この同調はどこかおかしい13
アロイスが突然消えてから1時間ほど経った。
回線落ちが酷くてログインができないのだろうか、アロイスはいつまで経ってもやって来ない。
大会の運営側も困っているようだ。
観客席にいた人たちも次々と退出していき、今では数百人ほどに減っている。
「え――、アロイス選手ですが連絡がまったく繋がらない状態のようで……第三回戦はナデシコ選手の勝利とします」
「「ブ――! そりゃ、無いだろ!」」
ブーイングか……そりゃ、そうだよね。
あたしだって納得できないし。
でも、勝ちは勝ちだし賞金に近付いたから別に良いか。
それにしても、アロイス……ちょっと心配かも?
「準決勝はフェリカ選手とネームレス選手になります。この試合で勝者となったほうが引き続きナデシコ選手と決勝戦で戦うことになります。これは見逃せない!」
会場は静まり返っている。
実況アナウンサーもやり辛そうだな。
これだけ盛り下がっているとね……あたしもなんだか少しシラけたし。
さっさと賞金をもらって次の稼ぎ場を探したい気分だ。
「運営……少し良いか?」
フェリカが話し出す。
「観客と同じく私も興が削がれた。すまないが棄権させてもらう」
「ええっ……そんな! す、少しお待ち下さい」
運営席のほうを見るとフェリカも混じり何人かのアバターたちが揉めている。
フェリカの突然の棄権に慌てふためいているようだ。
アロイスの処遇で失敗したよね。
今までこういうことは無かったから、上手な対応が取れなかったのだろうけど。
実況アナウンサーがマイクを握り話し始める。
「え――、アロイス選手とナデシコ選手の試合ですが再試合となりました。ただ、アロイス選手と連絡が取れ次第、第三回戦につきましては後日開催となります。本日は残り一試合……フェリカ選手とネームレス選手の準決勝を先に行わせていただきます」
再試合か……ま、あたしは別にどちらでも良い。
フェリカもその条件なら飲んだようだし、少しは丸く収まったのかな?
観客席にもチラホラと観客のアバターが戻ってきている。
「「うぉぉぉ! フェリカぁぁぁ!」」
相変わらず凄い人気だ。
ま、色んな大会に出ているようだし当然なんだろうけど。
「では……準決勝……始めっ!」
「何者かはわからぬが……手加減無しでいくぞ」
「………………」
ネームレスは相変わらず身動き一つしない。
でも、近寄ると消されるし……不気味極まりない奴なんだよね。
「スキル……波動砲!」
ドォォォン!
フェリカも近付くのは得策でないことは理解しているようだ。
波動系スキルでネームレスに攻撃をし続ける。
パァンパァンパァン
「なっ!? 波動が消えた……だとっ!?」
「おおっと! ネームレス選手、どのようなスキルを使っているのでしょうか! 波動砲が掻き消されている!」
だが、その波動もネームレスに当たると同時に消滅をしている。
距離を取っての攻撃を無効化されるなんて……近付いたら危ないし、これでは手も足も出せないじゃない。
「どういう仕掛けなのかわからないが……貴様、無敵か?」
「………………」
「ここまでだんまりを決め込むとは……私は無視をされるのが嫌いなのだが」
「………………」
話が通じているのか、それとも話すだけ価値のない雑魚だとか思っているのかな?
それとも物凄いコミュ障とか……ヤバい、あのマントの下で顔が真っ赤になっていたらウケる。
フェリカはかなり強いがネームレスも強さが未知数なだけあって、この試合は目が離せないな。
「いい加減に一言くらい発することはできないのか!」
「……スキル」
初めてネームレスが喋った。
女の声……やはり、どこかで聞いたことがある。
何かフェリカに仕掛けるつもりかな?
グッ
フェリカも警戒し、構えを取る。
「アブソープション」
「なっ……」
「アブソープション!? 初めて聞くスキルだぁぁぁ! どんな効果が……おや?」
ズッ……ズズズ
フェリカのアバターがネームレスに引き寄せられているの?
必死に抵抗をしようと暴れているが、じわじわとネームレスに身体が近付いていく。
「くっ! 何だ、これは……身体が引っ張られる!?」
「………………」
「フェリカ選手が何か不思議な力でネームレス選手に引き寄せられている! 必死の抵抗をするが、ネームレス選手に波動系スキルは効かない! さぁ、どうなる!?」
「くっそぉぉぉぉ!」
ジュワッ
……フェリカのアバターがネームレスに触れた瞬間に消えてしまった。
あのフェリカが何もできず、相手に触れただけでやられるなんて……ネームレス、強すぎる。
「……え……えっと……ネームレス選手の勝利です!」
「「す……すっげぇぇぇぇ!」」
「「あのフェリカがダメージを一つも与えられずに? そんなことがあり得るのか?」」
「チーターじゃない……よな?」
この仮想世界で違法行為があると赤ネームになるらしいし、それは違うと思うけれど……あれの対抗策を何か見つけないとまともにやり合えそうにないね。
「おい! ニュースを見てみろよ!」
「これって……アロイスの中身じゃねぇの?」
「確かリアルネームが山田清志だったよな?」
山田!?
えっ……アロイスって日本人だったの!?
それにしても緊急速報か?
私の眼前にニュース画面を出す。
昏睡事件の人々が目を覚ました途端、人が変わったかのように暴れ出し目に入る人々を手当り次第に殺そうと襲いかかるらしい。
いくつかの国では銃を乱射する元昏睡者も出ているって怖いね。
とあるコロニーで昏睡者で無いはずのアロイスの中身である山田清志も回線落ちした直後から意識不明になっていたらしい。
人が待ってあげてるっていうのに、何をしているの……この人は?
病院に運ばれた直後に起き上がり、自分が乗っていた担架を振り回し大暴れしている。
あの担架を軽々と持ち上げるなんて、リアルでも格闘家なのかな?
いや、それにしては腕が細すぎる。
「え……え――、多くの方が緊急速報を見てご存知かとは思いますが、アロイス選手のプレイヤーである山田氏が先ほど緊急逮捕されました。よって、規約により第三回戦はナデシコ選手の勝利となります」
「「おいおい……嘘だろ?」」
人を怪我させたら当然だよね。
緊急速報でもこの大会と関連は無いし、決勝戦は行えるってことか。
ネームレスのあの攻撃が何なのかわからないまま挑むのも不安なのだけれど……仕方がないね。
「ふふふ……」
ネームレスがあたしに手招きをしている。
相手はやる気満々だけれど、運営側はどうする気なのかな?
もともと大会は本日中にすべて終わらせる予定だっただろうし……。
「予想外のことが起きましたが、通常の予定通りフェリカ選手がダウンし、アロイス選手は失格となったため決勝戦を行いたいと思います。ネームレス選手とナデシコ選手、どちらも本大会初出場の対決! これは誰が予想できたでしょうか!?」
覚悟を決めるしか無いわけか。
あの攻撃の避けかたもわからないままなのが不安だな。
待機室から再び闘技場内へ入る。
「「うぉぉぉ! 頑張れよ、ナデシコぉぉぉ!」」
応援されるのって知らない人からされても嬉しい気持ちになれるんだ?
応援してくれている人たちには後で家族になってくれるか頼んでみようかな?
ネームレスの前に進み、構えを取る。
「それでは……決勝戦……始めっ!」
ネームレスには絶対に近寄れない……だからといって、時間稼ぎをすると強制的に引き寄せられるスキルを使われる。
「スキル……」
えっ、さっきのスキルってあんなに強力なのにクールタイムが短かったりする?
「アブソープション」
グンッ
凄まじい力で引き寄せられる。
くっ……このままじゃ、あたしもよくわからないスキルでアバターが消滅させられてしまう。
……消滅させられたプレイヤーってどうなったのかな?
フェリカもバルバドも予選で消された人も負けたから、そのままログアウトした?
いや、フェリカはそんなに身勝手な人では無いのはわかっている。
なんだろう……嫌な予感がする。
ネームレスのどこかで聞いたことのある声……よく思い出せ……。
「ふふふ……貴様のすべては妾のものとなるのじゃ」
「!!! あんたは……まさかっ!?」





