竜人
事件が起こったのは俺が5歳になる直前だった。いつもの時間に起床しリビングに行くと、いつもおはようと言ってくれるママンがいなかったのだ。不安に襲われどこにいるのかと探していると、窓の外に衝撃の光景が広がっていた。
な、なんと細くて華奢なママンが、森の動物たちに囲まれていたのだ。大きなオオカミやクマまでいる。目はギラつき口からはよだれが垂れている。このままでは大好きなママンが食べられてしまう。
助けなければ!そう思い急いで外に出ようとした。しかしその瞬間、目の前が発光し何も見えなくなった。恐る恐る目を開けてみると、さっきまでママンが立っていた場所に、大きな翼と尻尾、鋭い爪にギザギザの歯を持った真っ白なドラゴンがいた。
「「えええぇぇ!」」
「ママはどこ???!!」
も、も、もしかして食べられちゃったのか? それとも、あ、あ、あ、あの、あのドラゴンはママンなのか???
そ、そんなことあり得るのか??何が起こったんだ!?
動物たちは今の俺とまったく同じ状況のようだ。いや俺よりもひどいかもしれない。汗が拭きだし顔色は真っ青になっている。中には白目を剝いている奴もいる。
ええいっゴチャゴチャ考えている場合ではない。とにかくママンがどっか行ってしまったのだ。なんとかして助けなければ。
震える足を奮い立たせ外に出る。しかし大きなドラゴンが体の向きを変え俺と向かい合った。
「ぎゃああああ~~~~~!!」
その姿はまさにファンタジーに出てくるドラゴン。食われる。頭の中に浮かぶのはその単語だけ。全身に鳥肌が立ち体温が急激に下がる。足は力が抜け立っていることが出来なくなった。ストンと尻餅をつき後ずさる。・・・目が合った。どこかで見たような気もするが、、、、あああ、、、ドラゴンの口元から笑みがこぼれている。食われる食われる。俺はまだ小さくて美味しくなんかないのにぃぃぃ!
もうダメぽ。そう思いこれまでの人生を回顧する。思い出すのはママンのことばかりだ。短い間だったけど、もうほっぺをハムハムされることも無いんだ。グスングスン。どうせなら俺からもハムハムしておけば良かった。やはりアレは役得だったのだ。
ギュッと目をつぶり運命の時を待つ。
・・・しかしいつまでたってもその時は訪れない。疑問に思いうっすら目を開けるとドラゴンはまだこちらを見ている。
「レオちゃん、ちょっと待っててね!」
「!?」
・・・ドラゴンが喋った。ママンの声だ。
「マ、ママなの??」
俺が小さな声で聞くと、ゆっくりとその大きなツノの生えた頭を縦に振った。そして再び動物たちに向き直り低い声で一回唸った。底冷えするような冷たい声だ。俺に向けられたものでは無いが股間が縮み上がった。
当たり前だが、ドラゴンと森の動物たちでは、生物としての格が天と地ほど差があるらしい。気絶した奴以外は尻尾を巻いて逃げだした。ママンが食い殺さなかったのは、庭が汚れるからなのか、俺に見られるのが嫌だったからなのか分からないが、アイツらは命拾いしたようだ。
何が起こったのか頭の整理が追いつかず呆然としていると、目の前にモジモジした人間の姿をしたママンが立っていた。どこか恥ずかしそうでもある。まるで好きな子に告白をした女の子のようだ。
「ママンはドラゴンだったの??」
「黙っててごめんね。ドラゴンていうか竜人なの。この姿ももちろんママだし、ドラゴンの姿もママだよ・・・嫌いになっちゃった?」
「うおおおおおおぉぉぉ!かっけ~~~~!!」
やばいよやばいよ。涙が止まらないよ!カッコよすぎるうううううぅぅぅぅ!
「ていうかママが竜人ってことは俺もドラゴンになれるってこと!!??」
「う~ん、レオちゃんはたぶん竜人族の歴史上初めてのハーフだからね~たぶん練習すればなれると思うけど、でもまあどっちみち5歳になれば分かるよ。」
「5歳?」
「うん。普通は5歳で幼竜に変身出来るようになるから。」
「よっしゃ!」
ママンは俺が喜んでいるのを見て嬉しそうだ。竜人族だと知って喜ばない要素が一体どこにあるというのか?良いことしかないように思うがマイノリティだったりするのか?
ていうか俺ってハーフなのか?笑
「じゃあパパって何族なの??人間??」
「う~ん、人間っていうか~ゴニョゴニョ・・・(魔人族っていうか~魔王っていうか~)」
「え?よく聞こえなかったんだけど??」
「そんなことより、背中乗ってみる??」
「え?もしかして飛べるの??」
「もちろん!」
感動して放心状態の俺を、ママンは大きな爪でヒョイとひっかけ背中に乗せる。大きくて温かい背中だ。皮膚はとても固くあらゆる攻撃を受け付けそうにない。
2,3回、大きな翼をバタつかせたかと思うと大空へと舞い上がった。不思議と体への振動はほとんど無かった。おそらく気を遣って飛んでくれているのだろう。グングンと急上昇を始める。
「あわわわわわ!」
あっという間に、家がミニチュアのオモチャのように小さくなった。上空から見ても辺り一帯は森しかなかったが、地上からではまず拝むことのできない光景だった。なによりも太陽が近いのだ、実際はものすごく距離があるはずだが、これ以上近づいたら焼け落ちてしまうのではないかと心配になってしまうレベルだ。それだけではない。目の前に雲が浮かんでいる。流石に掴むことは出来ないがヒンヤリとした空気を体で感じる。
「すっげ~~~~!」
「喜んでくれた?」
「うん!」
「ふふふ、あ、そうだ。ちょっとイタズラしちゃおっか。笑」
「?」
すると綺麗なママンからは想像もできないようなドラゴンの咆哮が世界に響き渡った。木で休んでいた鳥たちは危険を感じブワっと一斉に飛び立つ。一体どこにそれほど隠れていたのか分からないが、空が一面真っ黒い鳥たちで覆われる。そしてその中を我が物顔で突き進む。いわしの大群に海の王者とも、海のギャングとも言われるシャチを投入したかのような光景だった。まるで空の支配者になったような高揚感が体を駆け巡った。
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」
俺も真似して雄たけびを上げる。
「ふふふふ。」
その様子を見てママンもニッコニコだ。
今日のこの体験を一生忘れることは無いだろう。飛行機で飛ぶのとは訳が違う。それほどまでに鮮烈な出来事だった。空を飛べる種族だけに与えられた特権、普通の人間には味わうことが出来ない体験。いつもでもこの時をママンと共有していたいと思ったが、あっという間に時は流れ終わりの時間は訪れる。
上空何千メートルもの高度から王都を眺めたあと我が家に向けて旋回する。
人間とは本当に感動したら言葉が出てこなくなるらしい。無言のままママンの温もりを感じながら、庭に下り立った。木の葉がブワッと舞い上がり枝がゆさゆさ揺れる。
夢のような時間から目が覚め、そこでようやく感情が溢れ出してくる。
「ママン、しゅきしゅきしゅき~♡♡♡」
思わず足首がキュッとした細い足に抱き着きスリスリする。
「ふふふふ、ママもレオちゃんの事大好きだよ。ママのところに生まれてきてくれてありがとう!」
「う~そんなにギュッとしたら苦しいよ~、あ、ハムハムしないで~えへへへへ♡♡♡♡」
そしていよいよ待ちに待った5歳の誕生日がやってきたのだった。
評価してくださった方ありがとうございます!コツコツ頑張っていきます。
なんとか明日も更新したいと思います。そのうちペースを調整すると思いますがご了承ください。




