このコロニーはどこかおかしい4
ユーナが吹き飛ばした扉の奥は無事だった。
ニーニャが眠っているキュアポッドはどこかしら?
「ダーリン、ここよ。ニーニャんも無事」
「良かった……ここは危険だし、ユーナも私の学校へ避難しましょ」
キュアポッドはさすがに持ち運べないわね。
能力で触れていると持っていけるけど、専用の設備が無いところでは稼働できないし……確か学校の保健室にも簡易的なものがあったはず。
誰も使っていなければ、そこに入れておこう。
ギュゥゥゥン
ポッドの扉がゆっくりと開く。
ユーナがニーニャをそっと抱きかかえる。
「ニーニャん、動けそう?」
「う……」
ニーニャは首をゆっくりと横に振る。
声を出すのも辛い感じね。
でも、意識があるのは良かったわ。
ニーニャを二人で近くの担架に乗せる。
車輪が付いているから、動かさずにこのまま跳んだほうが良さそうね。
「ユーナもニーニャのベッドの上に座って」
「このまま跳ぶの?」
「そうよ」
ニーニャのベッドを掴み学校へ跳ぶ。
ヒュン
学校の保健室だ。
思った以上に被害に遭った生徒が多い。
ざっと見たところ、クラスメイトはいないようだ。
けど、血で汚れた私の学校の制服を見ると心が痛む。
みんな……本当にごめん。
私のせいだ……こっちの世界までは追って来れないと安易に考えてしまった私がこの惨劇を招いてしまったんだ。
「先生! 先生はいる!? ベネットが!」
ベネットって……私のクラスの友達と同じ名前だ。
保健室の入り口を見るとそこにはぐったりとしたベネットを抱えているルイゼがいた。
「ルイゼ!」
「結城!? あんた、帰ったんじゃ!? そうだ、あんたの能力でベネットを病院へ跳ばせない?」
ベネットは大量の血を腹部から流している。
あの不快な音で内側から爆発したんだろう。
精神力の弱い者ほど、音を聞くと破裂する部分が大きくなるようだ。
跡形も無く肉片になってしまったパイロットと違い、ベネットは重傷だが生きている。
それにルイゼに限っては、まったく音を気にもしていない様子だ。
「結城! 聞いてるの!?」
「あっ、ご……ゴメン!」
病院へ連れて行ってほしいか……だが、どの病院もごった返しているだろう。
行ったところですぐに治療してくれるとは限らない。
それに戻って来なかったモナ先生も気になるな。
モナ先生のことだから、あんな音くらいで命を失うことは無いと思うけど心配になってきた。
「今は病院へ連れて行ってもどこも人がいっぱいだと思う。下手に動かすより、ここで何とかするしか……」
「そうか……うん、そうね。治療キットは有事に備えて学校に大量にあるし」
治療キットは持ち運び用のキュアポッドだ。
この保健室にあるものより治癒能力は低いし、口からしか薬剤が投与されない。
お腹から大量の血を流しているベネットをキュアポッドに入れて、ニーニャに治療キットを使うことにするしか無い。
「キュアポッドは空いているし、ベネットはそこへ入れてあげて。私は治療キットを取ってくるわ」
「結城……ありがと」
ヒュン
校庭の端に造られた大型倉庫……ここには有事に備えて食料品から衣料品、最悪の場合のコロニー脱出ポッドまで置かれている。
この倉庫を建てるときに運動部員の抗議が絶えなかったんだっけ。
運動場の3分の2をコロニー管理者に譲渡した前校長の愚策の一つだ。
でも、今はこれがあるおかげで治療キットを探し回らずに済む。
倉庫に入り治療キットを探す。
隅にあるのを見つけたので、持てるだけ持って保健室に戻る。
「ニーニャ、これを吸って!」
「はぁ……はぁ……すぅ……」
治療キットは全自動の小型救急救命装置だし、あくまでも応急処置に過ぎないが、今はこれで我慢してね……ニーニャ。
「な、何だ……あれは?」
「空にヒビ割れ?」
何名かの生徒が校庭のほうの空を見て騒いでいる。
「ダーリン、あれを見て!」
ユーナも見て、私にも空を見るように促す。
パキ、パキ、パキ
確かに空がヒビ割れている。
しかも、少しずつ広がっている……?
パキン
ギョロ
ヒビ割れが大きくなった部分から大きな目玉が見える。
「あっひゃひゃひゃ! みぃつけたぁ」
「「うわぁぁぁ! 何だ、あれ!」」
あの笑いかた、それにあの赤い瞳……ガールン!?
この惨劇はあいつの仕業じゃ無かったの!?
「へぇ……そこがおまいの世界かぁ? なんか、ゴチャゴチャしてるな? それに人間くせぇ……反吐吐きそうだぜ」
だったら、元の場所に戻りなさいよ!
こんな所まで追ってくるな!
あんたのせいで私の生まれ故郷が……くっ!
違う……これは私のせいなんだ。
「あ、あれ何よ……結城の知り合い?」
ルイゼが真剣な眼差しでこっちを見て問いかける。
ここで知らないふりもできるけど、そんなことは私にはできない。
私はみんなに誤らないといけないんだ。
「ごめんなさい! あいつもこの惨状も私が持ってきたようなものなの! まさか……こんなことになるなんて思わなかった! 本当に……本当に……グスッ! ごめんなさい!」
保健室にいる全員がこっちを向く。
「違うわ……ダーリンは悪くない! 悪いのは私とあそこにいる私の世界の住人! 責めるなら私を責めて!」
やめてよ……ユーナはまったく悪くない。
ユーナがみんなに責められる必要はないの。
能力を使って、ここに逃げてきた私の責任なんだ。
「ユーナ……違うわ。この場所まで追ってこれないと、確信して戻って来た私のせいなの」
「違う、違う、違う! ダーリンは何も悪くないの!」
ユーナ、いい加減にして。
いくら貴女の世界の出来事でも、それをこっちに持ってきた私にこそ全責任があるの。
「……ふぅ、結城」
ルイゼが私の目をジッと見つめる。
「誰もあんたが悪いなんて言ってないでしょ? こんな事態を引き起こしたのはあの隙間の向こうにいる奴なら、悪いのもあいつ……それで良くない?」
「そうだ! ダリアちゃんは何も悪くねぇ!」
「ダリア! 泣くのは引退のときだけって言ってたろ!」
みんな……ありがとう。
モナ先生の言った通りだ。
学校のみんなは私の味方をしてくれる……それだけで心が軽くなる。
「あっひゃひゃひゃ! もうすぐ捕まえてやるぜぇ!」
ピキパキパキ
「みんな! 軍事教練の成果を出すときよ!」
「おおう、やってやる!」
「あの笑いかた、マジキモイんですけど!」
「俺の彼女の仇だぁぁ!」
ルイゼがみんなを引き連れて校庭に出て行く。
レベル差はどうであれ、みんな能力者だ。
何とかなる……いや、ダメだ。
無傷で済む相手じゃない。
相手は人を虫けら以下にしか思っていない奴だ。
最悪、全滅なんてことになりかねない。
パキ……バキバキ
ガールンが右腕を出して空間の歪みから這い出ようとする。
完全に出てこられたらお終いだ。
今の内に何とかしなきゃ。
「俺から行くぜ! 食らえ……超普通に痛いパァァァンチ!」
肉体強化の能力者、佐藤君だ。
「邪魔だぜ! 雑魚が」
ペシッ!
「あふん!」
「「佐藤ぉぉぉ!」」
蠅を追い払うようにガールンが右手で佐藤君を遠くへ飛ばしてしまった。
ダメだ……そんなものじゃ、あいつは倒せない。
ビーム兵器なんてそこら辺に落ちてるわけないし……やっぱり逃げてよ、みんな。
「おりゃぁぁぁ!」
「うぜぇ!」
いくら軍事教練なんて授業があってもいきなりの実践、しかも異世界人相手じゃ、まったく役に立っていない。
このままじゃ、ガールンが出て来ちゃう。
何とか……何とかしないと。
「あ――! うっぜぇぇぇ! おまいら、全員溶かしてやらぁ!」
ボゥ!
地面が凄い熱で溶けていく。
「あっつ! 何なんだよ……こいつは!」
「みんな! 一旦、距離を取れ!」
ガールンの腕が炎に包まれ、辺りのものを溶かしていく。
このままじゃ、マズいわね。
ここはコロニーだ。
穴なんか空いただけで大惨事になってしまう。
それだけじゃないわね……相手は中世風の世界の住人。
コロニーなんて知らないだろうし、外が真空の宇宙なんて理解をしているはずがない。
ブレスなんて吐かれたら、それこそコロニーが消滅しちゃうじゃない!?





