この宇宙戦はどこかおかしい20
なんとかユーナを説得して、ナデシコとディーテの戦場へ行くのは踏みとどまってくれた。
あとはナデシコがディーテを倒して、ここへ戻って来てさえくれれば良いのだけれど、さっきから外がやけに静かだ。
何度か地響きがして、それもナデシコとディーテの戦闘中のためだからと思っていたが、どうやら違うみたい。
何で誰も気付かなかったのだろう……窓から外を見ると脱出艇が水の中に沈んでいる。
これだけの水をいったいどこから?
宇宙でこれだけの水なんて簡単に用意できない。
こんなことができるのって、やっぱり魔法くらいしか無いわよね?
扉を開けようとしても水圧のためビクともしないし、そもそもさっきからミシミシと、船に亀裂が入るような音がしているのだけれど……大丈夫かしら?
「これはどうしたことなのでしょう?」
「ディーテの仕業かしら?」
「いえ、あの神族は雷魔法しか使えないはずです。そもそも、雷属性と相反する水属性を操れるのは人族の特権のようなものなので」
「でも、ユーナはいろんな属性魔法が使えるわよね?」
「ふふん! ま、私くらいの上位の存在ならお茶の子さいさいね!」
「いえ、ユーナさんは半分が人族なので……」
「あ、そういうことか」
「何よ! それ!」
ユーナがプクッと頬を膨らませている。
もう、可愛いんだから。
「でも、ユーナさん。これからは氷属性と相対的な位置にある火属性の魔法は控えたほうが良いかもしれませんね。神族の血が表面に濃く現れた以上、ユーナさんの身体に大きな負担を与えると思いますよ」
「え!? 至高の存在である私に弱点ができちゃったってこと!?」
「ま……まぁ、悪く言うとそうなりますね」
「そ、そんなぁ! 人間だったころのほうがよっぽど良いじゃない!?」
「大丈夫よ、ユーナ! 髪の色も綺麗なグレシャーブルーだし、イメチェンしたと思えばいいのよ」
「そう? ダーリンが言うなら……うん、別に良いかも!」
うん、この娘……本当にチョロい。
それ故に悪い虫が付かないか心配なのだけれど。
「それより、ナデシコは大丈夫かしら? まさか、溺れていたりしないわよね?」
「これほどの水を召喚する魔力の持ち主も気になりますね」
やっぱり、私やみんなの傷を癒してくれた人の仕業なのかしら?
第三者といえば、その人くらいしか思いつかないし……あと、水圧にこの船がいつまで耐えられるかも心配なのよね。
宇宙空間にまでは、水も溢れていないだろうし、先に船ごと跳んで退避しておくべきかな……でも、ナデシコを放っていくわけにはいかないし。
その時だった。
ヒュン
「はぁ……はぁはぁ!」
「ナデシコ!?」
「どうしたの!? ナデシコ、片腕が!」
「ダリア……すぐに跳んで」
「え、どこに?」
「コロニーの外で良い……ドラさんから頼まれた」
「ドラさん……って誰よ?」
「いいから早く」
「わかったわ。とにかく、コロニーから出ればいいのよね?」
「ん、お願い」
「ナデシコ、モナ先生が治療してくれるわ。こっちに来て」
何なのよ、もう。
ちょうど、ここから離れたかったし言われたようにするけれどさ。
脱出艇の壁に手を当て、能力を使う。
ヒュン
これは……プロメテウス4は半壊している。
それだけではなく、巨大な氷壁に覆われ中には水でいっぱい満たされているように見える。
よく見ると青色のドラゴンと女神の姿に戻っているディーテが睨み合っている。
「あれってディーテ!? 龍化が解けてるの?」
「あのドラゴンは何なんでしょう?」
「ドラさん……味方だよ」
あのドラゴンが?
なるほど、ドラゴンだからドラさんか。
ナデシコのネーミングセンスも単純でわかりやすいわね。
ドラさんとやらが、こっちを向いて手を振っている。
『欽治君も無事に乗り込んだようね? ユーナちゃん、ニーニャちゃん、ダリアちゃん、向こうに戻っても油断しないでね。神の力は強大……今後も決して油断しないこと、良いわね』
頭の中に直接、声が聞こえてくる。
これってユーナが以前、使ったことのある通信魔法?
それにしても欽治君ってどういうことかしら?
「あの声……どこかで聞いたような?」
「ニーニャん、あの青いドラゴンを知っているの?」
「いいえ……でも、声はずっと昔に聞いたことのある懐かしい感じがします」
ニーニャの知っている神族?
『ふ……ふざけるな! 妾がこんな所で簡単に消されると思うな!』
『今、ユーナちゃんたちと話しているところなんだけれど……ま、いいわ。みんな、こんな機会滅多と無いから見ておきなさい。神族を倒す方法の一つをね』
ディーテを倒す方法?
私たちにそれを見せて、今度からは同じようにやって倒していけってことかしら?
『や……やめ! 汝も同じ神族だろうが!』
『貴女みたいな非道な神族はこっちから願い下げよ。同じ神族であることも、返上できるなら進んでしたいくらいだわ。それじゃ、次はこの超純水の中で永遠に彷徨いながら、今までの悪事を悔やんでいなさい』
『ふざけるな! おもちゃで遊んだ程度で! ライトニング……』
バチッ
ディーテの雷魔法が弾けて消える。
青いドラゴンが超純水とか言っていたけれど、まさか電気を通さないあの超純水でコロニー内が満たされているの?
『貴女の攻撃はすべて無効って言ったでしょ? それじゃ……今度こそ、さよならね……グレイトヴォルテックス!』
コロニー内に満たされている水が動き出した。
まるで洗濯機のようにぐるぐると回転して、いたる所で渦ができている。
バチッ
バチッ
『ぐぎゃぁぁ!』
『じゃあね、みんな。また会えると良いわね』
ときどき、激しい閃光を放つたびにディーテの悲鳴が聞こえる。
水の中にドラゴンの姿は無く、ディーテの姿が悲鳴と共に小さくなっている。
『お……おのれ……汝らに永遠の神罰を……』
バチッ
最後に大きな光を放ち、ディーテは消滅した。
廃コロニーの中は激しい水流で崩されていく廃墟だけが目に映る。
まさか、終わったの?
「これが放散……ドラさん、覚えたよ」
「神族があのような感じで……」
「水流でディーテがバラバラになったの? どういう仕組みなのかしら?」
みんな、呆気に取られている。
ナデシコがさらにもう一言。
「あと……ドラさん、あたし欽治じゃない」
うん、それね!
変だと思っていたの!





