表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネクラ君は見えるらしい  作者: たかしろひと
第2章 霊感少女
10/13

街灯の下の

 バイトの帰り道。

 十一時過ぎだった。当然だが、辺りは夜闇に包まれている。住宅街の通りを照らすのは街灯の明かりだけだ。

 ふと気づくと少し先の街灯の下に誰かが立っている。僕が気づいた途端、明かりが点滅し始めた。

 ……それはそれとしてくそ暑い。雨でも降れば良いのに。

 僕は人影のある街灯の下まで進み、何事もなく横を通りすぎた。


『……て』


 女の掠れるような声が耳元で囁かれる。そして、首筋にひんやりとした指先が触れた。

 さすがにぞくりとして、振り返る。

 女はうつむいていた。顔は見えない。


『かたふりあきたべたいでしょ』


「……」


『きってよ』


 意味不明だ。すでに人間だった頃の感情や思考は存在していない。その内、地縛霊とか質の悪い悪霊になる。

 僕が反応しないと分かると、女は後退した。諦めたか。

 ……と、思ったのだが。


「きーっ!」


 妙な声を上げて手を振り上げた。とっさに避けたものの、女の爪が頬を掠め、小さな傷を作った。


「っ!」


 やっぱり、何かを訴えたいわけじゃない。人間を襲う類の霊ならこの場で消してしまった方が良いだろう。何より、この道は僕の帰宅路だ。

 ポケットから常備しているお札を取り出した。それを女の額に押し付けようとした時。


「けけけけけけけ」


 不気味な笑いを残して、闇に消えて行った。

 逃げられたか。ズキッと頬の傷が痛む。対したことなさそうだが、きちんと浄めておいた方がよさそうだ。

 それから帰宅し、その日は何事もなく過ぎて行ったのだが。

 翌日、僕は熱鼻喉のフルコンボ、つまり風邪を引いていた。



 幸い、大学の授業は一限だけ。終わってから、マスクをした状態でバイトに行くと、妙に驚かれた。


「ネクラさんも風邪引くんですね! びっくりです」


 松間が目を瞬かせながらそう言ってきた。更衣室から出てすぐ、裏方で出会い頭に。酷い言われようだ。別に構わないが。


「こいつ、ギリギリバカではないから当たり前だろ」


 先輩が厨房のカウンターから顔を出し、笑いながらわけのわからないフォローを入れる。

 厳密には風邪ではない。昨日の霊のせいだ。霊の負の感情に影響を受けて体調不良を起こす人もいるが、僕はそういう体質ではない。しかし、昨日は油断してたからか。


「あら、その傷どうしたの」


 市原が頬を指差しながらフロアから戻ってきた。


「自分で引っ掻きました」


「わ、痛そうですねっ」


 すでにかさぶたになりつつあるが、周辺が赤く腫れているのでそう見えるのだろう。

 と、その時。

 何か、物を落としたような音がした。

 全員が一斉に更衣室の入り口を見やる。


「ネクラさん、何かあったんですね……?」


 萩山が青い顔で立っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ