この戦争はどこかおかしい3
欽治を追いかけて北門から外に出る。
幸いなのは欽治が北の方角へ進んでいるということだ。
合流後、そのまま勇者軍の駐屯地に向かえばいいだけだからな。
「そうだ、プログラム聞いていいか?」
『何でしょう』
「魂を接取って言うが、実際に数はどれくらい必要なんだ?」
『できれば毎日、10程度の摂取を推奨します』
「魂であれば何でも良いんだよな?」
『否定。小動物や昆虫・植物は例外となりカウントされません』
昆虫や植物ならそこら辺にあるからな。
それはまぁ理解できるが……小動物も無理となるとかなり限られてくるな。
狩りをしてウサギやネズミの命を貰うくらいなら城の近くでも何とかなるし、それに殺したあとの肉は食べ物として後で美味しくいただけるしな。
それか小動物で良いなら城を隅々まで探し、ドブネズミなどを駆除して衛生管理も良くなって一石二鳥だろうと思ったのだが、そんなにおいしい話はないか。
……ま、とりあえずは目先のことを何とかしないとな。
おっ、向こうに見えるのは欽治か?
「お――い、欽治!」
「あっ、お兄ちゃんだ!」
「何や、あんたも来たんか?」
「はぁはぁ、欽治……ちょっとついて来てくれ」
「どこ行くの――?」
欽治の手を握り、プログラムが示す地点に向かう。
日も暮れ始め薄暗くなってきている。
街灯なんて当然だがこんな荒野には無いし、夜になると真っ暗なんだよな。
帰りが気になるけれど、今は魂の摂取が優先だ。
「兄ちゃん、何するの――?」
「欽治、良いか? 何も言わずこの仮面を被れ」
「何や? 何するんや?」
「母さんには後で説明する。今は時間が無いんだ」
「兄ちゃん、被った――格好いいね、これ」
「気に入ってくれて嬉しいよ」
しかし、被ったのに何も起きない?
仮面を装着したらスペクター化して暴れるはずではないのか?
「なぁ、プログラム。どうなってるんだ?」
『何がでしょう?』
「欽治だよ。仮面を被っても何も変化が無いぞ」
『当然です。仮面は狩った者の魂を吸収するための道具でしかありません』
「マジかよ……スペクター化は解放できないのか?」
『故意に解放させるのは不可能です』
欽治が暴れまわってくれるのが一番手っ取り早いと思ったのだが仕方ないか。
しかし、これからならず者とはいっても人を殺すことになるわけだし、欽治が躊躇してしまわないかが気になるよな。
相手をモンスターと思わせて一気に殺ってしまうか?
「欽治、今から向こうに見えるテントにいる奴らを狩るぞ」
「狩りをするの?」
「そうだ、相手は凶暴なモンスターだ。母さんをしっかりと守りながら狩るんだぞ」
「モンスター狩り!? やったぁ! 何て名前のモンスターなの、兄ちゃん!」
「な、名前か? 確か……ナラーズモーンだ! 人語を話すから油断するなよ」
「ナラーズモーン!? 人語!? 凄い!」
「そんな名前のモンスター聞いたこと無いで」
当たり前だ。
相手はならず者の人間なんだし、欽治がやる気を出せばそれで良いんだよ。
「欽治、武器を作っておけよ」
「うん! 深淵を住み処とする金剛の粒子よ、汝が剣、我に与えよ……八重の太刀!」
欽治の戦闘スタイルはマムの指導によって大きく向上した。
筋力や体力に秀でた欽治は魔法が苦手なこともあって、マムが習得させたのは造形魔法のみだ。
さまざまな武器を作り、それを自在に操る能力を優先的に身に付けさせた。
欽治が今、造形したのはダイアモンドの硬度を付与した八重の太刀。
最も扱いが難しい大太刀だ。
欽治……ガチで行く気だな!?
俺も仮面を被り準備を整える。
「欽治、俺が先制攻撃をする。その後、間髪入れず攻撃しろ」
「は――い!」
「あんたら、久しぶりの狩りで嬉しそうやなぁ」
さて、マムに教わった魔法もいろいろあるが、最初の一撃である程度は数を減らしておきたい。
それに増援を呼ばれないようにする必要もある。
「地獄に舞い散る豪炎の精よ、暗き光る悪魔の囁きに応え清き血を洗い流せ……」
この詠唱、悪役っぽくて好きなんだよなぁ。
ま、実際にこれから虐殺するからこっちが悪なんだけどな。
「ブラッディインフェルノ!」
ブォッ!
「な、何だ!」
「ぎゃぁぁ! 火事だ!」
中級魔法では最も範囲の広い火属性の攻撃魔法。
指定した地点の地面から火が噴き出す。
「あっちぃ! 熱い! 誰か助けて! ぎゃぁぁ!」
ならず者の悲鳴が静寂だった草原に響き渡る。
わかっていたことだが、やはり胸が痛むな。
食事だと割り切って考えていたが、相手が悪党だろうとまだ何もしていない奴らを狩るのは辛いな。
「兄ちゃん、行っくよ――!」
欽治が間髪入れず駐屯地に突撃し、次々と切り捨てて行く。
「何だ!? こいつ! 鬼の仮面!?」
仮面のおかげで素性を晒さなくて済むのは助かるよな。
「野郎共! モンスターの襲来だ! 相手は今の所、いっぴ……」
ドシュ
ボトッ
「うわぁぁ! 隊長!」
「こ、こいつ!」
欽治が躊躇わずに切り捨てて行くのは助かった。
相手を見たときに躊躇してしまうかと思ったが、どうやら俺の嘘を信じてこいつらをモンスターだと思ってくれているようだ。
うん、おつむが弱くて本当に助かった。
『リュージ、魂の摂取数十五。欽治、魂の摂取数三十八。リュージ、あと二十は接取して下さい。ターゲット数、残り四十七』
プログラムがカウントをしてくれているが、ここにいる奴らは全滅させないと戦争の火種を生むことになる。
すまないが皆殺しにさせてもらう。
「こいつ、バケモンだ! 撤退! 撤退だ!」
「副隊長! 周りが火の海で囲まれています!」
逃がしはしない。
だが、火傷覚悟で飛び込んで行く奴らもそれなりにいるな。
ま、火傷じゃ済まないんだが。
だが、念には念を入れて。
「空に舞い飛ぶ精霊よ、深淵なる雷雲の咆哮で辺りを喰らい尽くせ……サンダーボルト!」
バチバチバチ!
「ぎゃぁぁ!」
「落雷? 空に雲なんて無いぞ!?」
「副隊長! 雷魔法です! 周りの火の海と属性反応が起きます!」
「くっ! どこのどいつだか知らんが覚えてい……」
バシュ!
チュッ……ドォォォン!
火属性に雷属性を当てると大爆発という属性反応が起きる。
これで一網打尽だ。
欽治も巻き込んでるって?
まぁ、あいつは簡単には死にはしないでしょ。
シュタッ!
「ぶ――! 兄ちゃん、ズル――い!」
ほら、生きていた。
一気に片付けてしまって、少々ご機嫌ななめになってしまったようだ。
『リュージ、魂の摂取数三十七。欽治、魂の摂取数六十三。ターゲット数、零。全滅を確認しました。お疲れさまでした』
何とかモンスター化は抑えられたか。
明日からは日課でモンスター狩りをしないとな。
「よし、欽治。お城に戻ろう」
「ぷ――ん!」
「そう怒るなよ。今日の晩飯のデザート上げるから」
「ほんと?」
「ほんと、ほんと」
「やったぁ! お兄ちゃん、大好き」
「ふぅ、やっと終わったんかいな? うち、お腹空いたわ。はよ、帰るで」
欽治と手を繋ぎ、城に向かって足を運ぶ。





