髪の長い女
「お待たせしました」
バイト先のファミレスの前で待っていると、萩山が歩み寄ってきた。
今日のシフトは僕が先だったので言われて待っていたのだ。
「じゃあ、行きましょう」
お祓いは近くの神社で行うとのことだ。
「今も憑いてるのか?」
「もちろん、憑いてますよ」
相変わらず僕には見えないのだが。
ファミレスから歩くこと十分。町の郊外にある赤い鳥居の神社に到着した。時刻は夕方。
周辺に人影はない。
萩山に促されて鳥居をくぐると……。
「!」
賽銭箱の前に女が立っていた。髪の長い、白服の女。昨日の霊だ。
「視覚化しましたから、見えるでしょう?」
萩山が何かしたから見えたわけではない。今、そこに現れたのだ。
萩山は立ち止まった僕を追い越して、女に近づいた。
「何故、ネクラさんに近づくんですか?」
『けけ』
「!」
女は萩山の肩に手を伸ばし、強く押さえつけると、地面に組み敷いた。
「きゃ!?」
首を絞められる。
「あっ……かっ……、なん、で、はる、こさん?」
『お祓いごっこは終わり。十分でしょう』
僕は歩き出した。女の霊は萩山に夢中のようだ。
『あんたを食べる。切り刻んで』
「へ……?」
女がその鋭い爪を振り上げた瞬間、僕はその腕を右手で掴んだ。
驚いた様子で僕を見やる女。
「お前……」
左手で取り出したお札を女の額に静かに押し付ける。
『ぎゃっ……ああああっ』
白い炎に焼かれるように、女の体は焼け焦げ、終いには空気に溶けて消えて行った。
今回は完全に霊が原因だったらしい。
見ると萩山が目を見開いて僕を見ていた。
「……え……?」
「お前、霊と霊感少女ごっこをしてたんだな」
さっきのやつにそそのかされたのだろう。見えるふりをして、適当な人間に憑かれていると脅し、あの霊に襲ってもらう。その結果、周りの信用を得るというわけだ。
「……ネクラさん、何者なんですか」
僕は彼女に手を差し出した。
「霊感少年……て言われたことがある」