この救済はどこかおかしい9
「団長、どんな命令でもお受けしますよ」
「あぁ、コンスタンとベルンハルトは俺と一緒にメンバー分けを頼む。レベッカ、お前に用があるのは俺ではないセラフィマだ」
セラフィマが私に近付き話をする。
「そう……私ですわ」
「セラフィマ、どんなご用ですか?」
「団長さんも耳だけ貸して聞きなさい。貴女が保護したリア……でしたっけ?」
「リアが何か?」
「単純に考えまして今のところ、最も怪しいのは彼女ですわ。確信があるわけではありませんが、あの子の泊まっている部屋にだけ三か所の魔力溜りがありますの。その魔力溜りの近くで彼女が寝ていて、彼女本人だけがメルトダークネスの餌食になっていない……理由はそれだけですわ」
「そ、そんなことで! リアは違います!」
「どうしてそう言い切れるのです?」
「だって、リアはボロボロになっているところを発見したのですよ!」
「それがフェイクだと気付きませんこと?」
「そのようなふりをしていたって言いたいのですか!?」
「レベッカ、よく思い出してみろ」
団長もセラフィマの言うことに一理あると言いたげだ。
しかし、よく考えてみると私もそれは疑問に思えもしないことはない。
だけど、彼女を初めて発見したときはボロボロの姿で弱りきっていたのも事実だ……なにか大変な目に遭ったのは間違いがない。
まともに意思疎通もできないくらいに心も弱りきって……そんな彼女が大量消失を起こした……いや、もはや虐殺か……それの容疑者だって?
「けれど、リアは意思疎通もできないくらい弱っていて……」
「では、メイドの誰がどこで消えたのか……それも考察してみましたわ。ほぼ、これで間違いはないと思うのだけれど一人の消失以外は、ほぼリアが近くにいますわね」
「ほう、興味深いな? セラフィマ、聞かせてくれんか?」
「そ、それが決定打になるのなら私も彼女を疑い……ます」
「あの子を貴女が連れてきたのが五日前、彼女を招き入れたのは応接室。ここで当時のお茶出し係であったイゾールダが消されましたわ。その後、1階の客室へ貴女が案内し、一日目が終了しましたわ。二日目、時間はわかりませんが……あの子の部屋で当時、彼女の側付きメイドであったミーアが消されましたわ。この王城でも有能で真面目だったミーアが彼女の側から急にいなくなったことに貴女は何の違和感も感じなかったんですの?」
確かにミーアがいなくなったのに違和感は感じたが、メイドの仕事を詳しく知らない私としては何か大事な用事をメイド長から頼まれたとか勝手に思い込んでしまっていた。
メイド長とは何度か会いに行って頼み事をしていたのに、ミーアのことは何の確認もしなかった……私の不手際だ。
「まだ、これで彼女の客室の魔力溜りは一つですわ。二つ目は三日目、彼女が部屋にいるときにシーツ交換をしにやって来たアリーヌですわ。時間は朝でしょうね、間違いなく……」
「三つ目の……魔力溜りでしたか? それができたのはいつなのですか? あと、それで消えたメイドって……」
「三つ目、寝ている彼女の足元にあったのはメルトダークネスではありませんわ。何かはわかりませんが、魔力濃度が他と比べて凄く少ない……人、一人分の落とし穴でもなく別の闇魔法なのでしょうね。そうそう、別の魔法といえば応接室の魔力溜りの方はかなり濃かったですわ。人、一人分の落とし穴であったのは他の黒いシミと違いがありませんが……これで、あとは2階客室と洗い場ですわね。これはもう少し、考察を加えていけば自ずとリアに辿り着くでしょう」
セラフィマの考察は確かに道理が通っているように聞こえる……だったら、やはりリアが?
いや、リアの部屋にあった三つ目の黒いシミだけ説明が曖昧すぎる。
セラフィマを疑うわけではないが、私から見たらどれも同じ黒いシミにしか見えないし……属性視覚とはそこまでわかるものなのか?
「ふむ……だが、セラフィマ……北地区の村人の件はどうなる? 夜に消えたのは判明しているが、リアが犯人だとしたら門兵の誰かが、彼女が王城から出ていくのを見ているはずだ。そんな報告は受けておらんぞ?」
「村人の件は別件として考えていますわ。だって、魔力溜りが王城にあったのと違ってかなり濃いですもの。おそらく、別の魔法……応接室の魔力溜りとは似ておりますわね」
「それなら、イゾールダの消失だって、別件として考えるべきなのでは?」
「あと、洗い場にある魔力溜りもリアの部屋にあるのと同じ薄さですわ。消えたメイドはアリーヌと同じ洗濯係のカーラと断定していいでしょう。王城内であれば彼女がどこを歩いていても誰も不審には思わない。それに洗い場なんて隣の大浴場も同じ清掃時間で誰も利用しませんし、あの前を通るのはごく少数のメイドしかいませんわ。リアが入ったところを誰も目撃しておりませんでしたし」
セラフィマはどうしてもリアを犯人にしたいのか、なぜか悪意すら感じてしまう。
けれど、彼女を論破できそうな証拠は何も無いのも事実だ。
「セラフィマ、村人の件は別件として考えていると言ったが、具体的には?」
「そうですわね……単純に考えれば、この国に侵入した大魔道士は二人いる……まぁ、闇属性攻撃魔法を持った大魔道士なんて、一人いるだけでも超レアなのでこの考えはありえませんわね」
二人の侵入者がいるか……そうだったらかなり苦労しそうだな。
「あとはリアが能力者とかですわね。闇属性攻撃魔法を使えて、さらには能力者……これもレアですが、あり得ないとは限りませんわ」
リアが能力者?
どう見たって、彼女は普通の人にしか見えない……いや、能力者そのものを見たことがない私だから何も知らないだけなのか?
「能力者となると、リアも勇者軍の幹部の線もあるか? それにどんな能力を持っていると考えているのだ、セラフィマ」
コンスタンが初めて口を出した。
「村人もリアの仕業だと考えるとおそらく空間移動系……それも大規模な。そうですわ……その件で考察すると村人の消失もすべてリア一人で片が付きますわね……」
「ふぅむ……村人の消失も入れて話してくれんか?」
「俺も頭がこんがらがってきたぜ」
ベルンハルトまでリアを怪しんでいる?
絶対にリアではない……あんな可愛い娘が……コホン。
可愛いは別としても、リアのステータスは虫食いだったが極振りじゃない平均型、別名チキン型って呼ばれるものだった。
そんなステ振りをする娘は一般人であると公式に証明しているようなものだ。
能力者なら、自分の能力で補えない部分をステ振りで強化するのでは無いだろうか?
やはり、どう考えたってリアを疑うのはおかしい。
セラフィマはずっと腕を組み、なにか考えているようだ。
リアが犯人の線で思考を巡らせているのだろう。
「どうだ、話せそうか? セラフィマ」
「そうですわね……目的が何なのかは省けば考察できますわね」
「おう、聞かせてくれ」
「まず、南東地区にやってきたリアはそこで何らかの闇属性攻撃魔法を使い村人全員を消失させた……そして、次に跳んだ先の南地区で偶然、レベッカに会い怪我人を装い保護され王城に侵入……そして、応接室でメイドのイゾールダを消したが誰にも気付かれず、自室を確保することができた」
………………。
「二日目、何らかの行動に移したいが側にずっといるメイドのミーアが邪魔だったので自室で消す。そして、同じ日の夕方から夜にかけて能力で北地区に跳び、村人全員をこれもまた未発見の闇属性攻撃魔法で消す。三日目、朝から行動に移そうとしたときに偶然、シーツ交換に来たアリーナに見られてしまい彼女を自室で消す。何か見られちゃマズイものでもあったのかも知れませんわね」
「ふむ……」
「そして、シーツ交換のための滑車が、自室前に置いたままだと不審に思われるため、メイドに扮し王城内の2階客室まで貨車を持っていき、シーツ交換に来たと言い各客室に入り、休んでいる貴族たちをそれぞれの客室で消していく。最後に汚れたシーツも置いたままだと、これもまた不審に思われるため洗い場に持って行き、そこでアリーナと同じ係のカーラに見つかったので消した。その際にカーラに抵抗でもされたのでしょう、リア本人も気を失い倒れてしまう……といった具合ですわね。見つかっても消せばいいと思って行動すれば少々、大胆な行動もできますわね」
「……おいおい、マジかよ」
「目的がわからんことにはその話を真に受けることはできんが……警戒はしておくべきかもな」
「いや、あと一つ抜けている。北西地区だが、セラフィマの話に付け足すと昨晩、リアは目を覚まし能力で北西地区に向かい、村人を消した。あの歌声もリアの可能性はあるかもな」
マズい……この場の3人が全員リアを疑っている。
いや、私も同じか……セラフィマの話は荒削りだが、これがもしも本当なら……リアは……敵ってことになる。
「だが、俺は洗い場でリアが気を失ったことがひっかかりますね。能力者で大魔道士でもあるのなら、誰かに襲われても軽く反撃できるはずだ。それに、あの洗い場にあった黒い水や黒い炎はどう説明するつもりだ?」
「そうですわね……まだまだ考察してみる必要がありそうですわ」
コンスタンだけはまだリアを完全に疑っていないのか?
疑ってはいるが、不明な部分を明らかにしないと満足できないだけかもしれない。
彼の性格上、有り得そうなことだ。
「レベッカ、今からメイドをリアの客室に一切近付かさせん。これ以上、被害者は出したくないからだ。彼女には悪いが客室にて軟禁させてもらう。そばにはお前が……いや、それだけは足らんか? 客室前の廊下に三名の騎士も付ける。いいか、何かあったらすぐに声を出して廊下にいる騎士に伝えろ」
団長は完全にリアを疑ってしまっている……仕方があるまい。
リアのそばで何も害がないことを証明すれば、リアへの疑いも晴れるはずだ。
「そのご命令、謹んでお受けします」





