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ネクラ君は見えるらしい  作者: たかしろひと
第1章 旅館
2/13

この旅館を選んだのは

「ほら、そろそろ藤嶺も皆のところへ行こうよ」


佐竹から視線をそらす僕。


「ここで良い」


 日向に出たら干からびる。さらに火のそばへ寄ったら焼け死ぬ自信がある。僕は暑さが一番苦手なのだ。


「いい」


「良くないってー」


 元々、合宿に来るつもりはなかったのだ。部長に頼み込まれて人数合わせで参加したに過ぎない。


「おーい、どうだ、ネクラは。動いたか?」


 そう言って僕達に歩み寄ってくるのは部長で三年生の大岐将月(おおつきまさつき)。ライトブラウンに染めたロン毛をゴムで束ねている。面長で切れ目のイケメンチャラ男。しかし、かなりの本好きで純文学から漫画までなんでも読む。雑食なのだ。


「動きませんよー。食べはしてますけど」


 僕はすでに割り箸を割って、焦げ気味の牛肉を口へ運んでいる最中だった。野菜は全力で排除する。皿の上の戦いだ。


「お前、良い根性してるよな」


 苦笑を向けられても。部長の頼みで来たのだから、僕は努力しなくても良いと思うのだ。

 僕は肉を咀嚼した後飲み込んで、


「美味いですよ、この肉」


 ぶっちゃけ普通の牛肉だけど、安い参加費で食わせてもらっているので、お世辞の一つでも。


「いや、お前、目が死んでるぞ。そして野菜も食えよ」


「そのうち」


「ぜってー食わねぇだろ」


「ちっ」


僕の軽快な舌打ちが海風に流されていった。


「あからさまだな! おいっ」


「まぁまぁ」


 佐竹が 大岐部長をなだめていると、再びこちらへやって来る影が。


「何々? ネクラ君を囲んで何やってるのかしら」


 同じくサークルメンバーの二年生、七崎朝陽(ななさきあさひ)だ。

 オレンジブラウンのロングヘア、タンクトップにミニスカートと黒のレギンスを合わせている。


「囲んでねぇよ。根を張って動かねぇから、こっちへ来いっつってたんだ」


「ネクラ君はしょうがないわねぇ。お姉さんと向こうでピーマン食べよ?」


「ここで肉を食いたいです」


 すると七崎先輩は僕の頭を撫でながらふふふと笑う。


「野菜から、でしょ?」


「う!?」


 いつの間か七崎先輩のアイアンクローが炸裂していた。彼女、握力が男性平均より上なのだ。まるで頭が割れるような痛みが僕に襲いかかる。

 僕は無言で彼女の腕を叩いてギブアップを訴えるが、さらに力が強まったような。


「はぁ、もう。あ、それにしても、部長、こんな良い旅館なのに参加費五千円で本当に大丈夫なんですか?」


 そう問うたのは佐竹である。


 部長は顎に手をやって、意味ありげに笑う。


「実はこの旅館は、ちっとしたいわくがあってな。そのお陰で一人一泊四千円なんだ。もちろん、二食付きでな」

 

 途端に女子二人が動きを止める。

 いわく?

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