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俺、神様になります  作者: 昼神誠
闇に堕ちた歌姫
244/592

この闇はどこかおかしい9

「ん……んん……」


「おはようございます。リア様、朝食をお持ちしましたよ」


 あら……ここは……眼の前にいるのはメイド?

 そうだ、女騎士に助けられて……名前は……レベッカ、そうだレベッカだ。

 ここは彼女に連れてこられた王城よね?

 こんなふかふかのベッドで寝られたのはいつくらいだろう?


「昨日は凄まじい吹雪でしたけれど、今日は一転してとてもいい天気ですよ。ほら、セントホルン山もあんなに綺麗に見えます」


 窓から見える風景は壮大だった。

 ヨーロッパの原風景といえば良いのだろうか、本当にとても綺麗な所だ。

 

「あとでお散歩してきてはいかがですか? この様子ですと天候の急な変化はなさそうですので」


 メイドが私に話しかけながら、朝食をテーブルに置いてくれる。

 パンとスープとサラダ……ありふれた中身の朝食ね。

 ゆっくりと口にやり、パンを食べる。

 美味しい……ありふれた朝食なのに、どうしてこんなに美味しく感じられるの?

 

「はい、お紅茶も淹れましたよ」


 ここの人たちはどうしてこんなに優しいのだろう。

 優しすぎて、胸からなんとも言えない感情が溢れてくる。


「うっ……ううう……うわぁぁん!」


「いかがしましたか? ど……どこか至らない点がございましたか?」


 涙が止まらない……こんなに泣いたのはいつくらいだろう。


「どうした!?」


「レ、レベッカ様……その、リア様が急に泣き出してしまって」


「うわぁぁぁ!」

 

 ギュッ


 レベッカが私の隣に来て、優しく抱き寄せる。


「大丈夫ですよ、リア。ここは安全です。心の傷が癒えるまで私が守ってみせますから、ほら泣き止んで」


「う……うう……」


 レベッカが私を守ってくれる?

 ずっと、守ってくれる?

 ……彼女の優しさで心が落ち着いてくる。


「泣き止んだようですね。私はこれから村の巡回がありますので、また夕方に会いに来ますよ」


「レベッカ様、お気をつけていってらっしゃいませ」


「ミーア、今日は一日リアの面倒を見てあげてください。メイド長にはすでに話を通してありますから」


「はい、伺っております。お任せください」


 そう言って、レベッカは部屋を出ていった。

 朝食を食べ終わった後はメイドのミーアに連れられ、王城内の中庭で少し日向ぼっこを楽しんだ。

 直射日光はあまりお肌に良くないのだけれど、たまにはいいかな。

 日焼け止めはどこかに無くしてしまったし。

 

「それにしてもセントホルン山が見えるほどの快晴なんて、気分まで晴れやかになりますね」


 セントホルン山?

 ここから見える他の山に囲まれて、ずっと遠くに見える一際目立つあの山かな。

 確かにここからでもかなりの標高だということは伝わってくる。

 

「リア様、知っていますか? セントホルン山には氷の精がいるんです。スノーティアに古くから伝わるおとぎ話にはよく出てくるのですが、三年ほど前から実際に見たって言う村の人たちがちらほらと出てきまして、今この国じゃ一番の話題なんですよ。私も一度でいいから見てみたいなぁ」


 氷の精?

 あの高さだ、頂上付近は一年中解けない氷に覆われているのだろう。

 でも、氷の精ってファンタジーな世界よね?

 ……そう言えば、この世界はファンタジーだったわ。

 どうして忘れていたのかしら。


「あっはっは、そちも氷の精の虜になったか?」


「こ、これは陛下。お恥ずかしいところをお聞かせしてしまいました……」


「構わぬ。予も一度見てみたいものじゃ。……して、この娘子か。ほう、美しい」


 誰なの?

 やけに偉そうな態度の、このヒゲモジャのおじさんは。

 ミーアが頭を下げているし、高貴な立場の人なのだろう。

 

「リア様、この方がこのユーグラシア王国を治めるアウグスティン・ゾルニオッティ陛下です」


「ははは、そう畏まらなくてよいよい。リア……だったかね? 勇者の元から逃げて来られただけでも幸いじゃ。ここでじっくり療養すると良い。同じ境遇の者が療養中じゃ」


 偉そうな人を前にするとどうしてか身構えてしまう。


「ダーリン、偉そうな態度をしているのは悪いことを考えているからよ」


「ええ、そうです。この人がいる限り、レベッカさんたちは人質にされているも同然です」


 ユーナとニーニャもこの王様に危険を感じているようね。

 レベッカやミーアが危ない、早く助けてあげないときっと酷い目に遭わされる。


「むむ? 小声で何をつぶやいておるのじゃ?」


「陛下、リア様は……」


「おお、そうじゃったな。しっかりと休むがよい」


「陛下、リア様に変わってお礼申し上げます」


 私はミーアと共に中庭から離れ、自室に戻る。

 

「ダーリン、ミーアは今すぐに助けてあげようよ」


「そうです、あの王様は絶対に悪いことを企んでいますよ」


「あっしも賛成なわけぇ」


 助ける?

 そうだ……あの偉そうな目……ミーアは今夜にでも酷い目に遭わされるんだ。

 

 ギュッ


 ミーアの背後から抱きしめる。


「リア様、どうかしましたか?」


「助け……助けて……」


 彼女を抱きしめる手をミーアが掴んでくれる。

 

「リア様、大丈夫ですよ。この国は平和です。陛下も領民を大切にしてくれるお方ですし、騎士の皆様も屈強な方ばかりです。勇者軍だって何年もこの国には手を出していませんよ」


「……助けて……あげ……る。メルトダークネス」


「えっ? 助ける……あうっ!」


 ドロッ……トプン


 ミーアは闇に包まれ黒い液体となる。

 その液体が私の足元の影に消えてしまった。

 やった、ミーアは助けられたわ。

 今は一つになって、ものすごく喜んでくれている。

 レベッカも早く助けてあげないと。

 いや、レベッカだけじゃないわね。

 あの王に利用されているこの国の人たち、みんな助けてあげるんだ。

 助けて……一つになるんだ。

 ……あれ、急に眠気が?

 ミーアを救えて安心できたからかな?

 その後、激しい睡魔に襲われ眠ってしまった。

 ………………。


 コンコン……

 バタン


 扉を開ける音に目が覚めた。

 レベッカが夕食を持って部屋に入ってくる。

 何かあったのかな?


「ミーア、何をしている? 夕食の用意も取りに来ていないで……あら? ミーアはどこに行った? リア、ミーアはどこに行ったかわかりますか?」


 ミーアは私の中にいるわよ。

 レベッカにも教えてあげなくちゃ。


「助けてあげ……えっ?」


 レベッカが私の頭を撫でながら話す。


「私が助けますよ、大丈夫です。何があってもリアは助けてあげます。安心してください……それにしてもミーアはどこに? 夕食も少し冷めてしまいましたが、リア持ってきたので、残さずに食べてくださいね。また、後で取りに来ますから」


 レベッカに伝えようとしたのに、助けてって言葉に反応してしまったのかな?

 窓の外を見るといつの間にか夜になっていた。

 なんだか、最近よく眠れる……疲れているのかしら?

 レベッカが用意した夕食を食べた後、またベッドで横になる。

 ……さっき寝たばかりで眠れないわね。

 でも、他にすることがないし。

 う――ん、暇ね。


「ダーリン、暇なら村でミニライブをしに行きましょうよ」


「そうですね、仕事も大事ですし。そうしましょう」


「あっしも賛成なわけぇ」


 ユーナにニーニャ、ルーシィ。

 今までどこに行ってたのよ?

 でも、仕事か……そうね、アイドルだってことをこの国の人たちに教えてあげないと私の歌を気に入ってもらえないしね。

 

「うん、行きましょう」


 ヒュン


 スノーティアはいくつかの小さな村の総称だ。

 ここは王城から最も近い村にあたる。

 近いといっても馬でも30分ほどはかかるみたいだけれど。


 ビュゥゥゥ


 夜風が強くなってきている。

 あまりもたもたしていると雪も降り出して吹雪になるかもしれないわね。

 

「夜は寒いし、この前みたいにみんなには家の中から見てもらいましょ」


「そうですね、家の中にいても皆さんが応援してくれる熱い気持ちは伝わりましたし」


 う――ん、それってライブでもなんでも無いような。

 でも、別に構わないか。

 歌声だけでも届けられるだけで今は十分だ。

 

「それじゃ、ニーニャ。音楽をかけて」


「ダーリン、頑張るわよ!」


「そっちこそ、失敗しないでね。ユーナ」


 冬に似合う曲……恋人同士の切ない気持ちを表したバラードだ。

 曲名は何だったかな……。


「なんだ?」


「歌声?」


「外に誰かいるわ」


「こんな夜に歌など歌いおって……モンスターがやって来たらどうするつもりじゃ」


「ママ――、綺麗な歌ね――」


「あんな薄着であの娘、風邪引くわよ」


「どこの子? 村にいたかしら?」

 

 まだだ、まだ声援が聞こえない。

 もっと、頑張らないと。


 ズ……ズズ……ズズズ……


「ええい、いつまで歌い続けるつもりじゃ。一言、文句を言ってや……」


「あら、ルル――? どこに行ったのかしら?」


「ひっ、何だこれ? 足が暗い何かに……うわぁ!」


「うわぁぁぁ!」


「ひぃぃ!」


「誰か! 誰か助け……」


 ステージの上ではないけれど、みんなが応援してくれる声がやっと聞こえ始めた。

 この感覚よ、この感覚!

 観客と一つになっていく快感……あはっ、最高だわ!

 歌い終わると村は静寂に包まれている。

 みんな、感動して一言も出ないのね。

 大丈夫、みんなと一つになった感覚はまだ残っているわ。


「みんな、喜んでくれてよかったわね」


「今回も大成功でしたね」


「当たり前じゃない。私は結城ダリア! スーパーアイドルなんだから」


「そろそろ、部屋に戻るわけぇ」


 そうね、雪がちらついてきたし部屋に戻ろうかな。


 ヒュン

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