入学式でやらかす
ママンに合格したと手紙を出そうとしたが、よく考えたらあんな山奥に運搬してくれる人などいるわけも無く、泣く泣く断念した。そのうち、ちゃんと帰ることを心に誓い朝ごはんを食べて学校へ出発する。
徹夜で考えた新入生代表の挨拶を、呪文のように唱えながら門まで行くと、高価な装飾を施した馬車が目の前で止まった。
「そこのお前!頭が高いぞどけ!こちらに乗っておられる方をどなたと心得る!」
・・・知らんけど。
すると中にいる誰かが声を出した。
「もういいぞここで。」
「はっかしこまりました!」
そう言って周りを威嚇するように降りてきたのは、入試の実技試験で的を5つ当てていた目つきの悪いアイツだった。今日も長いシルバーヘアをオールバックで寝かしつけている。
幸先の悪いことだ。向こうも俺に気が付いた。
「げ!?、チっふん。」
一瞬ギョッとしたが、すぐに仏頂面になった。そして舌打ちして顔をプリプリ。ありゃ反抗期だな。牛乳でも飲んでカルシウムを摂取した方が良い。それにしても・・・げっチッふんwwwwなんだそりゃ。
気を取り直し、クラス分けの掲示板を確認していると肩をトントンされた。振り向くと唯一の知り合い、前髪イケメンが微笑んでいた。げっチッふん君とは眩しさが違う。
「レオナルド!」
「おおルークか。」
どうやら同じクラスになれたようだ。今年の合格者は110名で6クラスに分かれるらしい。俺とルークのクラスは上位10名の特待生クラス。残りの100名は1組~5組まで20名ずつ分けられている。
予定では、入学式をしてからクラスごとに分かれるらしいので、まずはホールまで移動する。
♢
今日のメインイベント、入学式の会場ホールは、3年生と2年生がすでに列をなして待っている。こないだも先輩たちをチラッとみたが、全員もれなくガラが悪い。リーゼント、モヒカン、特攻服、ピアス、剃り込み、セカンドバック、刺青、タバコ、酒。逆にここまでガラが悪くて、よく入学式に出席するもんだ。普通サボりそうなもんだが。
「なんかこの学校の生徒大丈夫なのか?」
「ああ、レオナルドは知らないんだったな。ここは別名、天下の不良魔法学園だよ。」
「え!?」
「日夜主導権争いが勃発するらしいから街中の方が逆に安全かもしれない。強いものが全てを制するってもっぱらの噂さ。」
・・・どえらいところに入学してもうた。しかも主席の俺は一番最初に入場するらしい。当然在校生たちも先頭が首席だと知ってるわけで・・・真っ先に目に入るのは俺だ。
「新1年生入場!」
司会のアナウンスとともに歩きはじめる。極力誰とも目を合わさぬようにレッドカーペットを見つめる。場内はちょっとしたオーケストラが行進曲のような演奏をしているが、もちろんまともに聞いてる奴はいない。
ザワザワ
・・・
・・・
「オホン、皆の者静粛に!これより第346回ドウラン魔法学院入学式を開催する。」
校長らしき人物が、雛壇中央の台に手をつきながら宣誓を行った。ていうかその人物は見たことがあった。あの時の爺さんだ。
「「ウオオオオォォォォォ!っしゃあああああ!」」
在校生がここぞとばかりに声を張り上げる。野郎の声しかしない、実に男臭い雄たけびだ。
その後は校長による式辞、来賓による挨拶と当たり障りのない長い話が続いた。
この日、まあまあの盛り上がりを見せたのは、新3年生の(仮)総長が登壇した時だ。
「新入生諸君!新3年生のグレイだ。俺はこの学校のてっぺん、といってもまあ、ドウラン祭が行われるまでの暫定総長だが。この学校は力こそすべて!卑怯なんて言葉は存在しない。運も駆け引きも全てを含めてその個人の力と見なされる。弱い奴の意見など誰も聞きはしない。それが嫌なら強くなれ。強いものの意見にはそれ相応の強制力がある。総長になれば何でもできる。俺はこの座にて、いつでも君たちの挑戦を待っている。以上!」
「「ウオオオオオ!!」」
「「ぶちのめせ!!」」
「「オラアアアアァァァ!!」」
パフパフパフ~パラリラ~パラリラ~
本当になんて学校に入学してしまったのだろうか。ため息をつかずにはいられない。しかも次は、、、、興奮した在校生の旗が舞う中、司会の先生がチラリとこちらに目くばせしてきた。(仮)総長が作り出したこの雰囲気でやるなんて・・・キラーパス過ぎる。まあ仕方ないんだが・・・
「続きまして、新入生代表レオナルド君!」
「はい!」
いよいよ時が来てしまった。深呼吸をしてから登壇する。こんなものは無難に終わらしてしまえばいいんだ。無難に。
「え~この良き日に、私たちはドウラン魔法学院の入学式を迎えることになりました。本日はこのような立派な式を行っていただき大変感謝しております。」
「つまんね~ぞ~」
先制パンチと言わんばかりにヤジが飛んできた。だが俺はそんな挑発に乗るほどお子ちゃまではない。なぜなら精神年齢は40歳を超えているのだ。
「私は今までずっと森の中で育ってきました。ですので少し常識に疎い部分がありますが、3年間1日1日悔いのないように大切に過ごしていきたいと思います。」
「オラオラオラ~」
「こっち見ろや~しょんべんたれ~乳臭いぞ~」
「ブフフフフ。」
どうやら3人組を中心にその周りがうるさいようだ。
「・・・。」
だがあんな奴ら相手にしない。無視だ無視。
「そして生涯の友を作ることができたらなとそう思っております。」
「優等生ぶってんじゃね~ぞ。」
「・・・先生方、来賓の方々これから厳しいご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします。時には・・・」
「シカトこいてんじゃね~ぞ。この後さっそくかわいがってやるよ。ハハハ、ママのところに帰った方が良いんじゃないか?でべそのかあちゃんが待ってるぞ。」
「ギャハハハハハ。」
「・・・ああん?」
今までシカトしていた俺が反応したことで一瞬空気がシンとなった。
心の中で相手にしてはいけないと分かってはいるが・・・俺にとってママンに対する侮辱は許すことが出来ない。なぜならあんなにも美人のママンは国の宝だからだ。人が下手にでりゃいい気になりやがって。
「お前の母ちゃんで~べ~そ~」
まだ言うか!しかも会場が笑いに包まれた。これは見過ごすことは出来ない!
「今の言葉訂正しろ。」
「あん?何だコイツ??」
「お前もしかしてマザコンなのか?」
「ギャハハハハハハハ、なんならもっと言ってやろうか?お前の母ちゃん今頃男連れ込んでよろしくやってんぞ。なんなら今度俺達が相手してやるよ。」
「おいおい俺はおばさんは勘弁だぞ。」
「ウヒョヒョヒョ。」
バン!
メキメキメキ・・・ガシャーン
「もういっぺん言ってみろ。」
つい目の前の台をぶん殴ってしまった。縦に亀裂が入り、あっという間に左右に真っ二つに割れた。教師陣はアワアワしている。
ザワザワザワ(オイ、あれってあんな柔らかい物なのか?そんなわけねーだろ!)
あちこちでそんな声が聞こえる。
「うるさいぞ。」
俺の一言で会場はシンとなった。
絡んできた不良共は取り乱しながら、それでもまだやる気のようだ。
「な、な、なんだと!」
「な、な、なに学校の備品ぶっ壊してんだ。こ、こ、校則い、違反だぞ。」
「知るか!!」
「「えええぇぇぇぇ!開き直った~」」
「で、どうすんだ。俺と母上に謝罪すんのか?」
もちろん教員がステージの脇で俺に土下座しているのはノーカンだ。本人たちじゃないからな。
「てんめっ舐めてんじゃね~ぞ!」
3人組が一斉に登壇し殴りかかってきた。会場のボルテージは最高潮になり、興奮して囃し立てる者が大多数だった。教師たちは妙にオロオロしていたがなぜだろうか?なぜかドラゴン、ドラゴン連呼している。
ケンカを吹っかけられた俺はそれを一歩も動くことなく適当にいなし手刀を入れた。3人とも白目を剝いてドサっと倒れ込む。たった一撃だ。見物人たちは何が起こったのか分からず、一瞬シンとしたが、ドヨメキと歓声が遅れて上がった。
「ウオオオオォォォォ!やりやがった!!」
ハアこんなハズではなかったのだが・・・結局俺の挨拶が一番盛り上がってしまった。教師たちに引きずられて運ばれた3人を尻目に、元の場所に戻るとルークがニヤニヤしていた。
「さすが首席だな。いきなり上級生をノシちまうなんて、これから大変そうだけどな。」
「え?」
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今日はこれから用事があったのでなんとか仕上げまして・・・滑り込みセーフです。