黒髪黒目
俺はもうダメかもしれない。なぜならば最近目の調子が悪いのだ。ピントがボケ、目がかすむようになってきた。なにか目の病気にかかってしまったのだろうか?今日も朝から調子が悪い。前はたまにしかこのような症状は出なかったのだが、ここのところ毎日のように悩まされている。
「ママン?目の調子が悪いんだけどどうかなってるかな?」
料理を作っていたママンは振り返り俺の目をチェックする。
「ん?どうもなってないよ?」
「・・・そっか。」
う~ん、グルングルンして気持ち悪いが仕方ない。視界が元に戻るまでベットでおとなしく待つことにしよう。1時間程、仮眠すれば落ち着くはずだ。
そう思いベットに寝転がったのだが、今日は様子が違った。仮眠をとっても治るどころか時間が経つにつれどんどん視界が狭く、そして暗くなっていく。それだけではない、頭もズキズキ痛む。
「レオちゃん!?しっかりして!レオちゃん??」
異変に気が付き心配したママンがベットの脇でずっと看病してくれた。だがその声も次第に遠くなっていった。そしてそのまま意識を失った。
♢
目を開けると、疲れ切った表情のママンがウトウトしていた。目にはクマができ髪の毛はボサボサだ。はて?この状況は一体何なのだろうか?上手く思い出せないが・・・そういえば、うなされて眠りについたんだったか。
今何時だ?
窓の外に目を向けると、少しだけ明るい。ということは夕方なのか・・・
「え?何だこれ??」
ママンの頭上に数字が並んでいる。・・・よく見ると・・数が減っている??
「う・・・うぅん。」
俺がモゾモゾしたからだろうか?ママンが艶っぽい声♡を出し、眠気眼を俺に向けた。そしてゆっくりと視線がぶつかる。
「・・・レオちゃん!!」
いきなりガバッと抱きついてきた。ああんっ顔面が、ママンのお胸にめり込んで窒息しちゃうよ///そういえば昔もこんなことがあったような気がするけど。2歳前後になってもう授乳してもらえないと分かった時は、おっさん心がどれだけ絶望したことか。久しぶりの感触です。
「痛いよ。どうかしたの?」
「丸3日も眠ったままだったのよ。もうこのまま目が覚めなかったらどうしようかと、心配で心配で気が狂いそうだったわ。ホントに良かった。」
俺の感触を確かめるようにママンがサワサワしてくるのでこそぐったい。いや、それよりも、、、
「3日!?」
「ええ、そうよ。パパも来てくれてるわ。」
・・・けっこう大ごとになっている。確かに眠りにつく前は辛かったような気がするが、気分的には夜に寝て朝起きた時と何ら変わらない。
う~む。魔力トレーニングは、1日でも休むと感覚を取り戻すのに時間がかかる。こんなことでは落ちこぼれになってしまうではないか・・・
「そっか。ママン看病してくれてありがとう。おかげでもう大丈夫だよ。」
こう見えても精神年齢はそこそこいっているわけで、素直にお礼を伝えた。
しかしその言葉を聞いたママンの表情は、どこか優れない。伏し目がちで思案顔だ。
「・・・。」
「どうかしたの?」
俺が尋ねるとママンはゆっくりと口を開いた。
「あのね、驚かないで聞いて欲しいんだけど・・・レオちゃんの髪と目が黒色に変わってるの。」
「え?」
一瞬言われた意味が分からなかった。いやいや、まさか。そんなことありえるわけがない。急いでベットから飛び降り姿見の前に立った。
すると、そこには確かに黒髪黒目の少年が映っていた。ママンから譲り受けたであろう今までの綺麗な金髪金目はどこへやら、今はオヤジのようだ。というかまあ、元日本人としてはショックでもないし、何の違和感もないのだが。逆にショックを受けているママンを見てショックを受ける。察するに、髪染めでもカラーコンタクトでもないんだろう。ていうかこの世界にそんな物無いか。
「これはこれで悪くないじゃん。」
「レオちゃん・・・」
後ろからママンがハグをしてきた。いわゆるバックハグ。背中に何かが当たっているが、口には出すまい。せっかく俺の心配をしてくれているのに不謹慎だ。
ニヤけるのを我慢して、しばらく鏡に映る美女と俺を眺めていた。
するとあることに気が付いた。鏡にもう一人映り込んでいるのだ。しかもジッとこちらを見ている。
「どうやら私の力も受け継いでいたようだな。」
「!?」
その登場の仕方は本当にホラーでしかない。心臓に悪いので止めてほしいのだが・・
「んん?父さんの力??」
「ママの外見と力を色濃く受け継いでいたから、私の方は発現しなかったと安心していたのだが、ハハハハ、どうやらそうでもなかったようだな。」
「?」
「何かおかしな事は無いか?そうだな、例えば人の頭の上に数字が見えたりとかな。」
オヤジがニヤケながら言う。
うむ。確かに見えるぞ。これが普段からオヤジが見ている世界なのか?
「これは何なの?」
「それはその人の寿命だよ。魔眼が発現したんだよ。」
「えええ!」
「ふはははははは。もちろん私の力はそれだけではない。寿命が見えるのはほんの序章だ。」
「おおおおお!」
「使い方を教えてやるから外に行くぞ!」
「さすがオヤジ殿。」
「ふはははは、よいよい。」
今この瞬間から、ろくでなしオヤジから、オヤジ殿に昇格させてやろう。
♢
「まずはお手本を見してやるからよく見ておくんだぞ!」
「黒炎」
そう言うとオヤジ殿の体がボフゥっと黒い炎で覆われた。メラメラ、ユラユラ、熱くないのだろうか。その様はまるで見るものを強制的に畏怖させるかのような絶対的なオーラを内包していた。一言で言うなら「冷たい」だ。ドラゴンを見た時の恐怖が、パニック映画なら、オヤジ殿を見た時の恐怖はホラー映画だ。
ハンサムなんだが俺の初々しい反応をニタニタしながら見ているため余計に不気味だ。
「あそこの木を燃やすから、その前に魔眼で寿命を確認するんだ。」
うむ。
「113年56時間38分22秒・・・21秒・・・20秒・・」
これに何の意味があるのだろうか?ゆっくりだが1秒ずつ減っているだけだ。あまり意識したことは無かったが、普通に生きていれば誰しも減るのは当たり前だ。
「よく見ておけ。」
オヤジ殿はゆっくりと手の平を前方に向け、黒い炎で木を燃やし始めた。
「どうだ?燃えている木の寿命を確認してみるんだ。」
「はい。」
よく分からないまま、言われた通り目を凝らして数字に集中する。するとグングンと数が小さくなっていく。明らかに先ほどまでとはスピードが違う。年単位で減っているのだ。しかもオヤジ殿の寿命が少しずつ増えている!
「ふぁ!!」
寿命を燃やしている!?しかもそれを自分に!?
「ははははは、驚くのはまだ早いぞ。寿命とは即ち高濃度のエネルギーだ。そのエネルギーを使えば、魔力とは別のアプローチで、本来寿命を縮めてしか使えないような特殊魔法が使えるのだ。どうだ?すごいだろう?」
「えええぇぇぇぇ!!」
オヤジ危険人物過ぎるよおぉぉぉ
「しかもレオはその辺の魔物が本能で魔法を使うように、魔術理論を知らなくても魔法が使えるんだ。私から受け継いだ力と組み合わせたら一体どうなると思う?我が息子ながら末恐ろしい。」
「えええぇぇぇぇぇ!」
俺危険すぎるよぉぉぉぉぉぉ!!
・・・
・・・って勢いで驚いちまったけど、それってすごいのか?他の人間を知らないからよく分からないが・・・俺のレベルなんて良くて平均ぐらいだろ?・・・
「まあ、とりあえず当分の間は、魔眼と黒い炎を制御できるように頑張りなさい。上手くいけば、おそらく元の金髪金目に戻れるだろう。」
「はいぃぃぃぃ!!!」
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今日扇風機を出しました。たまに暑くなるんですよね。
明日も更新します。頑張ります。