この宇宙戦はどこかおかしい6
う――ん、ちょっとマズいことになった。
さっきのガールンの熱線のせいで太刀が変形してしまったようだ。
鞘の奥まで納刀できなくなってしまった。
これでは抜刀術のいくつかが使えない。
新しい太刀をお父さんに打ち直してもらわないといけないな。
太刀を捨て、小太刀に手をかける。
「はぁ、やっぱ周りの隕石から何とかしねぇとウゼェわ」
ググッ
ガールンが魔力を込め始めた。
何かするつもりなのだろうな。
だけれど、大人しく待っているほどあたしは優しくは無い。
ダッ!
足場にしている小惑星を蹴り、勢いを付けてガールンに近付く。
やっぱり、空気抵抗が無いぶん勢いがすぐについてしまう。
小太刀を抜き、ガールンを斬る。
ガガン
あれっ?
鱗が思った以上に硬く、まったく刃が通らない。
よく見ると全身の鱗が硬質化しているように見える。
さっきの攻撃は刃が通ったから、鱗を硬くしたのか?
「あひゃひゃ、まぁ……そう急くなって」
急いてはいないけど、さっさとやらないとこっちが危険になるし。
酸素の残量が心許ないから、早く片付けさせて欲しいんだよね。
……そもそも、こんなに動くことなんて想定されて、宇宙服なんて作られていないし、仕方がないのだろうけれど。
やっぱり、宇宙空間に生身で戦うのは無理があったかな?
ジジッ
ガールンの全身から火花が飛び散っている。
空気が無いのに火花って出るの?
あっ……そういうのは気にしたらダメなのか。
「ブレスより威力は弱いが、辺り一帯を吹き飛ばす技だ。おまいはちょっと下がっておけや」
「ん……警告ありがと。でも、なんでわざわざ教えてくれるの?」
「これで周囲の隕石を無くすためだ。その後、思い切りケツを振って逃げ惑え」
それって……あたしが一方的にやられるってことだよね?
舐めてるのかな?
そんなの大人しく待つはずないじゃん。
「無理……鱗を硬くしているなら、何度でも打ち込んで破壊してあげる」
「おっと、やめとけよ……今の俺は爆弾のような状態だ。下手に傷をつけると一気に破裂しちまうぜ」
むむ……そんなのズルい。
なんか良い方法はないかな?
「あへへ、もうすぐだ。もうすぐ、エネルギーが満タンになるぜ。そしたら、一気にドカーンだ」
ふぅん、こいつって……バカ?
もうすぐ満タンになるってことは、まだ満タンになって無いってことだよね?
なら、今の内に爆発させれば威力がより弱い状態で破裂する。
ちょっと危険だけど、フルパワーで放たれるより被害は少なそうだ。
今はガールンっていう、良い足場があるし……ガールンの背中に立ち、踏み込む。
うん、これなら思い切り放てそう。
「よしっ……いっくよ――」
「お……おい! 俺様の話を聞いていたか!? 今、傷を少しでも付けると爆発しちまうんだぞ!」
「ん……わかってる。爆発させるつもりだけど何か?」
「おまい、あ……アホか! 爆心地にいるのと同じなんだぞ! 頭、大丈夫か!?」
「大丈夫、それじゃ行くよ。神倒の型……」
「ば……馬鹿野郎! 気が狂っているとしか思えないぞ!?」
やっぱり、トドメ技って相手が動けない状態のときに放つのが最適だよね。
両手で小太刀を力強く握り、一気に振り下ろす。
「神哭牙環剣!」
ガガッ!
ん……鱗をさらに硬くしたのか?
一撃じゃ無理なら……二刀流での連撃だ。
「神哭牙環剣番外……終墮割羅!」
小田原は二刀流での連続突きだ。
ガールンの身体の一か所を狙い、ただひたすらに爆発するまで徹底的に突き続ける。
ガガガガッ!
「ぐっ! ま……マズい! このままじゃ……」
「ほんと……硬いね。いい加減、爆発してよ」
「んにゃろ……まだ満タンじゃねぇが、後悔するが良い! 炎龍のエクスプロージョン!」
ドッ!
ゴォォォン!
「はぁはぁ……フルパワーじゃなかったら、たった、これだけとはな……クソッ!」
ヒュン
「なんだ……意外と腰抜けなんだね。あたしが爆発させる前に技を放っちゃうなんて。おかげで隙ができたから、跳んで逃げれたけれどね……」
「ぐっ……気に食わねぇ女だ。だが、範囲は狭かったが俺の周りに足場になりそうな岩は無いぜ」
確かに、ガールンを中心とした半径10メートルほどの小惑星はすべて消し飛んでしまった。
これじゃ、突進系の技でガールンに近付くしかないのだけれど……奥の手を使うか?
「ん――、空中で放つあの技の出番かなぁ……初めて使うのだけれど、上手くできるかな?」
「あひゃひゃ……そんなハッタリ! だったら、初めからなぜそれを使わなかったんだ!?」
「え……だって……初めて……だもん」
「赤面しながら言うなぁ! あと、モジモジするなぁ!」
あはは、ガールンってバカだけど、ツッコミ役には向いているんじゃない?
転生したらお笑い芸人になれると良いね。
そのためにも、ここで滅してあげよう。
「よし! それじゃ、行くよ」
「しゃらくせぇ!」
ドンッ!
ガールンが先に攻撃を仕掛けてきた。
この技はある程度の距離なら、どこにいても放てる技だから適当に跳び避けたらいいだろう。
ヒュン
ヒュン
「くそっ……くそっ! ちょこまかとしやがって! 一発くらい当たれや!」
ガールンの瞬間移動での攻撃をダリアのトラベラーの能力でかわす。
攻守ともに、似た能力を持っているからずっと同じことの繰り返しだ。
そもそも、ガールンは頭が悪いことがよくわかるのが、瞬間移動で跳ぶ場所が必ず、あたしの背後ということだ。
たまには目の前に跳んできたら、一撃くらい小太刀で防ぐことになりそうだけれど……頭にきて冷静さを保てていないようだし。
そうだ……カウンターでも決めてやろうかな?
「いい加減にちょこまか逃げるなぁ!」
「ん、良いよ……受けてあげる」
「な……舐めやがってぇぇぇ! 炎龍のヘッドバッド!」
ドンッ!
また、そんな直線的な攻撃を……でも、練習にはちょうど良いかも。
カウンター技、埼玉県。
二刀流のときにしか使えない技だ。
左手の小太刀で相手の攻撃を受け流し、同時に相手からの勢いを利用して、右手の小太刀で首を落とす。
「神倒の型……裁絶魔剣!」
カキン!
ギュン!
「なっ!」
よし、左手の小太刀でガールンを受け流すことはできた。
でも、宇宙空間だから……空気抵抗が無いことを考えてなかった。
ギュルルル!
ガールンから突撃の勢いを奪ったため、身体が高速回転する。
「あ、あわわわ……目が回るぅぅぅ……」
こ……これじゃ、ガールンの首が見えない。
でも、考えている暇なんて無い。
とりあえず、右手の小太刀でガールンを斬る!
ズドドドドドッ!
「ぐわぁぁぁ!」
あれ……なんか、みじん切りにしているような感覚が手に伝わってくる。
ギュ……ルル
ガールンの肉のおかげで、やっと身体の高速回転の勢いが止まった。
ガールンのほうに目をやったときには、身体が真っ二つどころか跡形もわからないほどに細切りになっていた。
ここまで斬りまくったら、得意の再生も追いつかないようだ。
宇宙は超低温……肉片が凍りついている。
火の神族であるガールンの肉片が凍るってことは……死んじゃった?
ありゃりゃあ……ここまでするつもりはなかったのだけれど……。
宇宙って怖い!





