばないことを言い始めましたが……もしかして、痛い人だったのでしょうか?」
わぁぁ、なんてことを言ってるの!
そんな事を言うと気の短いディーテに瞬殺されてしまうよ!
「……外野がうるさいの? そうじゃ、良いものを見せてやろう」
あっちゃぁぁ、やっぱキレてるよね!?
それにしても良いものって?
そんなのこっちにとっては嫌なものに決まっている。
ディーテが観客のほうに手を向ける。
「スペシャルスキル……」
「「スペシャルスキル!?」」
「聞いたことがないぞ?」
「おおっと! ネームレス選手、やはり痛い人だったのでしょうか?」
だからぁ、それ以上、こいつを煽っちゃ駄目だってば!
ディーテが観客席に手を向ける。
マズい……観客になにかする気だ。
「みんな、逃げて!」
警告を促すが誰も動かない。
「「あ……ああ……あああ!」」
バシュゥ……
観客のアバターが次々と消えていく。
実況アナウンサーも苦しみだしたと思った次の瞬間には消滅する。
「あっははは! 妾だけの特別スキル、ドール……これであやつらは妾の忠実な下僕となった。電気の世界ではない元の世界で妾のために大量の人魂を用意してくれるじゃろうて。見てみるが良い」
ブンッ
突然、巨大なスクリーンがディーテの前に映りだす。
「これは先ほど消した人間の一人の向こうの世界の姿じゃ。ちょうど、監視カメラというものが至る所に備え付けられていての……相手を見るには最高じゃ」
この世界にはありとあらゆる場所に監視カメラが存在する。
そのどれもがネットワークで繋がり、管理会社に映像が送られるのだけれど、それをハッキングしたというの?
目の前に映る男性は公園のベンチに座り、この世界へ入るための機具NLGを装着している。
ぐったりしているように見えるのはこちら側へ来ているからだろう。
ガバッ
「あ……あははは! ディーテ様! ああ、ディーテ様ぁぁぁ!」
ガタン!
「きゃぁぁぁぁ!」
自分の座っていたベンチを簡単に持ち上げ、それを振り回して暴れだした。
ベンチを一人で持ち上げ、振り回すなんてそう簡単にできるはずがない。
「人間というのは不便なようでの。無意識に全力が出せないようにブレーキがかけられておるのじゃ。それを外してやると……あっははは、こうなる!」
なんてことを……そんなことをしたら普通の人間は筋肉や神経に異常をきたして身体が壊れてしまう。
「どうじゃ? 妾の新しい力は? もうすぐ、汝の身体も妾のものとなるのじゃ」
あたしの身体も乗っ取って操ろうっての?
「ふふっ」
「何がおかしい? それとも妾のものとなることに歓喜しておるのか?」
「残念……あたしも肉体が無いの……神倒の型、荊鬼剣!」
太刀を地面から抜き、全力でディーテに向けて投げる。
引力もずっと発動するわけではないようだ。
スキルの効果時間が切れたのだろう。
思い通りに身体を動かせる今、ディーテを倒さないと後々もっと惨劇が起こることになる。
それに試してみたいことがある。
ディーテに仮想世界の武器が通用するのか……波動系は吸収されたけど、武器ならどうなるのだろう。
仮想世界では武器も波動系の技と同じデータの集まりでしかない……でも、万が一にでも可能性があるなら、それに賭けてみるべきだ。
「言ったであろう……この世界はすでに妾のものじゃと」
スッ
ディーテが手をあたしのほうへ向ける。
クイッ
ギュン!
なっ!?
あたしの投げた太刀があり得ない曲がりかたをし、あたしに向かって飛んできた!?
避けようと移動しても太刀も同時に曲がり、確実にあたしに向かって追従してくる。
誘導ミサイルのようにいつまで経っても追いかけてくる。
「あっははは! そうやって、いつまで逃げ続けるつもりじゃ?」
こんなこともできるのが仮想世界なのだろう。
追いかけてくるなら、それを利用してやるか?
ダッ!
「なんじゃ、刀を無視して妾に向かってくるとは? もう、諦めたのか?」
「こんなベタな方法もあんたみたいなバカだから引っかかるんだよ」
「なんじゃと? 汝に触れればお終いというのを忘れたのか」
ディーテがあたしに触れようとした瞬間に能力で……じゃなかったスキルで跳ぶ。
しっかりとあたしの背中を太刀が追いかけてきている。
ヒュン
ドスッ
「うがぁぁぁぁ!」
太刀があたしの跳んだ場所に進もうとするが時すでに遅し……ディーテの身体に突き刺さる。
こういう誘導するものって大抵はこうやって引っかかるんだよね。
ま、バカ限定だけれど。
武器は効果有りってことがわかった……これなら、何とか戦えそうかも。
「うがぁぁぁ……ふふふ、なんちゃっての」
「えっ!?」
パァァァン
ディーテに刺さった太刀が単なるデータに変わり消滅した。
よく見るとディーテの身体に傷一つ付いてはいない。
「汝も愚かじゃろうて? この世界は妾のものと言っているであろう。それはつまり、この世界に存在するものすべて妾の思うがままと言うわけじゃ」
そんな……本当に仮想世界がすべてディーテのものなら、成す術って何がある?
「あっははは! その顔いいぞ!? もっと悔やむがよい、妾が味わった屈辱はそれくらいでは済まなんだからのぉ! 汝はもっと苦しめて滅してやろう……そうじゃの、こんなのはどうじゃ?」
ヴヴ……ヴヴヴ
闘技場にノイズが走ったと思ったら、辺りの風景が変わる。
まさか、一瞬でマップデータを書き換えた?
ディーテが目の前からいなくなっている。
「汝を苦しめる特別ステージじゃ……まずは、こいつがよかろう?」
ヴヴ……ヴ
目の前に現れたのは……えっ、嘘?





