この悪魔はどこかおかしい5
ピグミーの村から丸太投げ移動でひたすら海岸沿いに向かって移動をしている。
相変わらず海のほうは見渡す限りの水平線で、陸地のほうは荒れ果てた大地が続いている。
いくら何でもおかしい……海岸沿いにはいくつかの町があるのは、ホークのデータベースから取得をして知っている。
それなのに町どころかオブジェクトの一つさえ見当たらない。
こうなると一つの可能性が思い当たる……大陸が違う?
あたしの知識はホークのデータベースとオリジナルであるダリアの記憶だけ。
オリジナルがこの世界で行ったことのある大陸といえば、あたしが記憶しているだけでもアルス大陸とグランディール大陸だけだ。
そして、海岸沿いに移動してもまったく町が見えてこないことから考えると、ここは通称が魔界といわれるグランディール大陸ってことになる。
魔界の知識はホークもオリジナルも詳しくないようだ。
だから、当然あたしも詳しくはない。
でも、アルス大陸の南方に位置する大陸ということは知っている。
つまり……ひたすら北へ向かえば、あたしのよく知っているアルス大陸にたどり着くはず。
でも、ここがグランディール大陸の南方だとすると大陸を縦断しなきゃならないわけか……無理じゃないけど時間がかかりすぎる。
やっぱり、最初の目的通り村や町を見つけて地図を……って思ったけどゴブリンやオークに話が通じるのかな?
ま、襲ってきたら返り討ちにして地図をいただくけど。
ヒュゥゥゥ
丸太の速度が落ちてきたな。
ちょうど、良いや。
太陽が出てきたことで方位だけはわかるようになったし。
ドォォォン
よし、それじゃ北に向かって丸太を投げよっか。
ゴソ
ん……ポケットに何か入ってる?
「Zzz……むにゃむにゃ」
あ、さっきのピグミー。
いつの間に入っていたのかな?
つついて起こしてみる。
「ん――……何やぁ? もう、朝かいな?」
「何してるの?」
「ぴぎゃ! え、えと……」
なるほど、勝手に入って付いて来たって感じかな。
「ま、いいや。戻るのも面倒だし……付いてくる?」
「ほんまか? 後で帰れって言っても聞かんで!」
「いいよ……ただ、勝手なことはしないでね」
「ほんま付いて来て助かると思うで。安全な移住先を探すのも一人やったら疲れるやろ?」
そっか、移住の候補先が気になるのかな。
あたしが思いつくところはこの世界じゃないけど、安全なのは確かだし。
そういえば、ユーナ姉のHPとオリジナルのHPがサーチできなくなったけど別の世界へ行ったのかな?
サーチに引っかからないということは、この世界からいなくなったわけだし。
リュージと欽治はHP0の状態で今でもサーチができる。
何か大変なことに巻き込まれていなければいいけど……心配だな。
でも、追いかけたくてもあたしはダリアの世界へ行ったことがないから跳べない。
「じゃ、ポケットに入って落ちないでね」
「よっしゃ……出発しんこ――や!」
ギュン
スタッ
勢い良く投げた丸太にすかさず飛び乗る。
また、どこかで木を伐採しないと丸太もボロボロになってきたな。
落ちるときの衝撃でどうしても破損してしまうから仕方がないけど。
「ほんま、凄いで……あんた」
「あんたじゃない……ナデシコって言うの。ユーナ姉がくれた大事な名前」
「名前かぁ……せやっ、うちにも名前つけてぇな! 呼ぶとき不便なんやろ?」
「ん、確かにそうだね。ピグミーだから……ピク〇ン……ピグ……豚……お肉……食べ物……」
「ちょい待ち! その感じやと嫌な名前になりかねんやん!」
「……非常食でいい?」
「何でやねん! うちは食べもんとちゃうって言ったやろ!」
「だったら、エマージェンシーフード……うん、かっこいいよ」
「かっこよく言ってもあかんわ!」
「じゃあ、何が良いの?」
「せやなぁ、名前なんて気にしたこと無いもんなぁ」
「ん――、ピグミーは小さい……チビ……ミニ……ミ……ミ……」
「それや!」
「ん? ミでいいの?」
「ちゃうわっ、何で一文字やねん! ミミや!」
「ミミね……ん、エマージェンシーフードのほうが……」
「なんでやねん! うちは食べもんとちゃうって言ったやろ!」
「仕方がないなぁ……ミミで登録……ん、完了」
「ほな、用があったら呼んでな」
ミミがポケットの奥に潜っていく。
それにしても、グランディール大陸も魔界って呼ばれているけど、普通の大陸なんだね。
確か、悪魔族が支配している国があるはずなんだけど、今は関係無いか。
シュバッ!
下方から魔法?
ボンッ!
ヒュゥゥゥ
丸太に当たり、勢いよく墜ちていく。
「わわっ……な、何や!?」
「顔を出したら落ちるよ。ポケットの奥に隠れて」
「わ、わかったわ!」
ヒュン
ドォォォン!
高度が下がってきたところで地面に跳ぶ。
危なかった……この移動方法もバランスを崩すとちょっと危険だね。
それより、さっきの攻撃っていったい?
周りはあたしの背より高い2メートルほどの草が生い茂る草原だ……いつの間に?
ここは確かに奇襲には持って来いの場所かも。
「ぐへへっ!」
7時の方向から敵襲!?
すぐに太刀を抜刀し、相手の首筋を狙う。
キンッ!
ブシャ
「ぎゃふっ!」
ゴブリンか……一太刀浴びせただけで絶命って弱いね。
ま、背後から襲い掛かってくるような輩に容赦はしないけど。
「て……てめぇ!」
「やっちまえ!」
次は6時と9時の方向から二匹同時にか。
この草むらの中じゃ、あたしに勝てると思っているのかな?
殺気を消さずに襲いかかるような奴じゃ相手にならない。
「たった二人じゃ相手にならないよ……倒剥の型、悪鬼絶剣!」
ビュッ!
グン!
秋田県は太刀に仕込んである鉄線を振り回し相手をバラバラにする奇剣。
こんな雑魚あいてに使うほどの技じゃないのだけれど……殺す前に聞きたいことあるんだよね。
クンッ
「「ぐはぁ!」」
威力を弱め、鉄線の切れ味が無くなるように調整。
そのまま、連携で捕鶏剣を使いゴブリン二匹を鉄線で捕縛する。
「くっ……こんなことをして……タダで済むと思うなよ!」
「悪党の言うことはどこでも同じだね。あんたたち、何者なの?」
「そういう貴様こそ何者だ!? この辺りは第二柱、強欲の姫が統治する区域だぞ!」
「第二柱……強欲の姫? なにそれ、おいしいの?」
「何や、知らんのか? 第二柱っていえば、豪族でもかなり上の階級やで」
ふ――ん、この大陸にも階級ってあるんだ?
というか、ミミでも知っているということは魔界に住む者なら当たり前のことなのかな?
第二柱か……ホークのデータベースで検索。
詳細は不明なままだけど悪魔ということはわかっているらしい。
悪魔か……そいつの統治する区域っていうことはこの近くに町がある?
「じゃ、あんたたちは第二柱の配下?」
「だとしたら何だ!?」
「町があるなら教えてくれない?」
「だ……誰が貴様なんぞに!」
「そうだ! 姫様に手出しは絶対にさせぬぞ!」
「ふ――ん、そう」
キンッ!
ブシュゥゥゥ!
一匹のゴブリンの首を太刀で斬り飛ばす。
「なっ……」
「町……教えて」
「おのれ! この恨みは必ず晴らしてやる!」
「教える気は無いのね……じゃ、先に手出ししたのはそっちだから」
ビュッ!
ブシュゥゥゥ!
「ナデシコ、あんた……容赦無いやっちゃやなぁ」
「下手に生かして追われる側に回るつもりないからね」
「いや……そりゃ……無理みたいやで」
ミミがポケットから顔を出して、あたしを見上げながら言う。
「どして?」
「ほれ……空……見てみ?」
ミミが上空を指差す。
上空を見上げると、目玉?
大きな目玉が地上を見下ろしている。
「……もしかして、今のも見られていた?」
「たぶん……気ぃつけや」
ボウッ
ゴゴゴ
上空の目玉が消えた後、地響きが起こる。
「ナデシコ!」
「!!」
ビュワッ!
草が襲い掛かってきた?
グンッ!
「わっ!」
ドンッ
草が足に巻き付き、引っ張られ姿勢を崩してしまう。
刀でこんな草なんて……。
キンッ!
草に刃が通らない……なんて硬さだ。
「ナデシコ! また来るで!」
ギュン!
ゴッ!
頭部に強烈な痛みが走ると同時に意識が遠のく。
「あっ……」
「ナデシコ!?」
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