この国はどこかおかしい3
丘を登り切った所で、ユーナとニーニャが黄泉比良坂を見ている。
「どう? リュージたちは見える?」
「ええ、二人はあそこに」
まだ大穴へ飛び降りてはいないが、冥界の入り口は目前か。
初めてここで確認した二日前のときと比べて明らかに進行速度が違うように思えるけれど……これも戦争のせいか?
リュージたちの後方には、亡くなった魂魄たちがかなり長蛇の列を作って穴へ飛び降りようと待っている。
ヒメもリュージと欽治君の魂魄が冥界へ落ちるまで、四日と確定して言っていたわけでは無いのよね。
あの距離なら、もってしても一日有るか無いかくらい?
とてもじゃないけれど、間に合わないわ。
「どうしよう? ダーリン……」
ユーナはとても不安そうな顔をしている。
もう諦めるように言い聞かせるべきかしら?
いや、まだ終わったわけじゃ無い。
それよりも、ここでただ見ているだけの時間のほうが無駄だ。
ルーシィはどこにいるのかしら?
それだけ確認をしたら、すぐに東へ向かおう。
「ニーニャ、ルーシィは見つけた?」
「それがどこにも見当たらないんです……」
見当たらない?
ヒメの話なら死者の魂魄はここに集められるはずよね?
私も望遠鏡で確認しているが、ならず者やゴブリン・オークなど勇者軍と魔王軍の兵が大半を占めている。
魂魄たちは冥界の穴へ飛び降りるため、綺麗に一列となって並んでいる。
だから、すぐに確認できると思っていたが確かに見当たらない。
ダメだ……ここで考えていても何も始まらない。
もう一度、ヒメの所へ行ってルーシィのことは聞いておくべきか?
……でも、私にはあの神がどことなく怪しく思える。
「あれ……まただ」
ユーナが黄泉比良坂のほうを見て呟く。
「何かあったの? ユーナ」
「うん、ずっと向こうのほうがね……ときどき青白い光を放つのよ」
「霊的な何か……みたいな感じはしますね」
ヴ……ヴヴ……
なんだろう?
あの感じ、どこかで見たことがある気がする。
「戦争中と何か関係があるのかも?」
「戦争中?」
「さっき、ヒメが言っていたのよ。勇者軍と魔王軍がグランディール大陸で戦端を切ったみたい」
「だから、あんなに死者がいるのですね……」
「ねぇ、ダーリン。もう一度、ヒメに聞いてみても良いんじゃない?」
先に進むかヒメに聞くか……あの淡い光やルーシィがいないことは確認しておくべき?
余計な警戒をされないように、普通に接しておけば危害を加えられることは無いか。
「それじゃ、掴まって。少しでも時間短縮するわ」
ユーナとニーニャの手を握り、神殿へ跳ぶ。
ヒメはさっきまで祭壇にいたのに今は姿が見当たらない。
見渡してみると、祭壇の床に擦れたような跡……なるほど、隠し部屋か。
ますます持って怪しいわね……ユーナやニーニャもいるし確認してみるほうが良いかもしれない。
ヒメを怪しむということは、彼女から教わったことを否定するということだ。
そう、欽治君やリュージの魂魄も冥界の大穴も嘘であるかもしれない。
もしかしたら、生きているかもしれないしすでにどうしようもない状況なのかもしれない。
確認するだけの理由は大いにある。
「ニーニャ、そっちから台座を押してくれる? ここに隠し通路があるわ」
「え……でも、勝手に入ってはいけないのでは」
「ちょっとね……いろいろと確認したいことがあるのよ」
「ニーニャん、お願い。ダーリンにはなにか考えがあるのよね?」
「ええ、ちょっとね」
「そうですか、わかりました」
ガ……ガガ
地下通路への扉を開けると、思った通り階段になっている。
奥のほうからヒメの声が漏れ聞こえている。
独り言……では無いようだ?
ヒメ以外にも誰かいる。
「音を立てずに降りるわよ」
「念のためにステルスをかけておくわ」
ああ、リュージが好んで使っていた魔法か。
確か、姿を見えにくくする魔法なのよね。
ユーナも使えたのか。
「ありがと……それじゃ、細心の注意を払って行きましょ」
階段を降りると、綺麗な神殿の地下とは思えないほど荒れ果てて酷い臭いが充満している。
この悪臭って……考えたくも無いわね。
少し進むと不気味な部屋に出る。
「ちょっと……何よ、これ」
「何でこのような物が?」
その場にいる全員が凍り付いたような感じになる。
当たり前だ。
至る所に拷問器具、そして生々しい血が、つい最近まで何かが行われていたことを語っている。
ヒメは隣の扉の奥にいるようだ。
耳を澄まして聞き耳を立ててみる。
「まったく……お姉が勝手なことをしたせいで計画が頓挫したわ」
お姉?
なんか、ヒメの口調が違う気もするけど別人?
「ええ、すでにすべての神々に知れ渡っている」
「……」
「ガールンが死んだようね。ムスペルヘイムの王は?」
「……」
「当然ね。あの子たちも可哀想に」
「……」
「ええ、今はこの国にいるわ。ふふ、幻影とも知らずにね」
やはり誰かと会話をしているようだ。
ただ、その相手の声が聞こえないということは通信魔法を使っているのかな?
「そうよ。最新式土人形」
「……」
「秘術を使ってまでね」
「……」
「わかった、面倒だけど協力してあげるわ」
何のことかまったくわからない。
誰かとの話も終わったようだ。
こっちに来る?
「ダリアさん、こちらへ」
ニーニャが誘導し拷問部屋にある台座の下に身を隠す。
うわ……血溜りが凄いじゃない。
この服も後で処分しないとダメね。
声がしたほうの扉が開き、部屋からヒメが出てきた。
私たちに気付くことも無く、隠し通路の入り口の階段を上がっていく。
やっぱり、ヒメには何か隠してることがある。
それが私たちに関係することなのかどうかはわからないけれど、この拷問部屋を何も思わずに、普通に通過しているだけでも彼女が危険な神族だというのはわかる。
ヒメが出てきた扉の向こうは牢獄になっているようだ。
さっきまで話していた人物が、誰かわかるかもしれない。
「あっ、ダリアさん。どこへ」
「ついてきて」
「ニーニャん、行くわよ」
牢獄はいくつかある。
ヒメが話していたのは、もっと奥のほうからだった。
「だ……誰……ですか」
無人だと思って通り過ぎようとした牢獄の横から声がした。
誰なのか確認しようと見てみるが、牢獄内が暗くて顔がよく見えない。
「任せて、ホーリーライト」
ユーナが明かりを灯してくれると、牢獄内がはっきりと見えるようになった。
とても罪人を閉じ込めておけるような環境じゃないほど酷く汚れている。
ここに長くいたら病気にかかりそうで怖いわね。
「えっ……なんでここに?」
「どういうことなの?」
牢獄内にいた人物の顔を見ると見知った顔だった。





