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ベビーパンチ

 今日は初めてのお散歩デビューだ。今までは狭い家の中と小さな庭にしか出たことが無かったが、今日はお弁当を持ってママンと一緒にお散歩するのだ。当たり前だが一面森に囲まれているため、ご近所さんなんているわけないし、ピクニックにちょうどいい芝の公園があるわけではないので、お散歩=森の探索だ。


「ママン!早く!」


 どれだけこの時を待ち望んでいたことか。何歳になっても、もちろんおっさんになっても冒険したいという気持ちは変わらない。大昔に、近所裏山に秘密基地を作って遊んでいたのを思い出す。


 ううう~待ちきれない!森の中は少し不気味だがそれよりも好奇心が勝る。


 ママンを置いて道なき道をズカズカ進む。落ち葉を蹴散らしながら走ると音がシャカシャカ鳴って面白い。それにフワフワしていてまるで天然のベットのようだ。ガバッと掴んで真上に放り投げるとヒラヒラ舞い落ちてくる。何回かそれを繰り返していると良いことを思い付いた。


 新たな修行方法。自分で舞い上げた落ち葉を、地面に落ちる前に全てキャッチする。まずは10枚で挑戦してみる。すると案外簡単に成功してしまった。大人と違い背が低いので、落ちるまでの時間が短いはずだが、まるで止まっているように見える。


「ハハハ、これ楽しいな。」


 今度は30枚に挑戦してみよう。先程の感覚からいくとまだまだ余裕はあった。1枚1枚丁寧に拾ってからパサッと放り投げる。時間にして3秒ぐらいだろうか。俺の手には見事に30枚の葉が握られていた。もちろん向きも揃えてキャッチしている。


 お?葉っぱ拾いに夢中になってママンがいるのに気が付かなかった。少しだけビックリした顔をしているようだが、何に対して?


「どうかしたの?」

「え?いや、何でもないよ。それよりママを置いて行っちゃダメでしょ!」

「うん、ごめんなさい。えいっ」


 もちろん反省などしていない俺は、地面に散乱していた葉っぱをガバッと掴みママンに向かって放り投げる。その数100枚以上。


「アハハハハハハ!葉っぱまみれ・・・・え?」


 ママンを(おお)っていたはずの葉っぱが一瞬にして消えた。手にはこんもりと重なった葉っぱが握られている。


「もう。」

「すっげ~流石ママンだね。」

「そんなことないの。ママは、か弱いんだから。」


 どこか恥ずかしそうに言うママンに衝撃を受けた。・・・か弱い?・・・・そうか、この世界ではママンはか弱いんだ。2歳の時から内緒で筋力トレーニングを行ってきた俺とは違うのだ。精神年齢が30オーバーにもなって、そんなことにも気が付かず1人で森の中を爆走していたのか。本来ならば男の俺が守ってあげなくちゃいけないのにもかかわらず・・・俺は何てことを・・森の中は危険がいっぱいなのだ。


「ママンのことは僕が守るから。」

「え///」

「僕から離れないでね。」

「う、うん///」


 そうと決まればより慎重に周囲に注意を向ける。先程までは気が付かなかったが小動物がたくさん生息しているようだ。木の上から俺達の様子を窺っている。なんとなくだが直感的にそこに何かがいる、というのが分かるような気もする。



「ん?」

 前方から何かが接近してくる気配がする?



「あ!イノシシだ!」

 俺の体よりもはるかに大きいイノシシが勢いそのままに突進してくる。どうする?ここで俺が逃げたら後ろにいるママンがケガをしてしまう。不思議なことに恐怖はそれほど感じない。いける!


「レオちゃん!危ない!」



「大丈夫!ママンは危ないから下がってて!くらえ!ベビーパンチ!」


 俺を(かば)おうと前に出たママンのさらに前に出て、タイミングを合わせ、渾身の一撃を鼻にお見舞いしてやった。するとイノシシは目がグルンとなり泡を吹いてぶっ倒れた。


「「えええ?」」

 ママンはなぜか口をパクパクさせて驚いている。初見だったがまったくたいしたことのない奴だった。そんなに驚くことだろうか?おそらく日本にいるイノシシよりだいぶ弱い種族なんだろう。


「イノシシって大したことないんだね。一発でノビちゃうなんてさ。」

「え?・・ええ、そうね。はは・・ははは。とにかく無事で良かったわ。」


 やっぱり日本のイノシシより大したことないんだな。


(どうしましょう。竜人レベルで考えても3歳児なのに規格外過ぎるわ。きちんと力の使い方を教えてあげないと何かしでかしてしまうかも。)


「と、と、とりあえずこのイノシシは今日の夜ご飯にしよっか?」

「うん!」


 よわっちい奴だったけど食べれる箇所は多そうだ。直接口に出すことは出来ないが、うちは貧乏なので少しでも役に立てたなら筋力トレーニングをしてきたかいがあるというものだ。


 地面に寝ころんでいるイノシシを片手でヒョイと持ち上げる。


「えええ!」


「どうしたの?」


 今日はやたらとママンが大声を出すのだが・・・


「い、いやなんでもないのよ。あ、そうだ!これからは毎日ママと魔法で遊んだり力比べしてみない?」

「え?するする!約束だよ!」



 そんなこんなで次の日からママンと遊ぶ時間が増えた。今日はかけっこをするらしい。俺はまだ3歳なので、40メートルのハンデをもらって50メートル走をしてみたが、余裕で負けてしまった。実質俺は10メートルしか走っていないのにだ!


「う~あんなにハンデあったのに負けちゃったよ。」

 なんて低い身体能力だろうか・・・か弱いママンにすらボロ負けするなんて才能がないのかもしれない。


 ショボ~ン


「いや、レオちゃんもすっごく速くてビックリしちゃった。」


 うううぅ、ママンが気を遣って慰めてくれている。特別ママンが速いのかと思ったけが、実際は俺が遅過ぎるだけだろう。負けた上に情けをかけられるなんて、男としてのプライドが少し傷ついた。


「ママン、もう一回やろう!今度は最初からちゃんと全力で走るから!」

「え?レオちゃん今の全力じゃないの??」

「うん。だってママンは、か弱いしあんなにハンデあったから最初は様子見してたの。」


(私の事をか弱いと思っているのは世界でこの子だけじゃないかしら。わ、私だってたまにはそう見られたいけど・・・いや、それよりもどういうことなの!?こっちは身体強化使って走ったのよ。ハンデが大きいとはいえレオちゃんは素であの速さ、しかも最初は手を抜いていたですって??)


「うん、いいわよ!ママ負けないから。」


「よ~い、ドン!」



 ・・・


 ・・・またママンに負けてしまった。こんなハンデがあって勝てないなんて・・・俺はこの世界でおそらく平均以下の身体能力しかないのだろう。


 ショボン。



(ハア、ハア。ちょっとだけ全力を出してしまったわ。少し大人気無かったかしら?)


「レオちゃん落ち込む必要はないのよ!ママが走り方教えてあげるから。」

「ほんと!?」

「もちろん!ゆっくりでいいから覚えていきましょ。」

「うん!」

「早く走りたいときは、魔力を足にまとえばいいのよ!」

「!?」


 なるほどそんなこと考えたことも無かった。普段から魔力は練っているからそれを足に集中させればいいのか。


 お?おお?


 なんだかムワンとして足が温かい。それに軽くなったような気がする。試に一歩走ってみる。


 すると先ほどまでとは全く違う速さを感じた。風を切る感覚とでも言えばいいのだろうか。振り返ると踏み込んだ地面の土が少し(えぐ)れている。


 その後、足に身体強化をかけた状態なら、ハンデが30メートルでも勝てるようになっていた。


 これはいい!おそらくママンは俺の機嫌が悪くならないように適度に負けているだけだろうが、もしかしたらこの世界の3歳児の平均ぐらいにはなれたかもしれない。


「そうそう、そうやって魔力を上手く使うのよ。例えば今のを応用して、手に集めればパンチ力が上がるし、全体にかければ身体能力が底上げされるの。言ってみればこれが基本中の基本みたいなものね。」


 おおおおお!目から涙が止まらないよ!すごい!すご過ぎるよ!!子供にとって足が速いかどうかは、異性からモテるかどうかの大問題だ!これで落ちこぼれにならずに済むよ!


「ママ~しゅきしゅきしゅき♡♡♡」


 感動のあまりママンの足に抱き着いてスリスリする。


「もお~甘えんぼさんなんだから。でもそんなに喜んでくれるならママも教えがいがあるな。ふふふ。」


「ママン、次は何教えてくれるの!?」


「う~ん、じゃあこれなんかどう?たまに使ってるけど、、、ファイアーボール!」


 シュポ!


 小さな火の玉が勢いよく飛んでいき木を燃やした。暖炉の火をつけたり、お肉を調理する時などたまに見たことがある魔法だ。おそらく初歩の初歩なのだろう。


「っていってもまずは魔法の理論を正確に理解して詠唱文を言えるようになるところから頑張らなくちゃね!」

 

「ファイアーボール。」


 シュポ!


 おお!なんだか知らないが見よう見まねでやってみたら火の玉が出た。魔力を練ってイメージしただけだ。


「え?」

「ママン?魔法って結構簡単なんだね。」


「「えええええぇぇぇぇ!」」


「ん?」

「レ、レオちゃん。え、え詠唱文を何で知ってるの?ていうか魔法の理論はどうしたの!?なんで無詠唱なの??」

「そんなの知らないけど・・・イメージしたら出たよ?」

「ど、どういうことなの!??」


 ・・・何か悪いことをしてしまったのだろうか。ママンが困惑の表情を浮かべている。 


「でもママンも魔法の名前を言っただけで何も詠唱してなかったじゃん?」


「そ、それは何度も何度も繰り返し練習して、心の中で最適解のスピードで言えるようになったから無詠唱にみえるだけよ。特に簡単な魔法は詠唱文が短いから。あああ、どうしましょう。ああ、こんな時こそ落ち着かないとダメだわ。レオちゃん何かの間違いかもしれないし、もう一回やってみて!」


 シュポ!


「ギャアアアーーーーー!」



 レオナルドが寝静まったある夜、黒髪黒目の男が家を訪れていた。


「まあ、今日1日ぐらい城を抜け出しても大丈夫だよ。」

「そう、なら良かったわ。あまり無理しないでね。」

「ああ、ありがとう。ところでレオナルドは元気か?」

「もちろんよ!・・・しかもね」

「?」

「規格外の力を持っているわ!詠唱しなくてもイメージしただけで魔法が使えてしまうみたいなの。」

「なに!?それは本当なのか!?」


 印象的な黒目が驚愕に見開かれる。


「ええ。魔法に対する興味もすごくてスポンジのように吸収していくわ。」

「俄かには信じがたいが・・・本能で使えるというわけか?それは凄まじいな。たまに話を聞く限り才能はあると思っていたが・・」



「ムニャムニャ~ママ、おしっこ~」

「!?」

「レオちゃん!起きちゃったの?」


 寝ぼけ(まなこ)をゴシゴシしているが開いていない。


「ん~~オヤジ・・・じゃなくてパパ?」


 その様子を見て2人は微笑んだ。規格外といってもまだまだ守るべきかわいい子供なのだ。


ブックマークありがとうございます!力になります!!


まだ最初なんで明日も頑張って更新します!

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