この国はどこかおかしい7
「あれ……以前って、この辺りこんな感じだった?」
「確かに地脈の入り口は変わっていませんが、たしか高台だったはず……」
千本鳥居から歩き出すと、以前と様相が違っている。
「向こうに見えていた黄泉比良坂も小高い山も無くなっている……どういうこと?」
「そんなものは以前はありませんでしたよ。恐らく、ゾイが地形操作で変えていたのでしょう」
黄泉比良坂は消えており、眼前には不気味な荒野が広がっている。
山まで作って、それをもとの荒野に戻した?
そんなこと簡単にできるはずが……って、ここの神族は土属性だったわね。
土なんてどこにでもあるし、こんなの陸地である限り、どこに行っても気を抜くことができないじゃない。
「地属性の神だから、土地を変形させるのも簡単ってこと?」
「はい、ダリアさんたちが見ていたという死者の行列は幻影魔法の一種でしょう」
冥界の入り口であるはずの小高い山の頂上の窪みも、そこへ進む霊体の行列も綺麗さっぱりに消えている。
「まさか、みんなが幻を見せられていたなんてね」
「相手は神族……それくらいは簡単にできそうですね」
「地面を操作して地形そのものも変えるなんて……手の込んだ騙しっぷりよね」
「なんで、そこまでして私たちを騙したかったのかな?」
「恐らくゼウスの子孫に危害を加えたことが発端になっているからでしょうね」
「人族が神族に手を出すだけで?」
「ダリアさん、この世界はそういうものなのです」
ニーニャはこの世界の住人だから、簡単に受け入れられているのだろうけれど……ディーテのあの所業を黙って見ていろって、やっぱりおかしすぎる。
人が神の娯楽のためだけに殺されるなんて許せないことだ。
それなのに反撃をしたら、関係のない神族までもが襲いかかってくる……当事者でも無い者にまで首を突っ込まれるなんていい迷惑だわ。
「それじゃあ、これから先も神族の追撃は……」
「神族って常に退屈をしているのですよ。永遠に等しい時間を生きていれば、刺激の1つや2つは得たいものですから」
まったく……ふざけているわよね。
この迷惑な鬼ごっこもその一貫ってことよね。
こっちはディーテから自分たちの身を守っただけでこんな目に遭わされる……確かにニーニャのように手を出さずに防御に尽くしていればよかったのかもね。
ま、防御だけしていたら確実にやられていたけれど。
結局、目をつけられた時点でアウトってわけか……もちろん、納得なんてできないわ。
「この近くに魂魄の反応があります。恐らくファントムでしょう」
触れると憑依されて精神汚染をしてくるモンスターか。
あのモンスターたちはなぜか私の歌で浄化するのよね。
アイドルとして消えてしまうなんて、なんか釈然としないのだけれど、私の歌で満足して成仏したと思えば良いか。
ヒメの案内する方向へ進むと黒い靄が見える。
確かにファントムだ。
「ユーナ、今度は触っちゃダメよ」
「へ?」
……って言ったそばから警戒もせず近付いているし!
「ユーナさん、離れてください」
ヒメが咄嗟にユーナの前に出て、黒い靄を追い払うように手を左右に振る。
「ぼえぇぇ!」
黒い靄が消え去っていく。
なるほど、ヒメの手で追い払うだけでモンスター化した魂魄は成仏するのか。
いや、冥界に落ちると言ったほうが良いのかな?
しかし、ファントム化していたら誰が誰だかわからないんだけど。
モンスター化した魂魄は生前の自分の姿を模しているって、ヒメは言ったけれど黒い靄にしか見えない。
「今のって、ホスピリパの町の司教さんだった……」
「え? ユーナ、あの黒い靄が誰だかわかったの?」
「うん、黒い靄で顔が見えにくかったけど……あれは司教さんだったわ。以前、お世話になったことがあるもの」
黒い靄の中で元の姿を隠しているのかな?
でも、相手が誰だかわかるのは神族だけなのかも。
それなら、リュージや欽治君・ニーニャを探すのは、ユーナとヒメに任せたほうが良さそうね。
ニーニャとナデシコは警戒こそしていたけれど、誰だかわからないようだったし。
それからもヒメの誘導に従ってリュージたち3人の魂魄を探したが、出会ったファントムは、どれもすべてリュージや欽治君などでは無かった。
「それにしても数が多いわね。あと、どれくらい探せばいいのよ」
「ごめんなさい。私が捕まっていたばかりに魂魄に死の宣告を与えられず、これほど溢れているとは思いませんでした」
そりゃ、数百年間の死者の魂魄がここで留まっていたらなぁ。
それに勇者軍と魔王軍の戦争のせいでさらに死者も増えているだろうし。
「なるほど……ここ数百年の人口減少の原因がわかったように思えてきました」
「ニーニャん、どういうこと?」
「実はここ数百年、人口が減少傾向にあるのがギルド本部からの連絡でわかっておりまして……」
「ここで死者が輪廻転生を阻害されているから、次の生命が誕生するのを阻害されているってこと?」
「ダリアさんは頭がよろしいですね。はい、その通りです。魂魄を無から作り出すのは神族といえどもできません。私やお爺様、ヘルヘイムを管理している者は世界の生命を存続させるために死と生の管理を任されています」
「それを滞らせる原因となったゾイの反乱って最低な行為ね」
「ヒメ、そういうことなら私たちも協力するわ! 神族の仕事をほっぽり出したゾイをぶっ飛ばして、元の国に戻すのよ!」
「ユーナさん……ありがとうございます」
「ん、ユーナ姉がやるならあたしも手伝う」
「そうですね、ユーナさんらしいです」
ちょっ……はぁ、ユーナはやる気満々の目をしている。
他のみんなもやる気になっちゃって……もう!
リュージや欽治君たちをなんとか蘇生させるためにも、ゾイの性を司る能力は必要になりそうだし、協力するしか無いのかな。





