この移住はどこかおかしい8
俺たちは魔王軍だと思っていたが、講義を聞くとどうも違うらしい。
五年前に北の大門とかいう人間界と魔界を繋ぐ扉が人間によって強制的に開かれ攻めて来たらしい。
その筆頭が勇者だそうだ。
勇者軍はかなりの手練れ揃いで、魔王軍側は約一年でグランディール大陸の約半分を制圧されたらしい。
ただ、この大陸は人族の住むアルス大陸より広大で、どの地域も完全にカバーするには人員が足りないらしく、レジスタンスによって突発的な紛争は制圧された各地でも起きているらしい。
そして、この城なのだが名前はローウェルグリン城と言って、先代は魔王軍の幹部の支配下だったものが、謎の女剣士の襲撃により幹部が倒され、生き残りのゴブリンやオークが自由に暮らせる楽園となっていたらしい。
どうやら、魔王軍は恐怖や重税によってゴブリンやオークたちを統制しているリーダーが多く、この城が魔王軍によって苦しめられている住人にとって、楽園であると噂で聞いた各地の種族が集まって、小国として独立を果たそうとしている最中でもあるらしい。
謎の女剣士の襲撃ってナデシコのことだよな?
……ということはここを解放したのは母さんとナデシコってことになるのか。
ま、今さらそのことを言っても信じて貰えないだろうし、肝心のナデシコがいないからな。
もちろん、魔王軍はそんなものに納得する訳も無く、何度か攻めて来ていたある日に思いがけぬ救援があった。
ここでは聖女と呼ばれているその女性は当時、まだ幼かった雪を連れここで彼女を匿う代わりに城を守ることを約束したらしい。
その聖女と各地から集まった様々な種族がこの城を中心に、それなりの範囲の領土を確保し、魔王軍の砦をいくつか手中に収め現在に至るらしい。
ん……雪は何なのかって?
どうやら三年ほど前に彼女を隊長とした勇者軍の小隊がやってきて近くの砦で交戦をしたらしい。
そのときに雪と何やらあって仲間になったみたいだ。
謎の魔法持ちで家臣をあっという間に増やし、今やこの国の姫様だ。
そんな訳で少なからず領土を持っているこの国は勇者軍と魔王軍の両軍から狙われる立場であり、北部からは勇者軍、西部や東部・南部からは魔王軍に狙われるといった正に四面楚歌の状態らしい。
四面楚歌と呼ぶほどの窮地なのに、みんな焦った感じをしていないのはなぜなのだろう?
「昨日、セツ様がお戻りになったことで次回の出兵はグリーナ砦での魔王軍との交渉だ。その交渉にはユキ様がご出席なさることが今朝決まった! 貴様らの仕事はその無駄に分厚い肉で姫様の壁となり姫様をお守りすることだ! 分かったな、このミジンコ共!」
「「うぉぉぉ! ユキ様、ラァァァブ!」」
「「ぜってぇ、お守りしやすぜぇ!」」
……何なの、こいつら?
大丈夫なのか?
それよりも訓練兵の俺と欽治も出るのか?
……出ないよな?
「そこの坊主二人もユキ様たってのお願いだ。行ってくれるな?」
ひぃぃ、やっぱりそういうパターンかよ!?
姫様からの直々のお願いなら仕方が無いが……。
欽治がいれば何とかなるだろう。
「ぐ――すぴ――」
……って堂々と寝てるし!





