不思議な石
それから5か月ほどが経った。元日本人としての記憶のおかげで著しく成長が早く、今では家中をハイハイしてブイブイいわせている。そして分かったことがいくつかある。
まずこの小さな家には俺とママンしか住んでいないということ。黒髪黒目のオヤジはたまに帰ってきたと思ったらすぐに出て行ってしまうのだ。こんな綺麗なママンとかわいい赤子がいるくせにどこをほっつき歩いているのだろうか?
おかげでオヤジに抱っこされてもどう反応したらいいのかちょっと困る。一応ママンに教えられたように「パパ」とだけ呟いてやると、嬉しそうにするので愛されているのは確かだと思うが、、、
あとはおそらくこの場所は森に囲まれたド田舎だ。窓の外には木しか見えない。木以外は何もない。東京で生活していた俺にとって考えられない状況だ。お店も携帯もゲームも漫画も無い。何も無いのだ。
しかし今の俺にとってはそんなことどうでも良かった。なぜならばこの世界には魔法がある。それだけで俺の心は満たされていた。
「ママ・・・まほぉ。」
「ふふふ、レオちゃんは本当に魔法が好きね。」
「バブ。」
「あはははは、もうホントにかわいいわ。食べちゃいたい♡♡♡」
そう言って俺のプニプニほっぺをハムハムしてくる。そのまま小さな体がコテンと転がりママンに押し倒される。精神年齢30オーバーのおっさんを20代の金髪美女が押し倒す。なんとなく申し訳ない気持ちになるが、これを受け入れるのが今の俺の仕事の一つだ。役得に聞こえるかもしれないが、少し冷静になって考えてみて欲しい。こうなったら10分はされるがままなのだ。もちろん拒否をすることなど出来ない。疲れている時も眠い時もお腹が減っている時もだ。
え?羨ましいって?
それならこれも考えてみてくれ。目の前の美女に誘惑されても絶対に興奮してはいけないと言われたらどうだ?我慢し続けるのがどれだけ辛いことか・・・少しは分かってくれたかな?
まあこの話はこのぐらいにして話を元に戻そう。
いつものように俺で充電して満足したママンは、ホクホク顔でどこからともなく丸い石を持ってきた。真っ白い石で大きさはビー玉の大玉ぐらいだ。何をするのか見ていると左手でグッと握った。すると不思議なことに真っ白だった石が真っ黒へ変化した。
「!?バ~ブ??」
間違いなく何かしらの魔法だと思うが。
興奮のあまりママンから真っ黒になった丸石を奪い取った。至近距離で観察しても何のくすみも無い深い漆黒だった。まるで、もとからこんな色でしたよといわんばかりである。
「ふふふふ。」
ママンは俺の反応を楽しんでいるだけで、赤子の俺にいちいち説明をしてくれない。
むむむむ。
「だ!だ!」
右手に持ち必死に訴えかける。説明をしてくれ!説明を!
すると俺の気持ちが伝わったのかもしれない。ママンが微笑みながら口を開いた。
「今のはママがこの石に魔力を込めたんだよ。ふふふふ。」
なるほど!!うおおおお!わくわくするぞ!グってやったら石の色が変わるなんて!
グって!
パリン!
「え?」
ママンが目を見開いている。
何となく力を入れたら丸い石が粉々に割れてしまった。どうしよう、せっかくママンが遊んでくれていたのにいきなり壊してしまうなんて。うぅ~怒られるかもしれない。
と思ったのもただの杞憂に終わった。
「レ、レオちゃん!すごいわ!!もう一回やってみて!」
なぜかママンが興奮している。まったく怒っていないぞ?それどころか割れた石を再び真っ白な丸石に戻し手渡してきた。
・・・戻せるのかよ!一瞬で元に戻せるのかよ!そりゃあ怒らないはずだ。
まあいい。
先ほどと同じようにグッと握ってみる。すると黒色に変色したかと思うとまたしてもあっけなく粉々に砕けた。
興奮したママンはギュッと抱きしめてきた。そして高い高いをしながらクルクル回る。目が回る、目が。
「レオちゃんなんで普通に魔力込めてるの?しかも粉々にしちゃうなんて!一体どれだけの魔力を持っているのよ!!天才よ!!」
チュッチュッチュ
ああんっ♡♡♡
「ママ~///」
んんん~恥ずかしいよ。
♢
それからというもの毎日真っ白な丸石で遊んだ。不思議なことにこの石はゆっくりと慣らすように魔力を込めると大きくなるらしく、1歳半になった今では、顔の大きさぐらいある丸石を割らないようにコントロールしている。
といってもことあるごとにママンがギュッとしてくるので、気が散ってすぐ割れてしまうのだが。
「ママン・・痛い。」
「だって~かわいいんだもん。レオちゃんは私だけのものよ。しゅきしゅきしゅき♡♡♡」
「う~~~///」
嫌ではないが恥ずかしいので逃げる。もちろんすぐに捕まることは分かっている。むしろ捕まるのを待っているのかもしれない。おっさん心は複雑なのだ。いや間違えた!子供心は複雑なのだ。
「もぅ・・割れちゃった。」
「えへへへへ、ごめんね。じゃあお詫びにすごいもの見してあげる。よく見ててね。」
「んん?」
ママンはえっへんと胸を張り一瞬で丸石を真四角に変えてしまった。まるで生き物のようにグネグネっとしていたが、俺がふんだくった時にはただのカチカチの石に戻っていた。しかもヒビ一つついていない。
「!?」
「ふふふふふ、どおママすごいでしょ?」
なんだこれは!魔力の扱いに長けるとそんな事も出来るようになるのか・・・ドヤ顔が少しイラっとくるが今はスルーだ。
すぐに試してみたがなかなか難しい。割れはしなかったが思うように形成できない。ただ丸を大きくするだけなら均等に力を加えてやればいいのだが、どうやったら直角が作れるのか分からない。それにどうしてもつっかえるような感覚が抜けない。少しだけ調子に乗っていたが、まだまだ上手くコントロール出来ていないということだろう。
まあまだ1歳半なのだ。焦る必要はない。これからもコツコツやっていこう。
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とりあえず次回も明日更新します!