この移住はどこかおかしい1
俺と欽治は神様によって作られた存在らしい。
ま、作られたって感じはしないし生みの母は神様だと思うことにした。
しかし……神様だぜ。
ある意味、俺たちって選ばれし者なんじゃないのか?
自由に生きろって言うところは放任主義だが、神様なんだもんなぁ。
だったら育ての親のミミの下で子どもの間は魔法を学び、大人になったら世界を見てみるのも良いかもしれない。
「では、他に無いようでしたらサノウキンジの人格を復元します」
「あっ、最後に。あんたと話したいときはどうすればいい?」
「貴方かこの子、どちらかの意識が無いときにお呼びください」
「意識が無いとき……睡眠時でも良いのか?」
「はい」
俺が寝ているときに呼び出せるわけないし……欽治が寝ている時に声をかければ良いのかな?
「分かった。また、何かあったら聞かせて貰うよ」
「では……う、うん? お兄……ちゃん?」
「欽治か? 無事だったか!」
「あれ? 何で僕、砂に埋まってるの?」
欽治に言っても理解されそうにないし、適当に誤魔化した。
それより村のほうが気になる。
欽治を砂から出し、二人で村に戻る。
「母さん!」
「ママ――!」
無残に殺された者も少なくない。
あちらこちらに死体が転がっている。
家は俺たちのも例外無くすべてが火矢で燃え尽きている。
「あんたたち! こっちや、こっち!」
あれは長老の家があったところか。
見事に焼け崩れている。
「母さん、どうかしたの?」
「長老様がまだ中にいるかもしれへんのや」
「分かった、欽治!」
「うん」
欽治が瓦礫をどかし中を調べてみる。
「に……兄ちゃん、これ」
真っ黒に焼け焦げた長老の姿がそこにあった。
真夜中の奇襲だもんな、逃げ遅れた……もしくは気が付かないまま……せめて、後者なら苦しむことなく逝けただろう。
「母さんに知らせよう」
「ぐすっ……長老さまぁ」
母さんの所へ戻り、長老の死を知らせる。
「ほな、生き残ったもんを集めて、これからのことを考えんとな」
意外と落ち着いている。
ちょうど、日が昇り始めてきた。
明るくなってくると悲惨な状況がより明確に伝わって来る。
くそっ、何なんだ?
あいつらは!
人間ってあんなのばっかりじゃ無いんだろうな?
「砂浜にみんなを集めるで。呼びかけに行ってくれへんか?」
「うん」
「ママ……うぇぇ……うわぁぁん!」
「あんたはうちと一緒に行こか」
母さんは欽治の頭の上に乗り、頭を撫でて慰める。
俺は村中を走り回り、生き残りを集めに行く。
みんな、小さいから俺が持ったほうが早いんだよな。
30分ほどで村全部を見て回ることはできたが、生き残りは約100人ほどか。
死者の数と合わせても少ない。
あのパティとかいう女、部下にピグミーを捕まえさせていたし、何人かはさらわれたってことか。
「ありがとな、あんちゃん」
「うぅぅ、父ちゃぁん」
「じぃじ……」
みんな、辛そうだな。
当たり前か。
野生動物に襲われて食べられるのとは違うんだ。
悪意のある奴らによる破壊と殺戮、今までこんな略奪がこの村で起こったことは無かったみたいだし。
いや、そもそも人間が来ることが初めてだもんな。
砂浜にみんなを集めて、欽治の頭に乗った母さんが全員に伝える。
「みんな、こんな事は初めてやけど……ここで足止めしてる暇は無いで!」
「「な、何でや?」」
ざわざわざわざわ……
「うちらを助けてくれたダリア姉ちゃんやナデシコ姉ちゃんと一緒に世界を見て思ったんや……色んな人らがいる。うちらを助けてくれる優しい人らや、さっきみたいな悪党もいるんや……うちらは弱い! ナデシコ姉ちゃんがいつまでも来ないのは、その悪党になにかされたのかもしれへん! せやから、もう待たずに移住するんや。誰かの庇護の下やないと、うちらは安全な営みができへん」
誰かに守ってもらうか……それはピグミーという種族である限り、避けては通れないものかもしれないな。
母さんからよく聞かされていた。
長老が他種族とまったく関わらない生活をはじめて数十年……最近は限界を感じていたようだし。
その最悪なパターンが今回やってきた悪党の襲撃なんだよな。
向こうはそんなピグミーの事情など知りもしないわけだし。
「せやったら、これからどうすんねん?」
「ここは危険や……だから、まずは移住や!」
「あてはあるん? 姉ちゃん……まさか?」
「ふふん、以前ナデシコ姉ちゃんと行ったことがあんねん。こっからずっと北上すると大きな城があるねんで。そこのゴブリンにナデシコ姉ちゃんのことを話すと匿って貰えるはずや」
「おぉ!」
「せやな、次期長老の言う事やし俺は付いていくで!」
えっ?
母さんが次期長老!?
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