この闇はどこかおかしい4
ここがカジノ?
スロットやルーレットだけではなく、土人形がディーラーをしてブラックジャックやポーカーなど、地球で見たような風景が目に入る。
「さぁ! 次はいったいどうなるのか! 最新式土人形の人生ゲーム! 現在の最低賭け金は7倍から! まもなく開館いたします。皆様、お気軽に当館4階へお越しください」
アナウンスが流れる。
人生ゲームって、まさかお正月に定番のアレじゃないわよね?
「最新式土人形? なにそれ、美味しそう。ダーリン行ってみましょ?」
美味しい?
ああ、勝てたらがっぽり稼げそうよね。
ユーナが行きたがっているから行ってみよう。
4階へ行くと、巨大スクリーンに映像が映っており、部屋は暗い。
神族の客たちはみんな椅子に座って、そのスクリーンを見ている。
映画館……じゃないのよね?
近くの神たちが集まって会話をしている。
「このゲーム、最高に楽しいわ」
「ああ、我々は見ているだけでハラハラできて良いね!」
「まさか、あんなことで1減るとか有りかよ――」
「うふふ、あれは確かに酷かったわね」
おそらくゲームの話をしているのだろうけれど、どんな遊びなのだろう?
ステージ上に一人の神が姿を現す。
どこかで見たような……。
ムカッ
……何、この感じ?
あの女神を見ると胸の奥から黒い感情が溢れ出てくる。
忘れていた憎しみの感情?
「おお、ヒメ様がステージ上に立ったぞ」
「今日はどこまで見せていただけるのかしら」
コンコン
マイクを数回叩き、全員の注意を自分に向ける女神。
そうだ……あいつは……憎い私の天敵!
「皆様、お待たせいたしました。初めての方々もいると思いますので少し説明を。我々、偉大なる神に歯向かいアスガルドの神、ディーテに傷をつけた反逆者たち二名はブレスによって身体は消滅しました。そして、ヘルヘイムに送られてきた二名の魂を使い、私、ヘルヘイムの王であるヒメ・ロックハートは最新式土人形で蘇らせました。なぜ、そのようなことをしたのか……問いたい神も多いでしょう。答えは簡単です。その二人はディーテによって、苦痛の神罰が与えられることなく一瞬で消滅したからです」
ディー……テ……?
そうだ、こんな目にあったのもすべての始まりは……。
……うっ……ぐっ……。
痛い……頭が……胸が……。
『娘よ、無理に思い出すでない。ここでお主の正体がバレると厄介じゃぞ』
「ゲームの内容は至って簡単です。賭けることのできる内容は二つ。まず、一つ目はこの最新式土人形には残機設定というものを施しました。彼らの動向をスクリーンにて確認していただき、どのタイムングで一つ失うか賭けていただきます。二つ目は残機数が0になった後の死亡、つまり彼らがこの世界で何歳まで生きていられるのか賭けていただくことができます。それでは、心行くまで楽しんでください」
『悪趣味な奴じゃ。土龍神の使いも地に堕ちたものよのぉ』
寿命がほぼ無に近い神だからできるゲームってことね。
人間を賭けごとの対象として見るほど腐っているとはね、悪趣味の域を通り越している。
暇を持て余した神々の遊びって、そんなところね。
あれ……このセリフ、どこかで聞いたことがあるような?
ザッ、ザ――ザ――
ステージからヒメが去り、スピーカーから別の者の声が聞こえる。
「さぁて! 前回は非常にくだらないことで連続して残機数を失った大海の魔女の息子リュージ! これはまさかの大番狂わせ! リュージの残機数はこれで0! 彼に対するクレームが非常に多い! これは死んだ後、どうなるのか!? 楽しみだ! 残機数があるのはリュージの弟として設定された異世界人、欽治! さぁ、彼は次にいつ残機を失うのか!? 期待している神も多いはずだ!」
欽治……?
それにリュージ?
……そうだった、彼らを生き返らせなきゃ。
でも、欽治君は幼い頃の姿だけれど……もう一人のあの子はリュージなの?
髪の色も茶色いし、まるで別人だ。
「ダーリン、欽治だって! あんな子どもの姿になって、かわいそう。貴女の後輩なんだから救ってあげないと! ね、ダーリン」
そうだ、助けてあげないと。
私の……後輩の欽治君。
もう一人は知らないから放っておこう。
ユーナもリュージだと思っていないみたいだし。
「おおっと! 彼らの次なる戦場は勇者が統率するアルス大陸軍のダイダラ要塞だぁ! ここでリュージは死ぬのか! 欽治は残機を失うのか、楽しみで仕方がない!」
数時間ほどスクリーンを見ていたが、変化が大して無く退屈になってきた。
茶髪の子が会議で顔を真っ青にしているのはクスッとしたけれどね。
時間が無限に近い神にとっては数日眺めているくらいでは退屈ではないようだ。
時間の感覚が人間とは違うのなら当然なのかも。
「ユーナ、退屈になってきたわ。別のところに行きましょ」
「後で欽治のところにも行ってね。次は何か食べましょ」
欽治君はグランディール大陸でしょ?
どうやって行けば良いのかな?
私も少しお腹が空いてきたし、何か食べるのが先決ね。
ユーナと手を繋いで別の場所に行く。
小さな個室が並ぶ……カラオケ?
それぞれの部屋で神族が楽しそうに歌を歌っているのかな?
「あ、ここ! ダーリン、ここで食べましょ」
カラオケしながら?
まぁ、いいけれど。
あれ、声は聞こえるのにどの部屋も空っぽだ。
ソファーの上に料理が置いている。
どうしてテーブルに置かないのかしら?
適当に個室に入ってみたが、この部屋にも座る場所にパスタやピザが置いてある。
「ダーリン、食べましょ」
「え? これって他の人……じゃなかった神が注文した料理じゃないの?」
「大丈夫よ。どこの部屋も料理が置いているだけで誰もいなかったでしょ。きっと、お店のサービスなのよ」
そうなのかなぁ。
でも、確かに誰も食べなかったらもったいないわね。
ピザの一切れを取り……ん、硬い。
切り目があるのに、なかなか取れない。
力を入れてなんとか切り取り、口に入れる。
モグモグモグモグ
ちょっと口の中がピリピリする。
なにこれ?
新しい食感だ。
美味しい!
「ダーリン、美味しいね」
「うん、このピザ変わった食感でとてもピザに思えないわ」
バァン
個室の扉が勝手に開き、お皿が宙に浮き部屋から出ていく。
あら、まだ食べている途中なのに。
ティラミスはまだ出ていかないで。
ギュッ
フォークで突き刺し……これも硬い。
力を入れて、えいっ!
モグモグモグモグ
ひんやりしておいしい。
「な、何をしている!? 貴様!」
誰?
警備服姿の土人形が三体?
やっぱり、勝手に食べてはダメだったの?
「ひっ捕らえろ!」
ダァン
頭を強く警棒で叩かれ、気を失う。
『う――む、このままではいかんのぉ……まさか、生きている者まで喰らい始めるとは……』
黒い玉がまた何か言っている。
あ……痛たた。
あの土人形、急に殴らなくてもいいのに。
グニュ
あれ、手になにか持っている。
フォーク?
真っ黒でどんな素材かよくわからないけど、形はフォークだ。
さっき、ティラミスを食べたときに使ったもの?
刺さっているものは……何よ……これ。
腕だ……千切れた腕。
食べたような痕跡が残って、手の部分は完全に無くなっている。
『気にしてはダメじゃ! 娘よ、心を安静に保て!』
自分の服を見ると血がべったりとついている。
え……、口の中に硬い何かが引っかかっている感じがするので取り出してみる。
これって……爪?
指の先っぽ?
……私が食べたのは何?
ピザとティラミスだけのはず……。
違う、口の中が血生臭い。
これって……。
パキッパキパキパキ
『いかん! 心が崩壊し始めた!』
「い……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」





