何が見えている?
この冷たい風は先輩が戻ってきたようだ。
思った通り、厨房入り口からヒョロっとした男が入ってくる。
「どうしたん? 君ら」
年齢は二十四。僕らはバイトだが彼は社員だ。
「せんぱーい、萩山さんなんですけど、霊感があるらしいんですよぉ」
先輩は黒い靄を纏っている。そして、彼の後ろからぞろぞろとついてくるのは人間の成れの果て。この世に未練を残し、行き場を失った霊が身を焼かれた姿。
どういうわけか先輩には四十四体もの霊がついている。先祖が何かやらかしたのだろう。本人にはまったく影響しないのが不思議だ。
それにしても厨房の人口密度が上がり、暑苦しくなった。逆に室温はさがっているが。
「へぇ、すげえな。俺に何か憑いてる?」
すると萩山は先輩の肩をじっと見つめて。
「子供の霊が一体……でも害はないです。そのうち守護霊が追いはらってくれると思います、多分」
子供……子供もいるが、他の四十三体は見えないのか?
違うな。この女、多分見える振りをしている。なんのためかは知らないが。
……下らない。
「てーことは大丈夫なん?」
「はい、多分、影響はないです。ネクラさんはちょっと対策が必要ですけど」
「え!? ネクラ、憑かれてんの?」
「さあ?」
僕に女性の霊は見えないのでなんとも。
すると萩山は壁時計を見た。
「もう帰らないと。ネクラさん、これを持っていて下さい」
渡されたのは厄除けのお守りだった。これについては霊を祓う力はまったくない。持っている意味がない。
「それでは」
会釈をし、萩山は帰って行った。
「ネクラ、霊が移るからあんまり近づくなよー?」
笑いながら言うが、その言葉、そっくり返したい。
「萩山さん、大人しい子だと思ってたけど、イメージ変わっちゃいました。凄いですね!」
何を考えているんだか。僕にはわからない。