この同調はどこかおかしい4
「ナデシコ! ヒメは敵よ!」
突然、ダリアが声を荒げて言う。
「くす」
その瞬間、背中に背負っているヒメが急激に重くなる。
違う……あたしの背中から凄まじい勢いで石化が進行している!?
能力を使って跳んでみようと試してみるが能力が発動しない。
石化の進行が早すぎる!?
これは間に合わないか。
仕方がない、この身体は捨てるしか無い。
意識だけでも跳ばせれば……そうだ、その方法を最近見つけたのだった。
この世界では意識だけで生きることは無理。
それは霊体であり、世界の掟により時間が経つごとにモンスター化してゴーストとなってしまう。
でも、大丈夫。
運良く意識だけでも行きていられる場所を見つけたから……そこに跳ぶ。
………………。
目の前に広がるのは無数の情報が交錯する仮想世界。
この前、ダリアの世界に来られてよかった。
ディーテを倒した後、僅かな時間だけど向こうの世界をユーナ姉に案内された。
ダリアの知識データで知っているけれど、実際に見ないと跳べないからね。
これで、異世界間の移動もあたしはできるようになった。
ん、ちょっとレベルアップした気分。
それにNLGという機械で仮想世界という人間が作った人工の世界も経験することができた。
意識だけの世界……肉体が必要無い意識だけで稼働できる不思議な場所だ。
へぇ……自分のあらゆる記憶データも置いておけるのか。
ディーテの研究所のコンピュータでは、今のあたしのデータはすべて収まり切らないけれど、ここでは容量を気にしなくてもいいみたいだ。
万が一のときのために、ここにあたしの全データを保存しておこう。
そうだ……プロテクトもしっかりとかけておかないと誰かに盗られたら大変だ。
「ふぅ……うまくいったのかな?」
……あのときの経験が役に立って良かった。
意識を跳ばし仮想世界に保存していたデータとリンクさせたことで、この仮想世界でも生きることができる。
それより、ヒメも敵対する神族だったわけか……もしかしたら、優しい神族っていないんじゃないのかな?
これからは、神族すべてを敵勢力として把握しておこう。
ニーニャとユーナ姉はすでに石化されてしまった……たぶん、あたしの後にダリアも石化されるだろう。
あたしの家族を殺したヒメは絶対に許さない。
もう、ヒメには容赦しない。
戻ったら、全力で排除する。
そのために肉体が必要なのだけれど……どうしよう?
どこかの研究所の培養槽でもあれば、データに侵入して身体を作れば良いと思っていたけれどどうやら無理なようだ。
この世界ってホムンクルスの生成が世界的に禁止されているらしい。
無数の情報が集まる仮想世界にいるわけだし、違法的にでも作っている場所が無いか探してみるか。
………………。
むむぅ、いくら探しても見つからない。
よく考えると当然か、違法なんだから……こんな盗られる確率があるかもしれないクラウド上にデータを保存しておくわけがないよね。
肉体の代わりになるようなものを探すしか無いか……ん、次はすぐに見つかった。
義体……機械の身体か。
可動域が人間の構造よりかなり広い……これって……あたしはさらにレベルアップできるかも?
あ……でも、無理だ。
電脳世界と現実世界を電波で繋ぎ、意識はこっちに置いたままのようだ。
これじゃ、向こうの世界へ行った瞬間スクラップになっちゃう。
自分の意識を収納できる義体が欲しいのだけれど、そういった義体って作って無いのかな?
一つの古い記事に目が移る。
身体が不自由な人に、その肉体を捨てて義体へ移す計画もあったようだ。
いろんな抗議団体の反対で計画が破綻……ふぅん、両親から授かった身体を捨てるのは死人と同意義か。
あたしはそういった感じで授かった身体ではないから、特に思い入れも無いなぁ。
この計画に関わった人たちなら、あたしを入れる器を用意してくれないかな?
でも、顔見知りでも無いし……あたしは肉体が無いから仮想世界からでしかコミュニケーションを取れない。
一度、会って話しましょうって言われたときになんて説明をすればいいのか……思い付かないや。
関係者の知人を探してみるか……人の結び付きってどこかで繋がっていることもあるだろうし、今はこれに賭けるしか無い。
……へぇ、調べたいことは単語だけでそれに関連するものが出るのか?
うわぁ、こんなものまで流れているの?
……はわわ、ダリアのサイン入り色紙高すぎ!
書いてもらったのを売れば、ちょっとした小金持ちになれそう。
この兵器、すごく便利……お値段が27億!?
……おっとっと、情報がありすぎて、余計なものまで見てしまう。
ダメダメ、人探しに集中しなきゃ。
あ、これ美味しそう……コホン。
………………。
あった、モナ先生の先生が義体研究の第一人者なんてラッキーだ。
モナ先生なら、傷の手当てもしてもらったし、ホムンクルスであるあたしに興味津々だったから、仲良くなれたのはすぐだった。
家族になるのは断られたけど……ん、残念。
モナ先生に早速コンタクトを取ろう。
何度か、通話を試してみるが繋がらない。
よく調べてみると彼女の病院の診察時間のようだ。
少しでも早くコンタクトを取りたいのに……仕事中じゃ仕方がないよね。
メールを送っておこう。
ただ、待っているのも退屈だし何か暇つぶしにできることって無いかな?
そうだ、意識だけではなんだか変な感じだし、仮想世界で動きやすいように身体って作れないのかな?
検索検索っと……アバターっていうのがあるんだ?
へぇ、そのアバターを作る制作ソフトも種類が豊富なんだね。
お金は持っていないから、無料のやつで……アニメ調?
これ……面白そう。
アバター制作ソフトをあたしがとっておいたバックアップのところにインストールする。
まずは頭部からか……かなり細かく作れるみたいだ。
ん、ちょっと面倒だね。
適当にパーツを選びつつ、それでも可愛くなるようにアバターを作っていく。
やっと、顔ができた。
髪型は……あ、これなら激しい動きをしても邪魔にならないかも。
面倒だと思っていたけれど、作り始めるとなぜか楽しくなってきた。
次は上体か……腕は長いほうが攻撃が当てやすいね。
最大値にして……ありゃ、なんかテナガザルみたいになっちゃった。
これは可愛くない……可愛く見える中で最大限に長く。
これがギリギリかな。
次は胸か……邪魔だしぺったんこで……え、ダメ?
身体も時間をかけながら楽しく作っていく。
やっと、できた。
これがあたしのアバター……仮想世界で生きやすくするための器だ。
まだ、診察時間が終わっていないか……メールも未読のままだ。
モナ先生も人気がありそうだし、仕方がないかもね。
これからも待つことが多くなりそうだし、この仮想世界を探検してみるのも楽しいかも。
連絡はどこにいても受け取ることができるみたいだ。
バックアップ部屋、いわゆる仮想世界でのあたしの家だ。
扉を開けて外に出る。
うわぁ……相変わらずごちゃごちゃしているけれど、なんだか凄い。
これがサイバー空間ってやつなんだよね。
アバターに意識を入れ、町を歩いてみる。
ザワザワザワ
なんだろう、人混み……じゃなくて、アバター混みが町の広場でできている。
気になるので広場へ向かってみると、喧嘩をしているのかな?
ドゴッ!
「ガハッ!」
「ウィナー……トビィィィ!」
「がははは!」
「さぁ、この相手に挑む強者は他にいないか! サイバーF地区最強のトビーに勝てたら賞金500サイバーチップだ!」
へぇ、喧嘩するだけでお金がもらえるなんて楽でいいね。
義体を作ってもらうのにもお金がかかるだろうし、お金稼ぎもしなくちゃ。
「あたし、やっていい?」
「おおっと、挑戦者キタ――! 名前はナデシコ……ステータスは……ぷっ」
ムカッ……あいつ、あたしの名前を見て笑った?
「ゴホン……挑戦者ナデシコがトビーに挑むぞ! さぁ、勝ちはどっちかハッキリしているが、がっかりせずにみんなで応援よろしく!」
なんだか、バカにされている?
ま、お金さえもらえたら何でもいいけれどね。
「俺様に挑むたぁ、いい度胸だ! さぁ、思い切り楽しもうぜ!」
目の前にいるのは身長が3メートルほどある大男だ。
見るからにサイバー空間のデュエルで収入を得ていそうな人だな。
アバターも戦闘特化型か。
スキルもいろいろと持っているみたい。
家から出る前にいろいろと調べておいて良かった。
仮想世界だけに存在するスキル……リアルで言うところの特技みたいなものだ。
あたしのスキルは瞬間移動LV1、格闘センスLV3が元からあった。
身体があった頃より弱体化しているのかな?
「さぁ、デュエルの申請を許可しな。その瞬間に死んでるがな……ぐふふ」
「んと、デュエル申請……どこにあるの?」
「おおっと、勇敢な挑戦者じゃなく情弱の命知らずだったぁ!」
「「やっべー、あいつバカだ!」」
「「あっはははは」」
なんか、周りがうるさいな。
初めてなんだから仕方がないでしょ。
「そうかそうか、初心者様か。今なら棄権してもいいんだぜ?」
「ん、やる」
「ぐふふ、度胸あるじゃねぇか。なら、こっちから申請してやる。許可した途端に瞬殺だ……」
ピッ
『トビーからデュエルが申請されました。認証しますか?YES・NO……』
「ん、イエス」





