この戦争はどこかおかしい1
「それでプログラム、話って何だ?」
「私はヒメ様の命令により貴方たちに直接、協力をすることはできません」
「ああ、それは何となくわかっていた」
「ですが、提案を出すことはできます」
「何かあるのか?」
「この辺りの生物に犠牲者が出るのを拒むのであれば、貴方の命を差し出してみてはいかがでしょう」
はぁ?
俺に死ねって言うのか?
冗談じゃない。
そんなの却下だ……って言ってもなぁ、欽治がモンスター化するとさすがに勝てないし、結局やられてしまうことになりそうだ。
「はぁ……自己犠牲なんて嫌いなんだけど何か考えがあってのことなんだよな?」
「肯定」
欽治は村にいるときに巨大ムカデに毒針を刺され、確実に死んだはずなのに生きている。
俺たちが神に作られたのなら、もしかして不死だったりするのかな?
それにあのときプログラムが欽治を第一段階、解放したと言っていた。
特に何か変わった感じは見当たらないが、何度か死ぬと解放が進み強くなったりとか……プログラムは教えてくれないだろうし、俺も第一段階の解放だけは経験しておいたほうが良いかも。
はぁ……けれど、死ぬのはさすがに怖いなぁ。
「……わかった。それじゃ、欽治に仮面を被せるぞ」
「了解。貴方の命を吸収後、強制睡眠モードに移ります」
欽治に鬼の仮面を被せる。
よくよく見ると中二病をくすぐるようなデザインで格好良いんだよな。
ふぅ……大丈夫だ。
俺は死なない。
あのときの欽治を知っているから、少しは安心……できねぇ!
「解放します」
「ちょ、ちょっと待て! 心の準備が……!」
「もう間に合いません」
ぎゃぁぁぁ、殺される!
格好悪いが俺は目を閉じ、欽治に襲われるのを待つ。
目を開けていたら怖いし……いや、今だって最高に怖いけどさ。
「いのちぃぃぃ!」
ドシュ
………………。
何だろう、靄のかかった記憶が鮮明になっていく。
ユーナ……確か、俺の妹だ。
今のあいつはちょうど二十歳か。
あいつにはいろいろと手を焼かされたものだ。
今は元気にやっているのか?
また、何かに巻き込まれていたりしないだろうな?
ナデシコ……そうだ。
勇者城の地下にある研究室、そこであいつに会ったんだ。
まさか、母さん《ミミ》の冒険仲間がこいつだなんて、世界は思ったより狭いよな。
まだ、靄の晴れない記憶もある。
はぁ……死んだのだから、全部思い出させてくれてもいいだろ。
……って、あれ?
目を開けてみる。
「兄ちゃん、起きた――」
「欽……治?」
「どしたの? 兄ちゃん?」
ここは馬車の中か。
ローウェルグリン城が見えてきている。
気を失っていたのは20分くらいか。
俺って欽治に殺されたんだよな?
はは……やっぱり、復活できるじゃないか?
プログラムに聞いてみたいが欽治は起きてるし、また夜にでも聞くとするか。
「帰ったらまたお勉強かなぁ?」
「マムが怖いのか?」
「ううん、でも退屈なんだもん。もっと兄ちゃんやお姉ちゃんたちと遊びたいのに」
欽治はやけにメイドから可愛がられているんだよな。
ちくしょう、羨ましすぎる。
「おう、坊主共! 城に着いたぜ」
「ありがとうございました」
「おじちゃん、ありがと――」
馬車から降り、雪に頼まれた通りに雪がいる謁見の間に足を運ぶ。
雪から馬車の中で聞かされた通りなら、謁見の間にいるのは雪のクローンなんだよな。
二つあった人格の一つが自分専用の身体を得るなんて、どんな気持ちなんだろう?
「おっ、二人とも帰って来たんか?」
「母さん!」
「ママ――!」
「謁見の間で何をしてるの?」
「ふふん、少し手が空いてなぁ。散歩や」
「僕もする――」
欽治は頭の上に母さんを乗せ、廊下に出て行く。
ま、欽治はいなくても良いか。
雪に報告するだけだしな。
しかし、その相手の雪は謁見の間にいないようだ。
守衛のゴブリンに居場所を聞いてみる。
「うん? ユキ様に要件か……少し待っていろ」
謁見の間の奥に行ってしまった。
あそこは確か雪の自室だよな?
今は雪が姫だから別に良いのか。
「ああ!? 今、忙しいんだよ! 待たせておけ!」
「はっ! 失礼しました!」
ゴブリンさんも大変だな。
「す、すまんな。少し待っていてくれ」
「わかりました」
後でまた来るか。
でも、待たせておけって言っていたし……今、自室に戻るとマムがいる可能性も高いよな。
勉強勉強ってうるさいから、ここで待つことにしよう。
うん、そうしよう。
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