この宇宙戦はどこかおかしい2
ディーテとガールンが合流してしまった。
二人は移動を開始したようだけれど、向かっているのは当然、私たちのいるこのコロニーだろう。
中継してくれているドローンも距離を取り追従しているようだ。
オジサマとユーナがカタパルトへ行ってから、一時間ほど経つがやっぱり魔力の氷にHBMが通れるほどの穴を開けるのに苦戦しているのかな?
「なんやぁ、代わり映えし無くて退屈やな。うち、眠たくなってきたわ」
「宇宙空間の中継だからね。風景は変わらないし、そういうものよ」
「ふわぁ……あかん、寝るわ」
「ちょ……ちょっと! なんてところに入ってくるのよ」
ミミが私の胸の谷間に入ってくる。
あっ、そこはダメ!
「へへっ、ニーニャのよりデカくてええやん。フワフワで最高のベッドやわ」
「ミ、ミミちゃん! 何を言っているのですか!?」
「も……もう。大人しくしときなさいよ」
「へへっ、じゃ……お休みぃ」
まったく緊張感が無いんだから。
でも、ミミには関係の無い話なのよね。
ピグミーたちにはお世話になったし、何と言っても小さくて可愛いから許せるわ。
うん、可愛いは正義だものね。
「それにしても、ディーテとガールンは今どのあたりにいるのでしょうか?」
「あのコロニーレーザーから、近くのコロニーまで地球を三周できるくらいの距離があるのは確かね」
「そ……そんなに遠いのですか? それでは、すぐに危険になるわけでは無いのですね」
「いえ……ガールンの特殊能力が私と似たようなものだとしたら、その能力を使わない現状が気になるのよね」
「そう言われると確かに……何か考えがあってのことでしょうね」
「こっちにとっては最悪なことだと言うのはわかりきっているけれどね」
そうよ……私たちにとっては最悪なことを考えているのは違いない。
最悪なことか……ディーテたちにとっては最高に喜ばしいこと……。
ガールンもディーテもオジサマの力には苦戦していた。
ディーテは卑怯な手でオジサマにも大怪我を負わせたけれど、ユーナの治療のおかげでオジサマも復活できている。
だから、二人で襲いかかるつもりなのだろうけれど……オジサマさえ倒せば私たちは雑魚も同然……つまり、オジサマさえいなければ私たちなんて、どうとでもできるということになる……そ、そうか!
「ニーニャ! 今すぐカタパルトへ行ってオジサマたちを止めてきて!」
「えっ? ど……どういうことですか?」
「説明は後でしてあげるわ! 今、オジサマに出ていかれると大変なことになる!」
「でも、カタパルトって……その……どこですか?」
あ――、ニーニャにはそこから説明しないといけないの!?
落ち着け、落ち着いてよ……私……。
パッ
「ふぅ、終わったわよ」
ゆ、ユーナ!?
まさか、テレポートで戻ってくるなんて考えもしなかった。
そうだ、オジサマは?
「ユーナ、氷に穴は空けれたの?」
「意外と早くできたわよ。後はHBMを換装するだのとか、おじさんに言われたから手伝っていたの」
「それじゃ、オジサマは?」
「うん、ディーテのところへ向かって行ったわよ」
しまった……マズいわね。
ディーテたちがオジサマを私たちと引き離せたと確認したら、確実にガールンの瞬間移動でここへ跳んでくるつもりだ。
何とか……何とかしないと……身体を起こそうとしてみるが……。
痛っ!
ダメだ……身体に激痛が走る。
「そういえば、ナデシコは一緒じゃないの?」
「宇宙服を着て、オジサマの人形兵器の手に掴まり一緒に行ったわよ。ここに来る前に確実に仕留めるってイキって行ったわ」
な……何ですってぇ!?
ナデシコは私たちを危険な目に遭わせないために、オジサマと出ていったのだろうけれど……ナデシコ、私の心が聞こえているならすぐにオジサマと戻ってきて!
……届いていないのか……私も痛みに負けている場合じゃ無いわ。
「ゆ……ユーナ。ちょっと肩を貸して」
「え……ダーリン。ダメよ、まだ起きられないでしょ?」
「ここにディーテたちが跳んで来るわ! 逃げないと今度こそ助からない」
「えっ……それってどういうこと?」
ユーナにディーテがどう動くか説明した。
私の予想が外れていれば問題無いけれど、この可能性は私たちにとっては最悪すぎるパターンだ。
先に逃げることしか他に方法が無い。
「でも、ダーリン……今、能力を使ったら」
「ええ、うまく座標を固定できないわ。けど、地球上だったらどこに出ても特に問題無いでしょ」
「地球!? こちら側の……それとも向こう側の?」
問題はそこだ。
こちらの地球で逃げ回っている間にも、ディーテとガールンによる人間の虐殺は収まらないだろう。
だからといって、向こう側に跳ぶといっても私が知っている場所は、こちら側ほど多くはない。
……ニーニャが私を見つめている。
そうよね、自己犠牲なんて馬鹿な真似はもうしない。
被害者が増えるのは嫌だけれど、私たちが助かりやすいことを考えるならば、こちら側で逃げ続けることが最善だ。
「逃げ回るなら、こちら側のほうが良いでしょうね。知らない場所などほとんど無いくらい旅したからね」
「わかったわ。モナ先生も連れて行けるように準備するね。ダーリンはそれまで少し休んでて」
モナ先生のほうが気を失ったままだし、何より重傷だ。
担架に固定して移動させるしかない。
その準備にもう少しかかるか。
「ダリアさん、映像にナデシコさんが……」
テレビの中継を見ると、オジサマのHBMとその手のひらに乗ったナデシコが映る。
「まさか!? いくら何でも早すぎ……えっ、あれって強襲用バーニア!?」
「強襲用……何ですか? それって」
「簡単に言うと、ものすごいスピードが出せるHBM用のオプションユニットよ」
何でそんな装備がカタパルトに置いてあるのよ……完全に予想外の出来事だわ。
オジサマとナデシコがディーテらと鉢合わせするのに、もっと時間がかかるものだと油断していた。
ディーテたちの動きも止まる。
ナデシコはHBMの手のひらから降り、辺りに無数にある隕石の一つに掴まり様子を窺うつもりなのかな?
そんなところにいたら危ないでしょ、ナデシコ。
聞こえているなら、能力で跳んで戻ってきなさい!
なんでわざわざ付いて行ったのよ!
中継機のほうを見て、ナデシコが微笑む。
何か考えでもあるの?
ディーテとオジサマが対峙したまま動かない。
「何か話しているようですね?」
「確かに気になるわね。ディーテの口が動いていることから、会話をしているのは確かなのでしょうけれど」
でも、何を話しているのかな?
オジサマがオープンチャンネルで、無線を開いてくれていたりするわけがないだろうし。
「あ……そうだった。この機械をナデシコから預かったんだけど」
ユーナから無線機を受け取る。
「無線機!? えっ、まさか……」
オープンチャンネルじゃ無いと、軍専用の回線じゃ私たちは聞けないものね。
周波数を合わせてみる。
ザ、ザザッ
「……てるか?」
「わ……も……にかけ……た……」
「へっ、それにしては……あの艦隊を壊滅させるたぁ、さすがじゃねぇか?」
「はぁはぁ……妾如きの敵では……ぐっ! 無いわ……」
思っていたよりディーテはコロニーレーザーからのダメージを回復できていないのかしら?
息を切らし、喋るのも辛そうな感じが伝わって来る。
そもそも、コロニーレーザーに直撃したくせに生きていること自体、おかしいのだけれどね。
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