この宇宙戦はどこかおかしい5
あたしはこの神族とは戦ったことが無い。
でも、空気のない宇宙空間だというのに、ドラゴン化した神族から凄い熱気が伝わってくる。
尻尾の先が燃えているし……火属性の神族というのは見ただけでわかる。
あたしの太刀で斬ろうとしたら、逆に太刀のほうが溶けないか心配だな。
それにしても、あたしをどう出し抜いて、お父さんをやろうか悩んでいる感じだ。
目がお父さんのほうを見たり、あたしのほうを見たりしているから考えていることが丸わかりなんだよね。
お父さんが背中に付けているスラスターでは高速移動ができない。
だからといって、こっちから先制攻撃を仕掛けて、かわされたときにどうなるのか……。
この辺りは小惑星帯で大小さまざまな隕石がある。
これを足場にして戦うつもりなのだけれど……先に動いたのはガールンのほうからだった。
「あっひゃひゃひゃ……どけぇ、小娘!」
カチャ
「お父さんはやらせない」
「炎龍のクロー!」
ガッ
「うわっと」
鋭い爪での引っ掻き……何、この熱い爪。
お父さんを守るために太刀で防御したけれど、踏ん張りが効かない分、ガールンの力に触れるだけで流されてしまう。
思っていたより宇宙で戦うのって難しいみたい。
この辺りには隕石が多いから、上手く足場に利用して立ち回らないと。
そうだ、お父さんは……姿が見えなくなっているから、どこかの隕石の影に隠れながら先に行ったみたい。
「ちっ、見失ったか……まぁ、良い。先におまいから肉片にしてやるぜ……あっひゃひゃひゃ」
「ん……やれるならやってみれば?」
「生意気な女だぜぇぇぇ! 炎龍のヘッドバッド!」
ゴゥ!
頭突き!?
受け止めてもいいけれど、さっきみたいに飛ばされてしまうだろうな。
んっと……あそこのデブリに跳ぶとしよう。
ヒュン
「んあ? あっひゃひゃ、おまいもあの気に食わねぇ女と同じ能力を持っているのか?」
「ま、劣化版だけどね……誉めてくれるの?」
「そりゃ、そんな面倒な能力で避けられ続けたら、当たるもんも当たらねぇじゃないか」
「ま、当たるつもりが無いからね」
「だからさぁ……俺も確実に当てに行くぜ」
ギュン
背後!?
「炎龍のキック!」
ガッ!
しまった。
咄嗟に受け止めてしま……。
ブンッ
「あわわ、飛ばされる!」
「あっひゃひゃひゃ! 追撃だぁぁぁ……炎龍のウィップ!」
グンッ
ドゴッ
「くっ……!」
連撃で尻尾か。
小惑星ばかりでどこに跳ぼうか迷ってしまい、また跳ぶのが遅れた。
……やっぱり、止まることなく流され続けるようだ。
宇宙で戦闘ってコツを掴むまで戦いにくいな。
「あっひゃひゃ! こりゃ、面白れぇ! ほれ、もう一丁!」
ゴゥ!
次は爪か……今度は跳ぶ場所も決めたし避けれる。
ヒュン
「んあ……おいおい、またかよ」
ふぅ、ガールンの攻撃を受けてしまわないように注意しないと、流された後に姿勢を正す間、隙だらけになっちゃう。
受けてばかりではダメよね……そろそろ、こっちからも仕掛けさせてもらおうかな。
小惑星を足場にし、蹴り上げた反動を利用する。
「急襲の型……早牙剣!」
ドンッ!
「なっ……はえぇぇ!」
キン
佐賀県は居合から始まる三連続の剣術だ。
相手の懐に踏み込んだ後、姿勢の低い状態で逆袈裟斬りで一撃目。
そのまま逆風で二連撃目、そして最後に唐竹割り。
あ、最後のキンは納刀したときの音ね。
空気抵抗が無いぶん、速度はいつもより早く飛び込めたし刀を振るのも軽い感じだった。
でも、斬った後の姿勢制御がまた難しい。
今も宇宙空間を漂ってるし……これは確実に当てていかないと外したときは隙だらけになるね。
あ……ちょうどいい大きさの小惑星見っけ。
ヒュン
「よっと、ガールンはどうなったかな?」
「いっちちち」
うん、何とか斬れてるみたい。
でも、予想以上に浅かったな。
小惑星を蹴り上げた反動が、あれほどの速度が出るとは思わなくて、抜刀を少し早まってしまったかな?
「くひひひ、おまいの動きがあの気に入らねぇオッサンと似ていたが、思ったより弱いみたいだなぁ。その能力も淡桃髪の女と同様の逃げ専用かぁ?」
「ん、ちょっと失敗した。今度は成功させるから安心して」
「あひゃひゃ、下手な言いわけを……だが、あまり時間をかけてられねぇ。あのオッサンを追わないといけないからな」
「……行かせないよ」
「あっひゃひゃ、うぜぇ! 炎龍のインパクトォォォ!」
ガールンが少し大きめの小惑星に片手を叩きつける。
ブワッ!
「わっ!」
何が起きたの……衝撃波かな?
でも、こっちには何の影響も無いけれど?
「あり……これは使えないのか?」
どうやら不発だったようだ。
地上で使われると衝撃波が襲ってくる……そんな感じなのだろう。
だけれど、ここは宇宙空間だ。
さっきの小惑星を叩きつけたくらいで、その衝撃がこちらに伝わって来ることはない。
それより、ガールンの近くの小惑星に跳ばないと攻撃が仕掛けられない。
ヒュン
「あへへ、それじゃ……炎龍のヒートレイ!」
ギュルル!
そんな直線的な攻撃、避けられないとでも思ってる?
ヒュン
「あ――、またかよ! マジでうぜぇ……まずはその能力を、どうにかしねぇと当たるもんも当たらねぇな?」
「どうにかできると思っているの?」
「あへへ……見ればわかる!」
ドンッ
また、頭突きか。
そんな直進的な攻撃はどうぞ避けてくださいって言っているようなもの。
カウンターでその首を斬り落としてやろうかな。
「神倒の型……」
小惑星を踏み込んで、力いっぱいの唐竹割り。
本当はトドメの一撃に使う技なんだけど、直線的な突撃ならこれで十分だ。
「うおぉぉ!」
今だ。
「神哭牙環剣……どりゃぁぁ!」
ガガッ
なっ、小惑星が崩れた。
体勢が……。
ドゴッ!
「がはっ!」
「おっら! さらに炎龍のウィップ!」
バキッ!
「あひゃ、やっぱよえぇ! 炎龍のヒートレイ!」
三連撃!?
ダメだ……体勢を整える暇が無い。
太刀で受け止めれるかな。
ギュン!
「あぐぐぐ!」
あ……熱い!
ドロッ
あまりの高熱に太刀が赤くなってきた。
『デンジャー……デンジャー! 高熱のため宇宙服の電磁バリアが限界に来ております。至急、その場から離れてください』
宇宙服も高熱により警告がヘルメット内に響き渡る。
破けたりしたら空気が漏れて大変だ。
それに凄い勢いで流されていく。
どこかに小惑星は……あった!
ヒュン
イテテ……まさか足場の小惑星が崩れるなんて。
小惑星帯の中にも脆いものが混じっているみたいだ。
ガールンのあの余裕は、あたしの足元の小惑星を見て確信を得たからか。
今度から足場にも気をつけて、技を使わないとダメみたい。





