この奇跡はどこかおかしい2
ローウェルグリン城の弱点は、緊急時に王族がよく使うような隠し通路などが存在していないことだ。
この大陸の住人が謀反を起こすという考えそのものが存在しないのか、もしものときと言うべき備えがまるでない。
あのゴブリンたちを見ていても、命令をしなければずっと休まないくらいだからな。
「おいっ、豚野郎! 雪はどこだ!?」
倒れている番兵オークを無理矢理起こし、居場所を聞き出す雪。
「せ……セツ様……ユキ様は謁見の間の奥の私室に……身を隠して……」
「あそこか! あんな逃げる通路も無い場所にいるって真性のバカか、あいつは!」
勇者軍がローウェルグリン城の内部にまで入り込んでしまっている。
上空からパラシュート降下されているし、城の上層階ほど危険だよな?
ならず者は雪の能力で無力化どころか味方に率いることはできるが、問題は黒子だ。
ならず者ほど数は多くないが正直な話、ならず者を一騎当千できるほど強敵だ。
佐能さんのクローンなら当然なのだろうけれど、仲間に取り込むことさえできれば良いのだが。
「邪魔……」
ドシュ
ザンッ!
「ぐぎゃぁぁぁ!」
「セツ様のために死ねて……最高だ……ぜ……」
「あぶし!」
謁見の間に続く廊下まで着いたが、肉壁になって俺たちを守ってくれるならず者はほとんどが黒子の集団に全滅させられた。
まぁ、上空から降って来るからすぐに補充できるのだが……。
ならず者たちに早く降りて来いって感じてしまうのは雪に頼りすぎているよな。
「くっ! ここは僕に任せて、雪とドレイク君は雪を助けに行ってあげて!」
「姉ちゃんも一緒にだよ! その数を一人じゃ無理だって!」
「そうですよ、佐能さん! 危険すぎます!」
佐能さんと引き離されて窮地に陥ることだけは勘弁だ。
何としても、側にいてもらわないと。
「おい、ドレイク! お前がここを死守しろ! いいな!? これは命令だ!」
へっ!?
いやいやいや……無理だって!
黒子が最低でも十人……俺が千人いたって勝てるわけなんて無いって!
「無理です!」
「ああっ!? てめぇ、命令が聞けねぇのか! だったら、無理にでも……」
「待って、雪! それなら……どぉぉぉりゃぁぁぁ!」
バゴォォォン!
ドゴゴゴゴ
佐能さんが天井を崩し廊下を塞いだ。
これでもほんの数分しか持たないだろうが、雪のもとまで行くには何とかなるか?
「ドレイク、何をボケっとしている! 姉ちゃんが作ってくれた時間だ! 感謝しながら進みやがれ!」
「は、はい!」
謁見の間に入り、玉座の奥にある細い廊下を進む。
コンコン
「ど、どちら様ですか?」
「あたいだ! 姉ちゃんもいる! さっさと開けろ!」
「雪様! あぁ、ご無事で!」
マムもここにいたのか。
数人のメイドとパティに雪もいる。
ここ以外のメイドはもう……くそっ!
勇者軍め、絶対に許さんぞ!
「お姉ちゃん!」
「雪、心配させてゴメンね。さぁ、早くここから逃げよう」
「でも、どうやって!?」
「そもそも、てめぇがこんな場所で身を潜めるからだろ!」
「だって! 他に思い当たるところが無かったもん!」
「まぁまぁ、喧嘩はやめて。僕が先に行くから、付かず離れず付いて来て」
「姉ちゃん、行く当ては?」
「姫様、今こそ魔王軍に救援を求めるべきでは無いでしょうか?」
「ルサールカのところね、ドレイクどう思う?」
ルサールカの駐屯地か?
あの駐屯地は魔王軍の最前線基地だ。
彼女のいるのはさらに南方にある領地だったはず。
「ルサールカ殿に救援を求めるにしても、まずはお身体を休ませる場所を確保するのが優先です。姫様、先にグリーナ砦を目指しませんか? そこで魔王軍と合流するのはいかがでしょう?」
雪なら俺の意見を受け入れてくれるだろう。
「すぐに……とはいかないのよね……わかったわ。ドレイクの言う通り南門から出てグリーナ砦を目指すわ、お姉ちゃん」
「僕は雪の言うことなら何でも信じるよ」
雪が反論してこないな。
こんな状況だからか、いちおうはわきまえているのか?
しかし、あの空中戦艦があまりにも驚異的過ぎる。
俺たちの向かう先も上空からなら、すぐに見当が付くだろうし、先回りしてグリーナ砦も消滅させられるなんてことも考えられるか?
二手にわかれる方法も無くは無いけど、戦えない者たちが多すぎる。
最悪、雪とマムも戦力に加えたとして五名だ。
戦力をわけるとなると片方は二名、もう片方は三名になるが……ダメだ、俺の危険が大きすぎる。
このわけかたなら、俺とマムが二名のほうになってしまうのは目に見えているし。
「それじゃ、僕が先に出るよ。あまり近くにいると巻き込まるかもしれないことを注意してね」
佐能さんが扉を開け、謁見の間に戻る。
5メートルほど間隔をあけ、俺たちも後に続く。
誰も襲ってこないな。
まだ、崩落させた天井を除去できていないのか?
佐能さんが続いて、謁見の間の扉を開ける。
ドゴォォォン!
ひぇぇぇ、待ち伏せされていた!?
しかも、いきなり太刀を投げつけてきた。
距離を開けていたおかげで俺たちに被害は無い。
ヒュッ
佐能さんは寸前でかわしたようだ。
さすがだな。
「ターゲット発見」
「こちらも確認した」
「「私も確認した」」
結局、この廊下で戦闘になりそうだな。
人っ子一人、逃さないように黒子共も固まって廊下を塞いでいる。
「みんなはここから動かないで」
「佐能さん、魔法で援護します」
「私も手伝いましょう」
「へっ、あたいの能力が効かないってどんな対策したんだよ? あいつら」
寄生虫が腹の中にいるって言えないよなぁ。
この廊下も卵の胞子が舞っていたらおしまいだな。
パティがせめて赤子でなければ、除去してくれそうなものだが。
気持ちよさそうにメイドに抱っこされて寝ていやがる。
べ、別に羨ましくなんて無いからな!
「よし……それじゃ、行くよ!」
「「はい!」」
佐能さんが黒子に向かって動いたときだった。
「チェックメイト」
ドスッ!
「なっ!? ……がふっ!」
「雪!!!」
「雪様!!!」
天井で気配を消して、もう一体の黒子が潜んでいた!?
後ろを振り向いたときには、雪の心臓に太刀が突き刺さっていた。
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