この国はどこかおかしい9
犯人捜しも大切だが、ニーニャが石化されたままなのを放っておくわけにはいかない。
ニーニャを元に戻せる方法があるのなら、ヒメが知っているだろう。
「ヒメ、ニーニャの石化は解くことってできるのね?」
「ごめんなさい。石化魔法もいろいろと種類がありまして、どの魔法をかけたかで解呪の方法が変わるんです」
「じゃ、片っ端から試してみてよ」
「それも無理なのです。恐らく、ニーニャさんの身体が耐えられないかと……最悪、崩れてしまうかもしれません」
マジで?
石化させる魔法って、そんなに種類があるものなの?
「ユーナって石化魔法は使えるの?」
「もちろん、無理よ。私も石化魔法なんてものが存在するなんて知らなかったし……」
「石化魔法は大地の神族のみが使用できる魔法です。知らなくてもおかしくはないですよ」
ヒメ……それって、自首しているようなものなのでは?
問い詰めても良いけれど、ここで私たちまで石化されるのだけは、絶対に避けないといけないし、せめてナデシコが近くにいるときに聞いてみるか。
「ニーニャは生きているのよね?」
「ええ、しっかりと内部に命を感じ取ることができます」
「ニーニャん、待っていてね! 絶対に元に戻してあげるから!」
「ヒメ、ニーニャには私たちの声は聞こえているの?」
「はい、しっかりと届いていると思います」
意識があるのに目は見えず、身体はまったく動かせないなんて、私にとっては生き地獄も同然だ。
それはニーニャだって同じだろう。
ニーニャをここに置いたままにするのは可愛そうだけれど、下手に動かして崩れたりしたら大変なのよね。
酷だけれど、ニーニャは置いて行くしか無い。
「今すぐには治せないけれど、魔法の種類がわかれば治せるのよね?」
「はい。魔法の特定に少々、時間がかかりますが……」
時間ね……ま、治せるならいいだろう。
「ニーニャはここに置いておくしか無さそうね。ヒメ、この家ってずっと残せる?」
「はい、雨や風に触れると風化が早まってしまうのでここに置いておくほうが良いですね」
そうか、身体が石だから長い年月をかけて、雨や風に少しずつ身体が削られていくのね……想像しただけで怖い。
何年もそのままにしておくなんて、そんなこと絶対にさせないわ。
「ありがと、それじゃ、ヒメは解析に入ってちょうだい」
「了解しました。何者かの仕業かわかりませんが、必ずニーニャさんは元に戻してみせます」
「そうしてもらわないと困るわ。ユーナ、私はナデシコを呼んでくる」
「わかった。ヒメ、私も手伝うわね」
「ユーナさん……ありがとうございます」
ナデシコは外にいるはずだけれど……どこに行ったのかしら?
あら、リビングの机の上に置き手紙?
読んでみるとナデシコが、ユーナの家に戻り食料や生活必需品をここに持ってくると書いている。
こことユーナの家を跳ぶくらいなら危険は無さそうね。
でも、危険な目に遭うここを拠点にするつもりは毛頭無いの。
ナデシコは私の意識を読んで気付いていないのかしら?
これからはユーナの家を拠点にするから、荷物を増やされる前にナデシコに持ってこなくて良いって伝えに戻るか。
距離が離れていると、私との同期もしっかりと繋がらないみたいだし。
ヒュン
ユーナの家に戻る。
ガタッ
2階で物音が聞こえる。
ナデシコが何かしているのだろう。
石化したニーニャのことも知らせないといけないし、私も2階へと上がる。
「ナデシコ、悪いけれど荷物は増やさ……」
「あ、やっと戻って来た……探知できなくて困っていたから」
え……どういうこと?
「ナデシコ、荷物は増やさなくていいから、早くユーナのもとに戻るわよ」
「ん……何のこと? あたしは昨日はずっとミミの村にいたよ」
昨日はミミの村にいた?
ナデシコ……何を言ってるの?
「何を言ってるのって……ダリアとの繋がりが急に途切れて心配していたのに」
私の思ったことが読まれている。
本物のナデシコだ。
「あんた、昨日戻ってきたじゃない。それで一緒にヘルヘイムに行ったでしょ」
「昨日? ちょっと、ミミの村でいろいろとあって戻って来たのはついさっきだよ? 遅くなったのは謝るけれど……」
ついさっき戻ってきた?
えっ……それじゃ、昨日のナデシコは何?
まさか……!?
「ユーナが心配だわ。跳ぶわよ!」
「ん、やられたみたいだね」
ヒュン
ヒメが建てた質素な民家に跳ぶ。
やけに静かだ。
人の気配がしない。
「ユーナ! ヒメ! どこ!?」
部屋を隅から隅まで調べるが誰もいない。
やられた!
たとえ少しの間でも、ユーナから目を離すのでは無かった!
「ダリア……あそこに人が倒れてる」
人ってユーナ?
ナデシコがいる場所へ向かう。
「ダ……ダリアさ……ん」
「ヒメ!? どうしたの……その傷は? ユーナはどこ?」
刀で差したような傷、偽者のナデシコの仕業か。
あの手紙はこの場にいないって思わせるためのものだったのね?
ヒメが森の奥を指差す。
「森に入ったの?」
「気を……つけて……下さい。あの……ナデ……シコさんは……うっ!」
わかっている。
ここに本物のナデシコがいるもの。
ニーニャを石化したのも偽者の仕業なのだろう。
「ヒメはどうする?」
「ここに置いていたら危ないわ。ナデシコ、背負ってあげれられる?」
「ん、大丈夫」
「あ……りがとう……ござい……ます」
ナデシコにヒメを背負わせ、森の中に入る。
ずっと、月明かりだけが頼りであるヘルヘイムで、森の中は月明かりも届かず完全な暗闇だ。
偽者の正体が何かわからないけれど、こんなところに隠れるなんて考えたわね。
とにかく、懐中電灯で前を照らしながら大声でユーナに呼びかけ、森の中を走り抜ける。
ガッ
ドサッ
「いたっ!」
暗闇のせいで石につまづいて転んでしまった。
身体を起こし辺りを見回すと、改めて違和感を感じる。
ファントムが昨晩は大量にいたのに、さっきから目にしたことが無い。
「ダリア……その足元にあるのって……」
「ん? ああ、これね。暗闇で見えなくてつまづいちゃった」
「ん……違う。それって……」
ん、何よ?
ナデシコがつまづいた石に指を差し、しっかりと見るように促してくる。
まぁ、確かに大きい石よね。
触ってみると手のようにも見えなくは……無い?
え……手!?
懐中電灯を石に向けてみると石像だ。
「そ、そんな……」
「誰の仕業……絶対に許さない……」
「い……いやぁぁぁ! ユーナぁぁぁ!」





