この森はどこかおかしい11
……う、う――ん。
……生きてる?
目を開けると知らない場所にいた。
マグマが所々吹き出している……ここはどこなんだろう?
それにしても凄い熱気だ、あまり長居すると熱中症で倒れてしまう。
早く、ユーナたちを見つけて目的地に行かないと。
起き上がろうとしたときだった……。
ズキッ!
「痛っ!」
身体のあらゆる部分がズキズキとするが、特に頭が酷く痛む。
頭を触ってみると、何かが付いている?
触った手のひらを見ると血がべったりとついている。
顔は大丈夫よね?
慌ててコンパクトを取り出し、鏡を見てみる。
頭から凄い血が流れている。
頭部はあまり深くなくても出血量が多いって聞くし、特に驚きはしなかった。
それよりも、顔に大きな傷が無いことが不幸中の幸いだ。
細かい傷はついてしまったけど……これ、後で消えるよね?
「ダリアさん……大丈夫ですか!」
ニーニャが駆けつけてくる。
良かった、さすがニーニャね。
所々、怪我をしているが軽い動きは衰えていないようだ。
あとはユーナだけだ。
でも、肝心なときに能力を使えなかった自分が情けない。
一緒に跳ぶ相手に触れていなければならないとはいえ、地脈の奥から変な音が聞こえていた時点で手を握っておくべきだった。
「ご、ごめん。咄嗟のことで跳べなかったわ」
「謝る必要なんてありませんよ。私も真上が崩落するなんて思いもしませんでしたから……お互い様です。それより、治療しますね」
「うん……ありがと」
ニーニャの手によって応急処置をしてもらった。
頭の傷も思っていた通り、大したことは無いみたいで良かったわ。
「それにしても、ここがどこだかわかる?」
「私も来たことはありませんが、この溶岩や植物の無い大地。おそらく灼熱の国、ムスペルヘイムかと思います」
また、目的地と違う場所に出てしまったの?
これじゃ、とても4日で目的を達成するなんて無理だわ。
「ユーナさんは……あちらのようですね」
「何でわかるの?」
「ふふっ、もしものときのためにお二人にマーキングを付けさせていただきました。離れすぎると探知できませんが、3人ともあまり離されずに済んだみたいですね」
マーキングって……おしっこじゃないわよね?
それって犬だったかな……たぶん、魔法とかそんなものなんだろう。
でも、いざっていうときのために行動できるって、やっぱり冒険経験者は私みたいな初心者とは違うわね。
「ユーナの所に急いでいかないと……」
「ええ、後に付いて来てください。こっちです」
ニーニャが先に進み、私が後ろに付いて歩く。
それにしてもムスペルヘイムか……灼熱の国って呼ぶのは私の世界と同じなのね。
ここに長く留まるだけで、命に関わりそうなくらいの暑さだわ。
「でも、どうしてこんな場所に出たのかしら?」
「おそらくですが、地脈が崩落したときに、土砂と一緒に流された先が、ムスペルヘイムの地脈点だったのでしょうね」
やっぱり、そうとしか考えられないわよね。
「はぁ……この国に町や村って無いのかしら? そこでミズガルズの風景画を見つけて、ちゃちゃっと跳んで行きたいわ」
「あはは……本当に思うように行かないものですね。ユーナさんを見つけ次第、次のことを考えましょう」
足場の悪い道なき道を進み続けると、ユーナが倒れているのを見つける。
「ユーナ!」
「ユーナさん、大丈夫ですか!?」
急いで駆け付けようとするが、足場が悪いせいで気持ちばかり先行してしまう。
落ち着いて進まないと、マグマ溜りにバランスを崩しただけで一巻の終わりだ。
遠回りをするはめになったが、ユーナの側まで近付くことができユーナを介抱する。
「ユーナ、大丈夫? どこか、痛いところはない?」
「う……う――ん……こ……こは?」
「詳しい場所はわからないわ。ユーナ、起きれる?」
「うん……ダーリンのほうこそ……頭、大丈夫?」
言いかた気を付けてね。
頭の傷は大丈夫かって聞いているんでしょうけど……。
「ええ、大丈夫よ。ニーニャに治療してもらったから、痛みも治まっているわ」
ユーナの手を取り、引き上げる。
さて、ユーナも無事のようだし、これからどうするか決めないとね。
地図を取り出し、ムスペルヘイムの場所を把握する。
ヘルヘイムが最西端、ムスペルヘイムは最南端の国のようだ。
こんなに広い大陸なんだから、せめて中央部付近くらいには流されたかったわ。
「ここはムスペルヘイムとして、今はどのあたりなのかしら?」
「ニーニャんもわからない?」
「そうですね……ん、潮の香り?」
ニーニャが小高い崖上に登り始める。
潮の香りってことは、ニーニャの登っている崖の向こうは海?
「ダリアさん、ユーナさんも来てください」
「私たちも行きましょ、ダーリン」
「そうね、手を繋いで跳ぶわよ」
高さは数メートルほどだが、垂直だし跳んだほうが早い。
崖上に跳ぶと眼前には大海原が広がっている。
ニーニャが地図を片手に話し出す。
「どうやら、ここは地図でいうと……この岬みたいですね。周りの陸地が後ろに見えますし、私たちが岬の先端に立っているのがわかりますね」
「最南端って聞いたけど、地図で見るとガンデリオン大陸の南西部なのね?」
本当にツイていないな……距離は稼げたと思ったけど方角的には少し南に進んだだけだ。
この付近の地脈はさっきの土砂で埋まってしまっているし、下手に中に入り先を進むのも危険だろう。
「ねぇ、聞いて。私としては一度ヒメの所に戻ったほうが良いと思うの」
「ヒメ様の所にですか?」
「ええ、もう一度地脈に入るとしても、この近くにある地脈は危ないわ。潜っているときにまた崩落しないとも言えないし……それに地脈そのものだって……」
「地脈がどうしたの?」
いや、ここは黙っておくべきだろう。
ニーニャの話では崩落なんてあり得ないような驚きかただったし、私たちの運が悪かったで済ますには違和感があるのよね。
「いいえ……何でも無いわ。とにかく、私は一度戻ったほうが良いと思うの」
「私は移動に関してはダーリンに一任するわ」
「そうですね、他に方法が無いか聞いてましょう」
「じゃ、跳ぶわよ」
二人の手を掴み、ヘルヘイムの地脈の入り口を思い出す。
そして、跳ぼうとした瞬間……。
ヒュッ
ボッ!
火矢だ……どこから飛んできたの?
足元に落ちたので、辺りを見回してみる。
「これは……二人ともここから離れて!」
「えっ?」
ドンッ
ニーニャに押し飛ばされ崖から落ちる。
すぐにユーナが風魔法を使い、怪我をすること無く落ちることができた。
着地の衝撃を上昇気流で咄嗟に緩和するなんて……さすがね。
ズガァァァン!
火矢の落ちた場所が爆発した!?
まさか、ニーニャは私たちを庇って……?
「ニーニャん!」
「ユーナ、待って!」
矢の飛んで来たほうを見ると誰かいる。
翼があることから神族だと思うけど、すぐに攻撃を仕掛けてきたし、どうやらこれは……嫌な予感しかしないわね。
「おいおいおい、聞いた話と違うじゃねぇか。ま、俺は楽しめるからこのほうが良いがな!」
赤い髪に日本の侍が着ていそうな鎧を身に着けている男神が空に浮かんでいる。
「誰!?」
「へっ……名前か? 教えてやろう! 聞け、人間! 俺様はヘパイストスの血を受け継ぎし者……ガールン様だ!」
また、ギリシャ神話に出てくる神の子孫?
しかも、ヒメとは違って敵対心剥き出しの……いえ、違うわね。
人を人とも思っていない、あの憎き女神と同じ態度をしている。
「そのヘパイストスの子孫が何の用かしら?」
ヒュッ!
また、火矢を撃ってきた。
今回も当たらず、明後日の方向へ飛んでいく。
こっちは質問しただけなのに……聞く耳も持たないってわけ?
「おいおいおい、人間……偉そうに俺様に質問してんじゃねぇよ。神様にものを訪ねるときは頭を垂れるのが人間の習わしだろうがぁ!」
そう……こいつもヒメの言う忌まわしき思想家の一人ってわけね。
でも、相手にするにはあまりにも強敵すぎる。
ニーニャの場所まで跳んでニーニャを掴み、ヒメの場所に跳ぶ。
これしか無いわね。
「ダーリン?」
「ユーナ、相手にする必要は無いわ。あいつが次に火矢を放ったときに跳ぶから服を掴んでて」
「わ、わかったわ」
「くひひ……さぁ、見苦しくケツを振って逃げ回るところを見せてもらうぜぇ」
ググ
ガールンが弓を構え出した。
弓は銃と違って、連射ができない。
いろんな世界を回ってきたけど、これだけはどこも同じだわ。
撃ってきたときにおさらばさせてもらうわよ。
「へへ……」
ジジジ……
撃ってこない?
さっきも外したし、弓は苦手なのかしら?
でも、いずれは撃ってくるはず……その瞬間を見逃さない。
ジジ……ジ……
「ダーリン、後ろ!」
「えっ?」
さっきの火矢が戻ってきた!?
ドガァァァン!
「「きゃあぁぁぁ!」」





