この悪魔はどこかおかしい2
おかしい……何か同じ場所をぐるぐる回っている気がする。
でも、木に傷を付け確認しながら進んでいるから、一度来た場所に戻って来ていないことはわかる。
前に進んでいることは確かだと思うのだけれど……さっき、星空を確認するために高くジャンプしたとき目に映ったのは広大な森だったから似ている風景があってもおかしくはないのかな?
それにしても……こんな広大な森って、この世界にあったのかな?
ホークのサーバーにもデータが無い。
通信ができることから、同じ世界であることはわかるのだけれど……あたしのオリジナルであるダリアの記憶を自身の意識内で辿ろうにも、途中から濃い霧がかかって深くまで辿れない。
ディーテのブレスから逃れようとしたとき、あたしはどこを思い描いた?
あのときは無我夢中だったから思い描いた場所がどこかまったく思い出せない……あたしも欠陥品ってことなの?
そんなの嫌だな……人工的に作り出されたあたしができることは家族の役に立って欠陥品じゃ無いと証明することなんだ。
ユーナ姉は喜んで家族になってくれたし、リュージは家族になれないなんて言ってたけど、ペットは主人の意思を尊重しないといけないから家族の一員だ。
それになんだかんだ言っても、リュージはあたしをホムンクルスとでは無く、一人の人間として扱ってくれた。
それに家族といえば、いちばん大切な雪がいる。
オリジナルの欽治はどうなるのだろう……欽治とは特に話していないけど、なんだか互いに考えていることが手にとるようにわかって、一時的とはいえディーテの攻撃を連携で防ぐことができた。
ダリアはあたしが窓から飛び出すときに、一瞬ちらっと見た程度だ。
今度会ったときに家族になってくれるか聞いてみようかな?
……なんてことを考えながらも森の中を歩き続けるが、やっぱり同じ所に戻って来ているような感覚にとらわれる。
傷を付けた大木とそっくりの木に近寄って印をつけた部分を確認してみる……あれ、この木の手触り……なんか普通の木とは違うような感じがする。
シュッ!
もう一度、木に傷を付ける。
そして、しばらく木に付けた傷を見ているとじわじわと傷が塞がっていく。
植物にしては再生能力が高すぎる……こんな木をあたしは知らない。
あたしが知らないってことはホークのサーバーにも登録されていない植物だ……もしかして、世界が違う?
いや……それはないことはホークのサーバに繋がることとユーナ姉の生存をできたことで確認済みだ。
別の世界に来ていたら、ホークのサーバーには繋がらないしユーナ姉のHPさえ確認ができない。
この森がどこにあるのかさえわかれば……ただ、それだけでいいのに。
森の現在位置……そっか、何も森を抜けようとしなくても良いんだ。
星を確認したときより、さらに高い場所から全体像さえ見渡すことができれば、サーバーの検索に引っかかるかもしれない。
そうと決まれば……丈夫そうな木を探し、太刀を深く突き刺す。
「倒剥の型……射我鎚剣」
ドンッ!
太刀をバネに大きく跳び上がる……おっと、太刀も回収しとかないと。
小太刀を鞘から抜き、木に刺した太刀に向かって投げる。
「宙極の型、捕鶏剣」
ギュン
佐能家にあるこのいろんな仕込みが入った太刀と小太刀、勇者軍側で増産できて助かったかも……小太刀に仕込んである鉄線を引っぱり、太刀に絡まった小太刀を力強く引き寄せる。
普通のジャンプで跳んだときよりかなり高く跳び上がれた。
再び辺りを見渡すと……地平線の向こうまで森が続いている。
何なの、こんな広大すぎる森なんて知らない。
このまま、地上に戻ってもまた迷うだけだ。
とりあえず、目に映る高い木のてっぺんを目印にして跳んで行ってみよう。
ヒュン
ヒュン
ヒュン
あれ……やっぱり、おかしい。
30分くらい進んだところで、大木のてっぺんを移動する前にあたしの服を少し破り結んでおいた布が付いていた。
もしかして……ループする森?
数十キロ進むごとに最初の場所に戻される仕掛けのある森?
こんな所で足止めされている場合ではないのだけれど……。
こうなったら仕掛けもろとも吹き飛ばすのも有り?
有りよね……うん、有りだわ。
環境保護も迷いの森が相手だったら文句言わないでしょ?
太刀と小太刀の柄を連結させ双刃刀にする……この技は翔慟賦剣の中で最も範囲の広い技だ。
その分、あたし自身もかなり疲れるから連発はできないのがたまに傷なんだけれどもね。
双刃刀の柄から伸びる鉄線を手に巻き付け、勢いよく振り回す。
ゴゥ!
「禁忌の型……雄々叉華斧!」
バキィ!
ズガガガ!
少しずつ手に巻き付けた鉄線を伸ばしていく。
大阪府はお父さん秘伝の超広範囲薙ぎ払い攻撃だ。
体力だけじゃなく、筋力もかなり必要だから今の所、数回が限界かな。
最後は鉄線を手から離す。
バキバキバキバキバキ!
ブーメランのように大きく回転しながら木を薙ぎ倒していく。
パシッ!
……よし、半径5キロメートルくらいは一気に伐採できた……この木も完全に断ってしまうと再生能力を失うみたいだ。
やっぱり律儀にループの謎を解いて先に進むより、力で押し切るほうが手っ取り早いね。
ゴゴゴ……ゴゴ
地面が大きく揺れ始める。
地震にしては変な揺れかただ……もしかして、ズルをしたから森の主が怒ったとか?
それなら、ちょうど良い。
森の主をぶっ倒して、この迷いの森から出してもらおう。
「ぐぎゃぁぁ!」
地面から異様な大きさのミミズが飛び出して襲いかかってくる。
見た目が気持ち悪いから、こういう相手とはあまり戦いたくないのだけれど……これが森の主?
それとも単なる雑魚かな?
ま、いいや……近付くのも嫌だし、離れて戦おう。
ヒュン
ミミズとの距離を取る。
あっ……双刃刀にしたままだった。
簡単に分離できないのが難点なんだよね。
仕方がない……双刃刀の技はもう一つだけあるし。
でも、あの技は接近しないとダメか……気持ち悪いから近寄りたくないし。
双刃刀でも太刀投げはできるか。
でも、あのミミズの急所はどこ?
「ぐぎゃぁぁ」
ミミズが地面の中に潜り、こっちに近付いてくる。
時間をかけすぎたか……相手の位置が移動の際にできる地割れで丸わかりだから怖くはないけどね。
ヒュン
ミミズとの距離をさらに引き離し、今のうちに双刃刀を分解する。
カチャカチャカチャ
「ぐぎゃぁぁぁ!」
目もないのにどうやってあたしの位置を把握しているのだろう?
音か……それともニオイ?
あたし、臭くないよね?
ま、そんなことはどうでもいいか。
十分に時間はあったし、太刀を鞘に納刀し小太刀を二本両手に構える。
近寄りたく相手には太刀投げが有効だけど、あのミミズを串刺した後に汚れるのも嫌だし……あんなヌメヌメした身体にはこっちのほうが良さそうだ。
「ぐぎゃぁぁぁ!」
巨大ミミズが土の中から口を開けて襲いかかる。
土の外に出るのを待ってたよ。
それに口を開くなんて……愚かだね。
カチャ
「宙極の型……火炉使摩剣、朱刑炎!」
広島県の派生技……縮景園。
翔慟賦剣で唯一の火属性技である火炉使摩剣の中距離版みたいなものだ。
右手に持った小太刀で摩擦により火をおこし、それを左手にもった小太刀で飛ばす。
ヒュッ
ボウッ
「ぐぎゃぁぁぁ!」
ミミズの口の中に飛ばした火が入り、激しく燃え上がる。
こんなに燃えるほどの威力は無いはずなんだけど……野生動物を食べた後なのかな?
口の中に動物の油が付いていた?
ま、どっちにしても運が良かったってことだね。
燃えながら暴れまわる巨大ミミズ……身体のすべてが土の外から出てくるとめちゃくちゃ長い。
まだ、切り倒せていない大木も薙ぎ倒しながら暴れまわり、しばらくすると黒焦げになり息絶えた。
こんな超巨大モンスターがいたなんて……この世界もまだまだ知らないことのほうがたくさんあるみたい。





