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俺、神様になります  作者: 昼神誠
闇に堕ちた歌姫
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この闇はどこかおかしい7

「た……すけ……」


 ドプン


 ああ、この観客と一つになった快感……本当にアイドルをやっていてよかった。

 こんな吹雪の中だから、みんなは家の中から出てこなかったけれど、私の歌で幸せな気分になってくれたことはわかる。

 だって、こんなに歓声が聞こえるもの。

 もっと、他の町にも行って私の歌を届けなきゃ。


「大成功ですね、ダリアさん」


「今日もやったわね、ダーリン!」


「ええ、ユーナもすごく上達したわよね。ニーニャもありがとう」


「ニーニャん、次はどの町で仕事なの?」


「そうですね……スノーティアはいくつかの小さな村の総称ですから、他の村も全部回ってみませんか?」


 全部か……この吹雪の中、みんな退屈していそうだから良いかもね。

 私は歌を届けられれば、それで十分だし。

 

「それじゃ、跳ぶわよ」


「うん、お願い。ダーリン」


 ヒュン


『むむぅ……闇の力は我が娘の中に入ったため扱えるようになったのはわかるが……他者を取り込むなど我でもできぬぞ? あの力は一体? 神々に対する復讐のために娘の心に入ったは良いが、我が心の修復で他に手を回せんとはな……』


『くすくす……』


 ビュゥゥゥゥ


 吹雪がさらに強くなってきた。

 風の音になんて負けていられるものですか、私たちも想いを込めてみんなの心に響く歌を歌ってやるわ。


「グワァァァ!」


「い、いやぁぁぁ!」


「お父ちゃん!」


 村の中から悲鳴?

 それに獣の足跡……?

 悲鳴のする方向に行ってみる。

 

「グガァァァ!」


「誰か! 誰か、あの人を助けて!」


 氷のトラ?

 アイスタイガーっていうモンスターか。

 冬だし食べ物を求めて、村の中に入ってきた……そんなところか。

 

「娘さん、危険じゃ。こっち、こっちへ来るのじゃ」


 一軒の家の横を通り過ぎようとしたら、固く閉じた窓を少し開け、お爺さんが声をかけてきた。

 他にも村人がいる。

 同じ村の仲間でしょ……どうして助けてあげないのだろう。

 よくよく見ると、辺りの家も固く窓や扉を閉じられている。

 そうか、あの家はたまたま扉を開けたときに襲われた……そんなところだろう。

 でも、これだけの村人が一斉にかかればアイスタイガーくらいなら倒せるはずではないのかな?


「娘さん、あの家の人たちはもう手遅れじゃ。こっちへ来なさい」


「……んで?」


「は? ……すまぬ、よく聞こえなんだ」


「なんで、助けてあげないの?」


「相手はアイスタイガーじゃ。この吹雪では奴は強化され強さが夏季の数倍以上になっておる。村人全員でかかっても、助けるなんて無理なのじゃ。勝てもしないのに自分たちより強い者に挑むのは愚か者のすることじゃ」


 勝てもしないのに強い者に挑むのは愚かなこと?

 それって、神に手を出した私たちは愚か者ってこと?

 違う……私だってね!

 私だって、好きで神を相手にしたんじゃないわよ!

 神を相手にしたせいで欽治君や愛輝は……。

 このお爺さんを見ているとすごく腹が立ってくる。

 早く歌ってこの村から去ってしまおう。

 そう思ったときだった。


「ハッ!」


「グガァァァ!」


 一人の女騎士が馬に乗って駆け現れ、アイスタイガーを手に持っていた大剣でいとも簡単に倒してしまう。


「大丈夫か!?」


「あ……あああ! 助かりました、騎士様!」


「他の者は……くっ……すまない……民を守るべき騎士が吹雪のせいで巡回に

手間取ってしまって」


「いいえ、助けに来てくれただけで十分です! 本当に助かりました」


「うわぁぁぁん、お父ちゃぁぁぁん!」


 助けに来たの?

 あの騎士は強い……。


「この者も供養をしてやらねばな。お主の夫か?」


「はい……私と娘をかばって……う、うわぁぁ……」


 他の村民も家から出てきて、騎士と一緒に供養をする。

 私はそれをただ呆然と見ている。


「あんなに強い人がいるのね」


「ええ、あの人に私たちも助けて貰えれば……」


 パリ……パリパリ……


『ぬぅ、娘の心にまた亀裂が? 何も起こっておらぬはずじゃぞ?』


 ……あの騎士はどうして私たちがピンチのときに助けてくれなかったの?

 どうして、私たちだけ見殺しにされたの?

 どうして、どうして、どうして、どうして……。


「騎士様、あそこにおる娘さんなのですが……」


「ふむ、あのような薄着で何をしておるのだ? この寒さだぞ、凍死してしまう。村の者では無いのだな?」


「は、はい。何かずっと独り言を言って、不気味なのですが……」


「勇者の一味から逃れてきた者だろうか? よほど、恐ろしい目に遭ったのだろう。わかった、私が保護する」


 騎士が私のほうにやってくる。

 助けてくれるの?

 今さら?


「お嬢さん、いかがしましたか? 私はユーグラシア王国の対勇者部隊に属するレベッカ・オーケルクヴィストと言う者です。この寒さの中、そのようなお姿で……私のコートをどうぞ」


 バサッ


 騎士が私の肩にコートを羽織る。

 ……今さら……助けてくれるの?


「お嬢さん少々、時間がかかりますが王城まで来ていただけますか? 貴女のことを保護したいので」


「ダーリン、お言葉に甘えましょ。美味しいものがいっぱい食べれるかも」


「そうですね、この村でのライブは後にして、先にお言葉に甘えましょう。ダリアさん」


「あっしも賛成なわけぇ」


 みんながそう言うのなら……対勇者部隊っていうのも気になるし。

 黙って騎士が跨る馬の上に乗る。

 

「落ちないようにしっかり掴まっててください……ハッ!」


 騎士の背中を借り、落ちないように気を付ける。

 この人……震えている?

 私にコートを着させて、自分は薄着になってしまったからよね?

 この人なら……この人なら……助けてくれるのかな?

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