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俺、神様になります  作者: 昼神誠
少女と神
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この森はどこかおかしい6

 ユーナが黒い靄に躊躇うことなく触れる。

 その瞬間、靄は霧散してしまった。

 あら……何も起きない?

 ニーニャがモンスターかもって言うから心配しちゃったじゃない。

 でも、あれって何だったのかしら?

 モンスターっていうより、そもそも生き物でも無いし……どっちかというと幽霊?


「ユーナさん、大丈夫ですか?」

「………………」

「ん……どうしたの、ユーナ?」

「あ……あ……あ……」


 ユーナが血の気が引いたようになり小刻みに震えだす。

 やっぱり、何かされたの?


「い……いやぁぁぁぁぁぁ!」


 ユーナが急に悲鳴を上げた。

 さっきまでの元気なときと違って顔色が真っ青になっていく。

 いったい、何をされたの……毒?

 それなら早く吸い出さないと……でも、どこにも噛まれたような後がない。


「あああっ! いやっ……いやっ! どこかへ行ってぇぇぇ!」


 ユーナは頭を抱えて両膝を地に着く。

 私はすかさず、ユーナを包むように抱き寄せ声をかける。

 

「ユーナ、大丈夫よ! 何も怖くないから! ニーニャ、ユーナに何が起こってるの?」

「わかりません……けど、さっきの靄はファントムっていうモンスターなのはわかりました。アナライズをかけて調べようとしたときには、すでにユーナさんが触れてしまい……霧散する前に名前と種族だけ判明しました」


 まったく……何をやっているのよ。

 まだ、目的地でもないのに見知らぬ大地に着いた途端、こんなのじゃ先が思いやられるわ。

 

「ファントムは精神体モンスターのようです」

「精神体? それって、幽霊みたいなもの!?」

「ええ……アルス大陸にも同種のゴーストっていうモンスターがいるので、それと似たような攻撃だと仮定すると精神汚染が始まっているかもしれません!」

「精神汚染!? 何よ……それ!?」

「精神体のモンスターは相手に憑依するのです。黒い靄のときに魔法で退治しておけば良かったのですが、まさかユーナさんが触るなんて考えもしなかったので……御免なさい」


 何をやっているのよ……ユーナが元気になって嬉しがっていた自分が恥ずかしいわ。

 危険が来ても跳べばなんとかなるって考えのせいだ……結局、私は初めて戦場を見に行ったときから変わっていないのね。

 今は、自分反省会をしている場合じゃないわ。

 

「謝罪なんて別にしなくていいわよ。私が油断していたのも原因なんだら……それより、どうなすればファントムをユーナから剥がせるの?」

「憑依をされている以上、ファントムはユーナさんの心の中に入っています。これでは、魔法も届きません。かえってユーナさんを攻撃してしまうことになりますから……」


 憑依されている以上、相手を追い出すことができない?

 それって寄生虫以上に厄介なものじゃない。

 そんな……まさか、ユーナがおかしくなるのを黙ってみているしか無いっていうの……そんなのダメよ!


「いやっ、いやっ……あああ! やめて、来ないで!」

「ニーニャ……ユーナを助けてよ!」

「ごめんなさい……私は憑依された相手に対処する方法を持っていないんです」

「いや、いや、いやぁぁぁ!」


 暴れ出すユーナをギュッと抱きしめておく。

 ……そんな……何も方法が無いの?

 

「このままじゃ、ユーナはどうなっちゃうの?」

「精神汚染が始まり、最後には廃人に……」


 廃人なんて駄目よっ!

 ユーナはこれから私と一緒にアイドルとしてみんなに元気を与える存在になるんだから!

 

「ユーナ……頑張って! そんなモンスターなんかに負けないで! 私が絶対に助けてあげるから!」

「ダリアさん、ユーナさんを連れて今はこの場を離れましょう! ユーナさんの悲鳴にファントムが寄せられてきています!」


 確かに周囲を見回してみると黒い靄の数が増えてきている。

 触れるだけで、ユーナみたいになってしまうモンスターなんて危険すぎる。

 でも、苦しんでいるユーナを連れて逃げるにも限界がある。


「ユーナをこのままにしておけないわ!」

「なんとか……くぅ! 私でもこの数が相手じゃ!」


 ニーニャは魔導弓という矢が必要の無い変わった弓を召喚し、光り輝く矢のようなものでファントムを一体ずつ消滅させているが、次から次へとどこからか湧いてくるため数の多さに圧倒されつつあった。


「あなたの――心を――ズギュン」

 

 突然、私のスマホが鳴り出した。

 もう、こんなときに誰が電話を?

 ユーナを強く抱き寄せ暴れるのを抑えているため、スマホが操作できない。

 着信ならいつか切れるでしょ、放っておこう。

 

「え……これは?」

「どうしたの、ニーニャ?」


 辺りにいるファントムが私たちから離れていく……しばらくすると、私の腕の中で暴れていたユーナも動きを止める。

 力を入れて抱きしめる必要が無くなったから、スマホをポケットから取り出し相手を見てみる。

 着信相手は……ルーシィか。

 今は電話に出ている暇は無い……いつもの癖で着信を切ってしまう。


「ま……また! どういうこと?」


 離れていったファントムが私たちに近付いてくる。

 

「あ、あああ……い、いやっ! いや! 来ないでぇぇぇ!」


 ユーナも再び小刻みに震えだし悲鳴を上げだした。

 なんで!?

 もしかして……さっきの着信音をファントムは嫌ったの?

 私の自信作よ……し、失礼ね!

 いや、そんなことじゃない。

 まさか……いや、今は試してみるしかない。


「ラララ、ララ――」


 相手を元気にする歌の力、もしかしたらファントムは歌に弱い?

 歌い出した瞬間にファントムは私たちから離れていく。

 やっぱり、そうなんだ。

 このまま歌い続ければユーナに憑依したファントムも逃げていくかも。


「わたしの心に――」

「凄い……ファントムが浄化されていく」


 逃げるどころか退治することもできているの?

 やっぱり、私の歌って最高ね。

 

「……ラ、ララ」

「ユーナ?」

「貴方の――心にいつかきっと――」


 ユーナが小声ながらも歌っている。

 やった、憑依しているファントムが弱まっているのね?

 ユーナ自身が歌えば確実に浄化できるはず。

 

「ダーリン……プロは途中で曲を止めないんでしょ」

「え……ええ! そうだったわね」


 最後まで歌いきって、辺り一帯のファントムをすべて浄化させてあげるわ!

 歌い続けていると、なんか霧も晴れていく。


「私も援護します!」


 ニーニャは独自に魔導弓でファントムを一体ずつ浄化していく。


「あら……これって?」


 光り輝く弓矢が分裂し、一度に十体ほどのファントムを浄化する。

 凄いわね……私の世界にもショットガンっていう武器があるけど、それに似ている。


「ダリアさん、これは!?」


 ニーニャにバフというステータスが急激に高くなる効果がかかっているのはわかるけど、まさか武器にも?

 そういえば、リュージの持っていたライトブレードも歌を歌っている間だけ、威力が上がっていたわね。

 へぇ……この世界じゃ歌ってこういう使いかたもあるのね。

 なんだか、歌でみんなが強くなるなんて小さい頃に見たことのあるアニメにもあったわね。

 うん……なんだか凄く心地良い。

 

「ダーリン、集中して!」


 おっと、私としたことが……まずは歌いきることが一番。

 

「最大級のハートを貴方に――!」


 歌い終わったころには霧もすっかり晴れて、ファントムも消え去っていた。

 

「ダーリン、ありがとう」

「もう、これからは見知らないものに近付かないこと。約束してよ?」

「お疲れさまでした。まさか、ファントムにあのような弱点があるなんて」


 私も知らなかったわ。

 今回はルーシィに助けられたようなものね。

 そうだった、ルーシィに電話をかけないといけないわね。

 ついでにお礼も言っておこうかしら。

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