黄金のドラゴン
「ママン、いくよ!」
5歳の誕生日を迎えた俺は、いよいよドラゴンへと変身できるか試してみることになった。竜人のハーフと知ってから今日という日をどれだけ待ち望んだことか。転生する前の人生を含めても一番興奮しているかもしれない。ちなみに前世で一番興奮したのは、自販機の下から500円玉を見つけた時だ。10円や100円ではない。500円玉だ。も、もちろん警察に届け出たわけだが・・・
「変身!」
その瞬間俺の体の中で何かが起こった。恐怖を感じキャンセルしようとしたが止め方が分からない。
「カハっ!」
アツイ・・アツイぞ!なんだこれ!!体の芯から熱が噴きだしてきて焼けるような感覚。大丈夫なのか?俺の体はどうなってしまうんだ。これ以上は本当に怖い。
「うおおお!おおお!」
骨格が作り変えられていく。グネグネと何かが蠢いている。自分の体ではないようだ。力が溢れ出してくるのと同時に広がっていく・・・。
そうかと思えば、今度は全身むず痒さを感じ固い皮膚が形成されていった。不思議と重さは感じないが、何重にも鋼鉄でコーティングされていくかのような締め付けられているかのような、、、、
「レオちゃん??」
ママンが心配そうに様子を窺っている。声は聞こえたが、返事をする余裕が無い。その間も俺の体は変わり続ける。竜人とはいえハーフなので、もし変な生命体になってしまったらどうしようかという不安が頭の中ををよぎる。
ダメだもう何も考えられない。早く終わってくれ。一瞬とも永遠とも感じられる、まるで時の狭間に置いてけぼりをくらったような・・・
「・・・。」
・・・
意識が遠くなり、頭の中にモヤがかかっていく。ああ、このまま眠ったらダメだと本能で感じる。だがそれに抗うことがなかなか出来ない。やはりハーフの俺には無理だったのか・・とつい弱気な部分が出てしまう。
「レオちゃん・・・レオちゃん・・・受け入れるのよ!」
この声はママン?
そうだ、ママンはずっとそばにいてくれるのだ。安心して変身すればいい。こんなところでくたばるわけにはいかない。ここで諦めたらママンが悲しむ。それにまだやりたいことが山のようにあるのだ!
「負けるわけにはいかない。」
最後の力を振り絞って声のする方に意識を向ける。
するとその瞬間意識がグイっと引っ張られた。
・・・
・・・どうやら体の変化は終わった?ようだ。
感じる、感じるぞ。今まで感じた事のない力。体の底からからエネルギーが溢れ出してくる。
ゆっくりと目を開ける。すると驚きの光景が広がっていた。
「!?」
まず視界の高さが全く違う。今まで見上げていたものを見下ろしている。
体は・・・・黄金に輝く鎧のような皮膚に猛禽類を思わせる鋭い爪。口には牙が、頭には可愛らしい2本の角がニョキっと生えている。
「ハハハハハ」
成功したのだ。自然と笑いが込み上げてきた。もう一度自分の体をじっくりと確かめてみる。4足歩行ではなく2本足歩行型のドラゴンのため、ちゃんと手を使う事も出来る。もちろん、ティラノサウルスのようなおまけ程度のちゃっちい手ではない。人間の腕に、台形だか六角形のような形をした鱗をビッチリと生やし、大きくしたような手だ。筋肉と鱗の夢の共演だ。
手を動かそうとすると、まだ感覚にズレがあるみたいだが確かに動く。試しにそこらへんに転がっている石ころを掴んでみると、まるで粘土のようになんの抵抗も無く粉々に砕け散った。人間形態とは単純なパワーが桁違いに違う。これがドラゴンが生まれ持った力。
そしてその力はおそらくパワーだけではない。本能的に何がパワーアップしているのか何となく分かる。魔力を練り上げ口から吐き出すと当然のように炎の息吹が放たれた。その威力はまだまだ大したことは無いが、それでも目の前の木は燃えていた。
「ハハハ・・ハハ」
幼竜でこれなら成竜になったらいったいどうなってしまうのだろうか。自分でも恐ろしく思う。
一通り体を確認したところで、頭も働くようになり、そういえばママンもいたことに気が付いた。周りが見えなくなるまで、それほどまでに夢中になっていた。
「ママン?」
「んん?」
やけに静かだと思ったら白目を剝いて仰向けに気絶している。急いで駆け寄り体をユサユサ揺するが瞼がピクピクするだけだ。綺麗なお顔が少しだけ不細工になっている。
むむむむ、こんなことは初めてだ。
どうしよう?
「レオ。」
オロオロしていると突然後ろから声をかけられた。驚いて振り向くとそこにはたまにしか帰ってこないオヤジが立っていた。
気配を全く感じなかった。いつの間に背後に?いや、そもそもいつからいたのだろうか?
ドラゴン形態から元に戻りオヤジと向き合う。
「ママはどうやら驚き過ぎて気絶しているだけのようだから布団に寝かせておけば大丈夫だろう。」
「うん。」
「ふふ、それにしても、まさかレオが黄金の竜になれるとはな。」
そういえば俺の体の色は黄金に輝いている。ママンは真っ白だったはずだが・・そこは遺伝ではないのだろうか。
「黄金の竜?」
「ああ。それにいきなり炎をぶっ放すとは・・まるで、まんまドラゴンみたいだな。もしかしたら・・・ふふ。」
「?」
「まあいい、そんなことよりどうだ?パパと少し力比べでもしてみないか?魔法とか好きなんだろ?」
「うん!」
日頃ママンをほったらかしにしている罰を与えてやろう。俺がお灸を据えてやる!
♢
「こい!」
「じゃあいくよ!」
まずは人間形態だ。全身に身体強化をかけステータスの底上げを図る。今出せる全力のスピードで殴りかかる。と見せかけてオヤジの背後に回り込み後ろを取る。
「オラアア!」
ふっ勝負あったな、ろくでなしオヤジめ。
「ほう。」
パシ!
なに!?こちらを見てすらいないオヤジに軽々と手首を掴まれた。なぜ俺の攻撃が分かったんだ?
「レオの攻撃は分かりやすいんだよ。相手の筋肉の動き、呼吸、体のバランスを見て予測を立てろ。目をつぶっても感じられるようにならなければいけない。」
なんだそれは?くそう!こんなあっけなく負けてたまるか!掴まれたままの右手に炎を纏う。するとオヤジはとっさに手を放した。
「ムっ」
「へっへ~ん!まだまだこれからだよ!」
「炎槍!」
3本ほどの炎の槍をオヤジに向けてぶっ飛ばす。しかしオヤジはそれを顔色一つ変えず、軽く振り払って撃ち落とした。俺の攻撃が全く効いていない。
意気込みだけは良かったのだが・・・それならば今度はドラゴンになるか?いやしかしドラゴン形態になってもまだイマイチ体の感覚がつかめない。
その後も結果は同じく手も足も出なかった。
まあまだ5歳なのだから仕方のないことだが、、、、、絶世の美女であるママンをほったらかしにする、ろくでなしオヤジにすら勝てないなんて。ドラゴンに変身できて、もしかしたら強いのかもしれないなんて一瞬だけ思ってしまったが、やはり俺の力などこの世界のレベルで言えば平均以下なのだろう。目が覚めたママンがあなたは選ばれし者よなんて言ってくれたけど、そんな気遣いは却って傷つく。
おまけに話の成り行きで、オヤジが帰ってきた時は、剣や魔法の稽古をつけてもらうことになってしまった。本来なら、ろくでなしから教えてもらうことはないのだが・・・仕方あるまい。今の俺より強いのだから。少しでも稽古して、せめて笑われないようにしなければ。
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