この悪魔はどこかおかしい4
砂浜は目と鼻の先だ。
あたしにとっては近くでも、あのピグミーたちにとっては遠いのだろうけど。
遠いということは、どこかへ行ったという妹も砂浜にはいないような気がするのだけれど……村の中はさっきのピグミーが探すっていっていたし、あたしは砂浜まで足を運ばせ妹とやらを探す。
あたしの親指ほどの大きさの小人を探すなんて……しかも、子どもだとさらに小さい。
砂浜をくまなく探す……あ、カニみっけ。
手の平サイズの小さいカニだ。
あたしが近付くと凄い勢いで逃げていく。
こんなカニだけど、ピグミーたちにとっては大きいから天敵だろうな。
身体が小さいと戦う相手が多くて良い修行になりそう。
……ちょっと、羨ましい。
「ぴゃぁぁぁ!」
少し離れたところから悲鳴が聞こえる。
さっきのカニが逃げて行った方向だ。
目をやるとピグミーの子どもがさっきのカニに襲われている。
おお、やっぱり天敵なんだ。
カニのハサミ攻撃とか凄く強そう……相手をどうやって捕らえて食べるのだろう?
「何をぼ――っと見てんねん……ぼけぇ!」
カニがあたしを見て、逃げていく。
ああ……カニのハサミ攻撃、見たかったのに。
「妹、見つけたんならさっさと助けぇや! 何や!? 見殺しか!? 見殺しする気やったんか!?」
「ん――、カニのハサミの動きを見ていた?」
「うちの妹やで!? 挟まれただけで死ぬわ!」
「そなの……そっか、確かに痛いかもね。覚えとく」
「姉ちゃん――! びぇぇぇ!」
「あんたも勝手に外に出たらあかんやろ……何してんねん?」
「だって、だって! 石のお城の続きが気になっちゃったもん」
石のお城?
砂浜をよく目を凝らしてみると、小さな砂のお城だ。
あたしから見て砂でも、ピグミーから見たら石になるのか……風が吹いただけで崩れてしまいそうな感じだ。
ピグミーの子どもといっても手先はかなり器用みたいだ。
それにこの大人ピグミーも身体の大きさからして、村から砂浜まで体感2キロくらいの距離があるというのにあたしより少し遅れて着いた程度だった。
動きもかなり素早いみたいだ。
「せやけど、間一髪で間に合って良かったわ……妹、お家に帰るで」
「うん」
「あたしは?」
「あんたは……ほんまに悪い奴やないというのはわかるんやけど……せやな、あんたのこと聞かせてもらおか? 付いてき」
ミャーオ
アーオ
「……ついでに護衛も頼もかな」
「ん……ウミネコ?」
「空から襲い掛かって連れ去って行くんや! ほんま恐ろしいやっちゃで!」
「だったら、ほい」
「わわっ!」
「ぴぎゃぁ」
ピグミー姉妹を掴み、ポケットに入れる。
「あはは、暖か――い!」
「おお、これなら安全やな!」
喜んでくれて嬉しいな。
さ、村に戻ろう。
戻るといっても、目と鼻の先だけど。
村に着くと、大勢のピグミーが外に出ていた。
百人、いや三百人くらい……こんなにいたんだ。
あたしは歓迎されたってことでいいのかな?
「じぃじ――!」
「あれがうちの村の長老や」
「ほっほ、無事でよかったわい。さて、人間よ……そなたの行動はすべて見させてもらった。若干、ぼけっとしているところはあるようじゃが、お願いしたいことがありましてな。ちょいとこちらへ」
「お願いしたいこと?」
「ほら……長老の話をちゃんと聞きや」
長老の後を付いて行き、家に入る。
この家は比較的新しい……誰かが造ったのかな?
それもピグミーサイズの家だ。
入るっていっても……むむむ、やっぱり狭い。
バキッ
あっ……扉を壊しちゃった。
「ほっほっほ……いや、良いんじゃよ」
「……ごめん」
「まぁ、人間なんて滅多に来ないからの。前に来たのは9ヶ月ほど前じゃろうか? けったいな格好しておる女子での。自分はあいどるとかいう女子じゃったが、歌声は素晴らしくて儂らの同胞もふぁんとやらになってのぉ。いやぁ……格好はけったいじゃったが、根は優しい娘さんじゃったわい」
アイドル……それにファンになったって?
「それって……」
「そいでじゃ……そなたもどことなくその女子に似ておるでの、ここに招待させてもらったわけじゃ」
「あたしに似ているの?」
「そうじゃよ、もしかして血縁かいな?」
あたしのオリジナル……ダリアのことかな?
こっちの世界でアイドル活動をしているなんてダリアくらいしかいないし。
でも、そっか。
それなら、あたしがこの付近の森に跳んで来たのも道理が通る。
「ん……血縁といえば、そうなるのかな?」
「やはりか……じゃったら、少しお願いを聞いて貰えんか?」
「困りごと?」
「儂らには敵が多くての、以前は森に棲んでおったのじゃが、希少種モンスターであるビッグワームが住み着きよってのぉ……その女子にここの海の近くまで移住の手伝いをしてもらったのじゃ」
「ま……あの子なら余裕だろうね」
「便利なものを持っておるのぉ……人間は」
ん――、ダリア特有の能力なんだけどね。
「じゃ、あたしは村の周りの動物を駆除すればいいの?」
「いや、無駄な殺生は好まんのが儂らの種族の掟での」
「もっと安全な場所に移住?」
「そうじゃ……できんかの?」
ダリアは接触している他人も同時に跳ばすことができるけど、あたしはその特性までは受け継いでいない。
でも、このサイズの種族なら袋に詰めて一度に運ぶことはできそうだ。
「少し手荒な方法でも良いなら」
「まことか? それでは早速、村の皆に知らせよう」
「あ、その前に今のこの場所がどこだか教えてくれる?」
「人族特有の固有名詞とやらに儂らは固執しないからのぉ……正直、わからぬとしか……」
長老とやらでも地名を知らないのか……結局、位置はわからないままか。
「どこか移住先の候補はあるの?」
「そうじゃのう、以前は海が安全という村の若い衆の意見を受け入れてはみたものの……カニやら鳥やらネズミやらで危険が変わりなくての」
鳥やネズミはどこにでもいそうだよね。
ダリアは村人の言葉を優先したのだろうけど……ま、あの子らしいかな。
「小動物は森の中とあまり変わりないだろうね」
「じゃから、そなたの思う安全な場所を提供してくれぬかの?」
「なかなか難しい注文だね……」
安全な場所かぁ……どこかにあるかな?
そもそも食物連鎖の底辺に位置しそうなこの種族に安全な場所って見つかるのかな?
ツバメのように空を飛べるなら人間に守って貰える町の中でも大丈夫だろうけど。
地上に暮らす限りネズミや野良猫、ピグミーの子どもならゴキブリにも捕食されそうな感じだし。
空を飛べたらなぁ……空……空……この世界じゃなくても良いなら候補があるけど、ダリアにお願いしないといけないな。
それには、先に現在位置を把握しないと何もできない。
「この村から移住する準備ってどれくらいかかるの?」
「そうじゃのう、半日もあれば十分じゃよ」
「わかった、また戻ってくるから少し待ってて」
「よろしくお願いしますじゃ」
さて、この位置の風景は覚えたし、あとは地図で場所さえ頭に入れれば、ここには跳んで来れる。
現在位置を把握できそうな町やオブジェクトを探して、あたしがどこにいるのか理解できれば、ピグミーたちのために少しは時間をとってあげてもいいかな。
もちろん、家族になってもらうのが前提だけどね。





